大人になってから観る「世界の料理ショー」の幸せ

テレビ東京で「世界の料理ショー」の放送がはじまってますよ奥さん!

料理バラエティーの元祖として知られるカナダの番組「世界の料理ショー」が、11月5日(月)からテレビ東京で再放送されます。同番組には料理研究家のグラハム・カーさんが出演(日本語吹き替えは黒沢良さん)。軽快なトークやジョークを交えながら、世界各国の料理を披露します。放送は平日の午前8時からです。
おい、スティーブ! 「世界の料理ショー」が11/5から再放送されるぞ テレ東で平日午前8時から – はてなブックマークニュース

もう嬉しくって嬉しくって、録画して観てます。

子供の頃にテレビで観た記憶があるんですよ。宮城県にはテレビ東京系がないので、たぶんどこかの局が再放送で流してたんだと思う。

楽しくおしゃべりしながら料理をする、最後にテーブルについて食べる時に観客を一人誘う、裏方のスティーブ(顔出し無し)に叫んで呼びかける、ぐらいの記憶しかないのだけど、とにかくインパクトがあった。

で、改めていま観てるんですけど、やっぱり面白いですわー。

オープニングのジョークとか、子供のころだと何言ってるか意味わからなかったと思う。大人になってわかることってあるね。ちっちゃい下ネタとか。

で、大人になって観てから発見が2つあって、ひとつは「吹き替えのすごさ」

番組にはグラハム・カー1人しか出てこない。で、1人で料理しながらずっとしゃべってる。

この10数分の一人しゃべりを、吹き替えの黒沢良が見事に合わせてる。

口の開閉のタイミング、身振り手振りとしゃべりの一致、料理のアップからグラハム・カーのショットに戻るまでの時間配分、いちいち完璧。

映画の吹き替えだとシーンは細かいし、複数人のやり取りがあるから、タイミングは細切れで測りやすい。対して、1人の長いおしゃべりに対してここまで合わせるのは、もう大変なことだと思う。素晴らしい。

発見のもうひとつはですね、「グラハム・カーの美味しそうな顔」

最後に出来上がった料理を別室のテーブルに運んで食べるんですが、その時の顔のまぁー美味しそうなこと。

大皿に持った料理をゲストの分も取り分けて、自分のお皿に盛った料理にスプーンをいれて、口に運んで、ウゥ~ン…とうっとりする顔をする。あんなにしゃべってた人が、自分の料理を愛おしく料理を噛み締めてる。動と静。

もうご覧いただきましょう。テーブルにつくのは動画が始まって2分ぐらいのところから。吹き替えの素晴らしさも併せてどうぞ。

観客のアップの画が今のテレビでは考えられないほど近い!

美味しそうに食べるグラハム・カーと、美味しそうだなぁという観客の顔・顔・顔。これはハッピーエンドなんだなぁ。ハッピーエンドは人を幸せにするなぁ。

テレビ東京系が観られる方、ぜひご覧ください。MOCO’sキッチンともかぶらないし!

「最近忘れっぽい」が「みんな気のせい」な4つの理由 上大岡トメ&池谷裕二『のうだま2』

「脳細胞の数は子供の頃がピークであとは減るばかり」って、何かから教わりませんでした?

「1日に脳細胞が何万個も減るから頭が~」みたいに脅されませんでした?

……ウソなんですって。

マンガと共にわかりやすく脳のヒミツを教えてくれる「のうだま」シリーズの2作目。『キッパリ!』の上大岡トメ&『海馬』の池谷裕二のコンビ。

で、最初の話。脳細胞がどんどん死んでいくと思ってたよー。違うの?40歳も見えてきて、忘れっぽくなるし、覚えられなくなるし、年々頭が悪くなっているような…

というボヤキに、池谷さんはまさに”キッパリ”こう言うのです。

「気のせいです」

いやいや!そんだけ!?

でも本当に気のせいなんですって。脳細胞の数は3歳以降ほぼ一定で、100歳まで生きてもほとんど変化がない。劣化しない。ハードウェアは壊れない。問題はソフトウェアにある。

2011年12月(去年!)発表されたこんな研究がある。

18~22歳の若者と、60~74歳の年輩者を集めて記憶力テストを行う。「これはただの心理学の試験です」とだけ説明すると、若者と年輩者の点数はほぼ差がない。

ところが試験前に「このテストでは通常、高齢者のほうが成績が悪い」と説明を加えると、若者の点数は変わらないけど、年輩者の点数が約3割下がっちゃう。

「年齢を重ねると記憶力が下がる」という暗示にかかっているだけ

いや、でも、そのテストの時だけじゃないの…?とまだ疑ってみるけど、まだまだ「気のせいの理由」がある。

気のせいの理由、4つ

その1:大人のほうが知識量が多い

子供のころの世界は狭い。知り合いは親戚や学校の中に閉じている。対して大人。付き合いは増えるし、知識も経験も子供よりめっちゃある。

人名が思い出せなくなって…といっても、大人は知り合いや芸能人や歴史上の人物まで覚えてるわけだから、検索に時間がかかっちゃう。頭が悪くなったんじゃなくて、記憶量が増えたからすぐ出てこないのだ。

