クレイマーズ・ハイ

砂浜に降りたった私は、パラシュートをかき分けた。さっきまで乗っていた飛行機はもう見えない。

空中に投げ出された時は、視界がすべて青だった。

必死だった。空の青と海の青がグルグルと回った。スカイダイビングの経験なんてない。すぐにパラシュートの紐を力一杯引いた。グン!と背中が引っ張られる。しかし、のん気に空中散歩というわけにはいかなかった。眼下は大海原だ。どこに降りろというのか。

一面の青の中に緑が見えた。島だ。あそこに降りなければ。身体を振り、無我夢中でコントロールする。高度が下がるにつれ、岩山や森がはっきりとした輪郭をもって現れた。砂浜に転げ着いたのは奇跡としか言えない。

戻ったら即、クレームを入れてやろう。

確かに「もうやだ、降りる、飛び降りる!」とは言った。隣の席の赤ん坊が泣きやまず耐えられなかったのだ。半分本気だったが、まさか本当に降ろされるとは。パラシュートを装着させる手際からすると、乗務員はこういう訓練を受けているのだろう。企業ぐるみでこんなこと、許されるわけがない。乗務員のネームプレートもしっかり見た。携帯を開く。圏外だ。

ここはどこだろう。

砂浜には人工物がなかった。ボートもパラソルも、なにもなかった。ホテルなど、建造物の姿も見えない。内陸には森が広がっている。深く、暗く、どこまで続いているのかわからない。

飛行機が無人島に不時着するなんて使い古された設定だ。海外ドラマでもあった。そんな手垢のついたシチュエーションに自分が置かれるなど、不安よりも不愉快でしかたなかった。

人の気配を探して森に入った。冷静でなどいられなかった。不愉快。不快。誰かいないのか。出てこい。この不愉快を吐き出させろ。背丈ほどの茂みをかき分ける。

沼に出た。

森の中にぽっかりと沼がある。湖とまでいかないがかなり大きい。淀んでいて深さはわからない。

沼の周囲を回ってみが、すぐに何かにつまづいて転んだ。腹が立ったが、その何かを見て血の気が引いた。

骨だ。動物の骨。牛かなにかの、かなり大きな頭蓋骨。改めて見回すと、あちこちに骨が散らばっている。何頭分あるのだろう。死体が骨になったのではない。なにかが骨を、いや、肉を貪り喰った痕跡…

気味が悪くなって来た道を戻った。肉を食べた何物かのことは考えないようにした。なんでこんなことになったんだ。冷静にパラシュートをつける乗務員の顔が浮かぶ。いや、そもそもはあの赤ん坊だ。ひきつけでも起こすのかというぐらい泣きわめいて。親も親だ。飛行機なんて乗せるんじゃないーーー

視界が真っ赤になった。

怒りで、ではない。空が、海が、赤い。砂浜に出た私を照らすのは、大海原に沈む夕日だった。

不意打ちを食らって、頭の中が真っ白になった。夕日が白を赤に染めていく。私の中に夕日が入ってくる。体の力が抜けて、へたり込んだ。

私は泣いた。やっと涙が出てきた。そこからはもう一気に泣いた。泣きじゃくり、しゃくりあげ、また声を上げて泣いた。そうだ、私だって、私だっていつかは赤ん坊だったじゃないか。喉が枯れても、涙は枯れなかった。止まらなかった。泣いて、泣いて、泣いた。

森の暗がりの中で、ドボン、と、鈍い音がした。

それが泣き声のクレームだと気づくのに、時間はかからなかった。

※参考
再生JALの心意気/さかもと未明(漫画家)

泣き叫ぶ乳児にブチ切れてクレーム……さかもと未明の“搭乗マナー”が物議

「掛け算順序問題」の解決法を考える

「リンゴが2つ乗ったお皿が5つあります。リンゴは全部でいくつありますか」という問題に、5×2=10と答えるとバツをつけることがあるらしい。

ちょっと前から話題になっている「掛け算順序問題」である。教える側としては、2つのリンゴが5皿あるから2×5=10、と答えさせたいらしい。

でも2×5でも5×2でも答えは同じ10だ。この問題については賛否両論うずまいて結論が出てない。うちの子にこれ質問されたらどうしよう。なんとかならぬものか。

そもそも「5×2=10」と書く時点で「5のほうが先」と順序をつけてしまうのがいけないんじゃないか。徒競走に順位をつけない運動会があったりするのに、掛け算は先着順で本当にいいのか。

書き方を変えて考えてみよう。

5が先にあるけど2のほうがデカい。存在感をアピールすることで後発の不利さを打ち消す狙いだ。

5より2のほうが飛び出してる。まさに次元の違いを見せつけている。どちらが先かわからない。

2のほうが偉い。年下が先に出世したかたちだ。

2のほうがライフが多い。

2のほうにスポンサーがついている。

こんな感じでバカバカしくなるので掛け算順序問題はなくなってほしい。

ガンダムもエヴァも百人一首みたいになってる

ガンダムもエヴァンゲリオンも観たことがない。

特に観ないと決めたわけじゃないんだけど、観てないうちにどんどん取り残され、今さら観ても…な感じでいろいろ放っておいてしまっている。

世代的にドンピシャなはずなのに、ちゃんと触れたことがないものを挙げると…

・ガンダム(シリーズ全部)
・エヴァンゲリオン
・北斗の拳
・聖闘士星矢
・ワンピース
・マクロス
・スターウォーズ
・パトレイバー
・ドラゴンクエスト(3以降。2までは友達の家で全部見た)