その2:若い頃は勉強中心の生活だった

小・中・高、大学、専門学校などなど、若い頃は一日の大半を学校での勉強=覚えることに費やしていた。

当時ですら期末テストなんかでヒーヒー言って覚えてた。対して大人、そんなに勉強に時間を使うわけじゃない。いつのまにか1日終わってる。つまり、覚える努力をしていないから、覚えてない。

その3:子供の頃と時間の流れ方が違う

「あの人の名前なんだっけ!最近会ったのに…」って言っちゃうけど、その「最近」って、いつからいつまで?

以前 子供と大人の「さっき」の違い でも書いたんだけど、子供の頃は1日がすごく長かったのに、大人だとアッ!という間にすぎる。「最近会った」が1ヶ月前のことかもしれない。1ヶ月前のことである。覚える努力もしてないなら、そりゃ忘れる。

その4:子供の頃と時間の流れ方が違う~パート2

「最近ド忘れが多くて…」の「最近」も同じ。

調査によると、子供も大人と同じくらいド忘れをすることがわかっている。子供の「最近のド忘れ」の期間が3日分くらいで、大人の「最近のド忘れ」の期間が半年ぐらいとすれば、そりゃ半年間のド忘れの数のほうが多いに決まっている。年を取ってド忘れが増えたんじゃなくて、集計する期間が伸びている。

脳の「トリセツ」

ここまで挙げられると、もうグウの音も出ず。脳、お前だったのか。いつもそばにいてくれたのは…。

などと「ごんぎつね」ばりの後悔をしても始まらない。

上の4つの「気のせい」は本書の序盤で出てきて、早くも脳に対しての常識がゆらぐ。じゃぁ本当はどういう仕組みなの!?というところ、トメさん目線でマンガで説明してくれる。トメさん=読者目線なので、難しい脳科学がホントわかりやすい。

脳が記憶をする仕組み、覚える仕掛け、忘れない理由をどんどん教えてくれる。覚えるコツまである。つまりこれ、「脳の取扱説明書」の「記憶の章」と言ってもいい。

トリセツが無かったから覚えられなかったのか!

というわけで、このトリセツを読めば、いくつになっても勉強がめっちゃはかどる!はず。

少なくても衰えを感じ始めるアラフォーは元気が出るよ!あとね、年のせいにできないから、逃げ場が無くなる!気をつけて!

【漫才】はいどうもー、衆議院でーす

「はいどーもー、衆議院でーす」
「…」
「僕らね、まだまだ若手ですけども、今日は名前だけでも覚え…」
「あのな」
「あ?なに」
「今日、みんなに言わなあかんことがあんねん」
「おいどうした急に」
「僕たち衆議院…解散します!」
「えっ!」
「今週いっぱい、16日をもって…」
「ちょ、ちょっ待てって。待てって」
「なによ」
「聞いてないよ。解散?」
「そうや」
「勝手に決めんといて」
「しゃあないやん」
「しゃあないて、なんでよ」
「解散権、俺しか持ってないもん」
「なにを持ってんねん!」
「とにかく解散やから」
「待て待て、落ち着け!ちょっと整理しよ。整理しよ」
「選挙区を?」
「まだや!解散を急ぐなて!なぁ、なんか俺、あかんことした?俺が原因?」
「そらまぁ、いろいろあるわ」
「じゃぁ言うてくれよ。治すとこ治すから」
「ほなら言うけど、お前、最近、先輩との飲み会来ないやん」
「それはおまえ、たまたま予定入ってたん」
「お前な…外交をないがしろにするなよ!」
「外交!?」
「この世界な、大国の協力なしでは生きていかれへんぞ!」
「そらまぁ、先輩との付き合いが大事なのはそうやけど…」
「それにお前、こないだ、家に後輩泊めたやろ」
「あぁ、終電なくなったいうから泊めたわ」
「領海侵犯やぞ!」
「なんでや!」
「俺の部屋に勝手に入ってきて」
「お前の部屋ちゃうわ!」
「部屋にいれたんやろ!?」
「いや、あいつ、玄関で寝てたわ」
「接続水域で!?」
「玄関!」
「あんな、あいつ、部屋にある資源を狙ってるんやぞ」
「資源?資源てなんやねん」
「シェールガス」
「ないわ!」
「出るかもしれへんやろ!」
「俺のアパートから次世代エネルギーは出ぇへんわ!」
「まぁええわ、外交だけやないねん不満なのは」
「他になにがあるのよ」
「おまえ、今年の芸人男前ランキング、何位だった?」
「…言わせんの?」
「何位だった?」
「…圏外」
「国民の支持率さがってるやん!」
「うるさいわ!じゃぁお前は何位やねん」
「…圏外」
「あかんやん!」
「お前と二人でいるから下がってんねや!」
「ブサイクは解散してもブサイク!」
「…!」
「解散しても顔は変わりません!」
「…」
「お、どうした」
「今の失言Twitterに流してやるからな」
「失言ちゃうわ」
「拡散希望、と」
「やめとけやめとけ」
「おおっ!めっちゃリプライ返ってきた!」
「なに書いてあんの」
「このダブリューダブリューダブリューってなに?」
「wwwや!笑われてんの!」
「なんやと!」
「ブサイクの顔アイコンでブサイクのこと呟くからや!」
「くそぉ…国民め…」
「思い直したか」
「これは言わずにおこうと思ったんやが…」
「まだあんの」
「実は…他のとこから誘われてんねん…」
「うそ!お前を引き抜こうとしてんの!?」
「そうや…」
「誰やねん、それ」
「石原…」
「慎太郎!?」
「良純」
「石原良純とお前でなにやんねん!」
「…天気予報ちゃうん?」
「スーパーニュースにブサイク2人もいらんやろ!安藤さんも困るわ!」
「…!いまのブサイク発言Twitterに…」
「やめろやめろ」
「このダブリューダブリューダブリューってなに?」
「笑われてんねん!」
「わからんからタウンページで調べよ」
「良純!」
「もうだから、お前とは組めへんねん!」
「じゃぁ好きにせぇや!」
「え」
「お前がそんなに言うならな、解散や!解散!」
「ええんやな!」
「衆議院は解散や!」
「約束ですか?約束ですよ!」
「あぁ!もうお笑い辞めるたるわ!」
「わかった。じゃぁ定数削減やから、俺だけピン芸人で頑張るわ」
「ええかげんにせい」
「「ありがとうございましたー」」

書斎に”洗濯機”を備えよう いしたにまさき『あたらしい書斎』

これは書斎をめぐる冒険の書だなぁ。

収納術や整理術の本は多々あれど、それらとはちょっと違うところがある。

過去に2度、自宅の書斎作りに失敗した著者。本棚が溢れたり、大きい机が有効活用できなかったり…。

そこで、今の時代の「あたらしい書斎」とはどんなものか、改めて考えるところからはじまる。まず思想から入るのだ。

「魔法の洗濯機」

そこで引用されているのがTEDの「ハンス・ロスリングと魔法の洗濯機」というプレゼン。日本語字幕つきの動画を貼っておきます。日本語化されたテキストはハンス・ロスリングと魔法の洗濯機 | TEDを日本語で読む:TED人気スピーチ日本語訳 – 30秒で把握するTEDプレゼンで読むことができる。

これ、素晴らしい話なので、一度観るか読むかしてくださいよ。あ、ちゃんとこっちにも帰ってきて。

いい話なんですよ。褒めるの2回目ですけど。

洗濯機がない時代、女性の一日の労働の大半は洗濯に費やされていた。洗濯機の登場により、手間が大幅に減った。しかしまだ、世界の大半では水をくみ、場合によっては水を温め、手で衣類を洗っている。

もしすべての人々に洗濯機が行き渡ったら。ハンスは最後に「魔法」について語る。

では何が魔法なのか? 私の母は洗濯機を初めて使った日にそれを教えてくれました。 「ハンス、洗濯機に、洗濯物を入れたから、あとは洗濯機がやってくれる、その間図書館に行けるのよ」と。 これが魔法なのです。 洗濯物を入れて、洗濯機から何を得るのか?本です。児童書です。そして子供に本を読む時間です。母は大喜びでした。私は「ABC」を学びました。私の教授のキャリアはここからスタートしています。母が本を読んでくれる時間ができてからです。母は自分用にも本を借り、外国語として英語を、勉強する時間を作りました。また様々な小説を、沢山読みました。私と母は洗濯機がとても気に入りました。

魔法が魔法を打ち消してしまう

洗濯機のみならず、いまでは様々な家電が僕たちに時間を与えてくれている。

料理の手間は電子レンジで、移動時間は航空機や電車で、子守もアンパンマンに任せたりしてる。

さて、そうやって生まれた時間をどう使っているか?