この話すると「なに観てたの?」って言われる。「テレビあった?」とまで言われる。ひどい。わくわく動物ランドとかちゃんと観てたのに。

子供の頃は流行りに乗れなくても、まぁ、なんとなく過ごせた。しかし、ちゃんと流行りに乗った子供たちが大人になり、それなりの立場に出世し、同世代をターゲットにして、彼らを再びメディアに登場させてくる。

「ご存知でしょう?」みたいなテンションで。

存じあげない。

存じてないのだけど、あまりに周りが繰り返すものだから、フレーズだけ頭に入ってくる。

逃げちゃダメだし、海賊王に俺はなるし、赤いと3倍速い。見知らぬ天井で、すでに死んでいる。

「殴ったね!」ときたら「父さんにもぶたれたことないのに!」だし、「大人のキスよ…」ときたら「帰っきたら続きをしましょう」だ。

もう百人一首みたいになってる。たらちねの〜\ハイ!/みたいになってる。

それでもなんとかなっている。

流行ってるものは10何年か後に必ずまたやってくる。

まどマギも銀魂もNARUTOも遊戯王もまたやってくる。そんでまた「わからん」って言うのだろう。「おじいちゃんなに観てたの?」って聞かれたら「世界の料理ショーじゃ」って言おう。

「わくわく動物ランドで最後に同点となった場合はゲスト優先レディファーストで優勝者を決めるんじゃ」とまで言うとボケてんのかな?と思われそうだから気をつけよう。

『綱引いちゃった!』の続編を考える

井上真央主演の映画「綱引いちゃった」が公開間近である。

競技用綱引きを題材とした映画らしい。本木雅弘主演の「シコふんじゃった」を彷彿とさせるタイトルだけども関係はないらしい。

公開前なので映画の出来はわからないけども、そこは井上真央、「花より男子」を「2」「F」映画版まで引っ張った立役者だ。「綱引いちゃった!」もこれだけでは終わるまい。

というわけで公開前から続編のタイトルを考えてみたい

「綱」と見せかけての「網」。これほど続編にふさわしい漢字もない。綱引きで得たノウハウは地引網でも通じると思った井上真央たちだったが…。

女子をメインにするなら弓道の映画があってもいい。引く力だけはあるのでメッチャ遠くに飛ばせるが、コントロールが伴わない井上真央。弓道は飛距離競うものではない、と聞いてガーン!(ガーン!顔のアップ)

ついに念願のガスを家に引く日がやってきた。やっと我が家にも都市ガスが入るとウキウキの井上真央。しかし業者が持ってきたのはプロパンガスで…。

CMをしていた「チョコラBB」の効果もむなしく、風邪を引く様子を全国ロードショーされてしまう井上真央。寝たり起きたりしている。

フツーの女子高生だった私が、ある日突然、50万の兵を引き連れた将軍に!?

あまりの展開に客が!

こんな模範回答みたいなオチで終わるのも気が引けちゃいますね。

むかしばなしに「~BAD END~」を付け足す

知らないほうがいい、という言葉がある。

知らないままでいれば、現実に何も疑問をもたずに日々を過ごせる。しかし、ひとたび”その事”を知ってしまうと、満ち足りていたはずの日常が違った意味を持ってしまう。違う人生が、違う世界が、存在していることを知ってしまうからだ。

一見、めでたしめでたし、で終わっている昔話も、実はもっとめでたいエンディングが存在するかもしれない。

ノベルゲームみたいに最後に「~BAD END~」を付けてみたら、また違う未来が見えてくるんじゃないだろうか。

玉手箱を開けると、中から白い煙がもうもうと立ちこめ、気がつくと浦島太郎はおじいさんになってしまいました。
~BAD END~

最後の最後で「玉手箱を開けますか?」に「はい」と答えてしまったばっかりに。

かぐや姫は使いの者に付き添われ、月へ帰って行きました、
~BAD END~

何回プレイしても月へ帰ってしまう。どこでフラグが立ってしまうんだろう。

一本のわらしべを蜜柑、反物、馬と物々交換を続けた男は、終いには屋敷を手に入れ、裕福に暮らしました。
~BAD END~

結婚ができるルートもあるかもしれない。お金だけが幸せじゃない。

打ち出の小槌で大きくなった一寸法師は、娘と結婚し幸せに暮らしました。
~BAD END~

取り損ねた宝があったのか?違う娘を攻略してしまったのか?

「では屏風の虎を出してください」
一休のとんちに、将軍様はぐぅの音も出ませんでした。
~BAD END~

見事なとんちで切り抜けたはずの一休。ここは降伏して将軍様を立てるべきだったのか?

幸せのカタチについて考えさせられる。