電車のちょっとした待ち時間でもスマホを開いて情報収集したり、メール書いたり、検索したりする。そして結局、子供に本を読む時間がなくなってしまったりする。

「魔法の洗濯機」の魔法が、別の機器が生んだ魔法に喰われてしまっている。

そこで必要なのが、あたらしい魔法、「あたらしい書斎」である、と続く。

「あたらしい書斎」をめぐる冒険

細切れの時間をまとまった時間にする。集中して学んで考える時間を作る。そのためには、その時間を使うための魔法、書斎という場所が必要になる。

ここから、著者の書斎をめぐる冒険がはじまる。

江戸川乱歩ほか、先人の書斎を訪ねて学ぶ。IKEAの協力を得て、IKEA家具で「1畳の書斎」の組み合わせを考える。書籍の電子化・クラウドなどデジタルの要素をいかに使うか考える。ノマドと書斎の関係について考える。巨大な本棚がある書斎を拝見する。建築事務所で未来の書斎を設計する…。

「あたらしい書斎」の思想をもとに、とにかく行動しまくってる。これだけのお題目を丁寧に追い始めるとキリがないので、1冊の本の中でのそれぞれ分量は軽め。本気でやったらEテレで全10回の書斎講座の番組ができるほどの内容だと思う。

「魔法の洗濯機」を知るだけでも有用な1冊。自分の家の環境を見て、さてどこからアプローチしたものか…と考えるのも楽しい。あとIKEAに行きたくなります(笑)

廃墟になった遊園地に、廃れた者がたどり着く 初野晴『カマラとアマラの丘』

こんなに緊張した読書をするのはいつ以来だろう。

登場人物たちがこの後どうなってしまうのか、まったく予測ができなくて鼓動が早くなる。

全5篇からなる短篇集。初野晴といえば吹奏楽部の青春を描いた”ハルチカ”シリーズでお馴染みのかたもいるかと思います。これはもう、ハルチカとは真逆の雰囲気。夜のピンと張り詰めた空気。

あらすじ

舞台となるのは廃墟となった遊園地。塗装がはげたメリーゴーランド。そびえ立つ蜘蛛の巣のような観覧車。廃線となったモノレール。

ここに「秘密の動物霊園」がある、という噂がある。

いわくつきのペットが眠る丘があるらしい秘密の動物霊園。その丘には墓守をしている青年がいる。彼は夜にしか現れない。

そして、ペットを埋葬するためには、墓守の青年に一番大切なものを差し出し、許可を得なければならない。

今夜もわけありのペットを抱え、遊園地に忍び込んでくる依頼者がいる。ゴールデンレトリバー、天才インコ、クマネズミ、そしてイエティ…。

月明かりの真下、時が止まった遊園地で、墓守と依頼者の交渉がはじまる。

緊張がとまらない

墓守の青年は人間の心を読み、動物とも会話ができる。つまり、隠し事はできない。ここに来た事情をすべて話さないといけない。全部をさらけだして、青年の判断を待つことになる。

この”事情”は、最初は読者にも明かされない。少しずつ少しずつ、深夜の遊園地に忍び込まなければならない程の”事情”が明らかになっていく。一行、一行、すすむたび、崖っぷちさがわかってくる。

捨てられた遊園地、不気味に横たわる遊具、他に音のない舞台で。

依頼側の緊張も高まれば、読んでるこっちも緊張してくる。なにを考えてるかわからない墓守の青年が、この”事情”に対してどんな判決をくだすのか。青年は味方してくれるのか、冷徹に突き放すのか、それとも…。

そしてもうひとつ、なにが起こるかわからない緊張感を高めるものがある。

最後の最後、ギリギリで、物語が読者に明かす真実。”事情”の本当の裏柄。

この本の最初に収録されている表題作「カマラとアマラの丘」が特にすごい。のっぴきならない事情プラス、天地をひっくり返すどんでん返しが待っていて、緊張がぶっとぶ。なにが起きたかわからない。でも、なにが起きたかわかると、さらに背筋が凍る。

で、全5篇の短篇集なので、1回そういうことされると、えっ次もこんなことが待っているのでは…と警戒する。

そして…いやいやいや、やめときましょう。とにかく1回じゃ済まないんですよ。

先が予測できない真っ暗闇。帯には「せつなすぎるミステリー」とあるんだけど、せつない、という言葉で全然片付かない。胸から喉からいろいろえぐられる。ペットの生と死というテーマもじわじわ効いてくる。

どうか、心してお読みください。