仕事納め百景

deskwork

「くそぉ、一足遅かったか。ルパンめまんまと納めおって」
「いえ、あの方は何も納めなかったわ。私のために働いてくださったんです」
「いや、奴はとんでもないものを納めていきました…あなたの仕事です」
「!…はい」

ある会社が年末を迎えた。
社長は社員たちに速やかに仕事を納めるように、指示しなければならなかった。
社長は、それぞれの外国人社員にこう言った。
アメリカ人には「仕事を納めればあなたは英雄ですよ」
イギリス人には「仕事を納めればあなたは紳士です」
ドイツ人には「仕事を納めれるのがこの船の規則です」
イタリア人には「仕事を納めると女性にもてますよ」
フランス人には「仕事を納めないでください」
日本人には「みんな納めてますよ」

「仕事は会議室で納めるんじゃない…現場で納めるんだ!」

メロスは激怒した。
必ず、かの仕事を納めなければならぬと決意した。
メロスには社内政治がわからぬ。
メロスは、ヒラの社員である。
キーを叩き、合間に遊んで暮して来た。
けれども納会に出るビールの銘柄に対しては、人一倍に敏感であった。

「納まれ、納まりたまえ。さぞかし名のある仕事の主と見受けたが、なぜそのように荒ぶるのか」

イエスが歩いていると一人の男が社員に石を投げられていた。
理由を尋ねると「この男の仕事が納まらないからだ」と答えた。
それを聞いたイエスは「この中で定時までに仕事を納めた者だけが石を投げなさい」と言った。
すると石を投げる者は仕事に戻り、イエスは会議室に忍び込んで先に納会のビールをあけた。

(記者から「あの時の自分になんと言いたいですか」と聞かれて)
 市川海老蔵「仕事を、納めなさい」

「おっとそこまでだ」
「くっ…」
「両手をゆっくり上にあげるんだ」
「…」
「どうやらお前も仕事の納めどきのようだな」
「…(ニヤリ)」
「あん?」
「まだ終わらないさ。今ごろ仲間が明日からの計画を立てている。もう止められない」
「なん…だと…!?」

仕事「これで納まったと思うなよ!」

最初から言ってよ殺人事件

180/365 - Down To A Whisper

「…以上のことから、犯人は左利きだということが、おわかりいただけたと思います。イコール、この中で左利きの人物が犯人ということになります」
「先生」
「犯人は…」
「先生、先生」
「なに小林くん」
「ちょっといいですか」
「いま一番いいところなんだけど」
「大事な話が」
「しょうがないな……皆さん、ここを動かないでください……どうしたの」
「あの、左利きの人なんですけど」
「左利きは安藤さんしかいないって君から聞いたよ」
「もう1人いまして」
「うそ」
「竹中さんも左利きなんです」
「えー言ってよー」
「すいません」
「犯人は安藤さん、ってここまで出てたよ」
「すいません」
「どうしよ…んー…わかった、大丈夫」
「ホントですか」
「まあ任せなさい…皆さん、お待たせしました。左利きの人物、それは、安藤さんと竹中さんですね。つまり犯人は二人に絞られました。ここでアリバイを考えます。思い出してください。悲鳴が聞こえた時、大広間に居たのは…」
「先生」
「なに」
「お忙しいところすいません」
「超忙しいんだけど」
「大事な話が」
「やれやれ……皆さん、ここを動かないで。特にそこの二人……なんなの」
「事件のアリバイって、悲鳴が聞こえた時の」
「そうそう。あの悲鳴は犯人が作ったダミーだったでしょ」
「はい」
「だから、悲鳴が聞こえた時に大広間に居た人物、イコール、アリバイがある人物が、逆に犯人なわけで」
「それで、大広間に居たのは」
「僕と小林くんと安藤さんだったでしょ」
「竹中さんもいたんです」
「うそ」
「一緒に左利きトークをしてました」
「えー言ってよー」
「すいません」
「あの人、存在感なさすぎるでしょ」
「すいません」
「小林くんが謝ることじゃないけど…んー…わかった、大丈夫」
「ホントですか」
「任せなさい…皆さん、お待たせしました。えー、アリバイの話は、その、ちょっと置いておきまして。現場の状況を振り返ります。地震で書棚が倒れ、ドアが塞がれたのは犯人にとって想定外のアクシデントでした。書棚には犯人の目当てと思われる社長の日記がありました。しかし犯人は書棚をそのままにしておいた。犯人は書棚を動かさなかったのではありません。動かしたくても、動かせなかったのです。つまり…」
「先生」
「なんなの」
「お時間いただけますか」
「あげたくない」
「大事な話が」
「もう……皆さんそのままで。トイレ?安藤さん以外どうぞ……なによ」
「書棚を動かす話ですが」
「安藤さんは女だから動かせなかった、って言うよ。もう言うよ」
「竹中さんも女なんです」
「うそ」
「女子トイレで会いました」
「えー言ってよー」
「すいません」
「竹中さん僕より毛深いよ」
「でも女なんです」
「竹中さん若干分け目ハゲてるよ」
「でも女なんです」
「あぁそぅ……あれ」
「どうしました」
「小林くん、いま、竹中さんと『女子トイレで会いました』って言った?」
「はい」
「小林くん…女子なの?」
「はい」
「うそ」
「女子です」
「えー言ってよー」
「すいません」
「小林さんじゃん」
「すいません」
「あれ、悲鳴聞こえた時さ、大広間に居たよね」
「はい」
「竹中さんと左利きトークしてたって言ったよね」
「はい」
「もしかして小林さんって左利き?」
「はい」
「えー言ってよー」
「すいません」
「ってことは容疑者じゃん」
「はい」
「えー言ってよー」
「私がやりました」
「えー言ってよー」
「遊ぶ金欲しさに」
「えー言ってよー」
「痴情がもつれて」
「えー言ってよー」
「もうすぐ警察が」
「えー言ってよー」
「でも、逃げます」
「えー言ってよー」
「全部爆破します」
「えー言ってよー」
「…」
「えー言ってよー」
「…」
「えー言ってよー」
「ちっ、壊れたか」
「えー言ってよー」
「やっぱり安物のアンドロイドじゃ探偵役は勤まらないな」
「えー言ってよー」

3Dプリンタ殺人事件

この頃「3Dプリンタ」についての話をよく目にする。

3Dプリンタはその名の通り立体をプリントできるプリンタ。立体をプリント、ってなんか変な感じするけど、設計図を入れてやれば「モノ」ができあがる、という代物らしい。

家庭にもおけるくらいのお値段のやつがそろそろ来るぞとか、試作品を簡単に作れちゃうぞとか、モノづくりが個人レベルでできちゃう時代になるぞとか、いろいろ期待されている。

こういう新しいテクノロジーが出ると、推理小説はまた困るだろうなぁ、と思う。

あの「このドアの鍵は合鍵が作れないタイプ」が使えなくなっちゃうんじゃないだろうか。

「さて、みなさんにお集まりいただいたのは他でもありません。晶子さんの死の真相がわかりました」
「死の真相?晶子は自殺したんじゃないのか?」
「違います」
「部屋のドアには鍵がかかっていて、窓にはクレセント錠がおりてたじゃないか」
「これは…巧妙な密室殺人だったのです」
「なんだって!?」
「犯人はあらかじめドアの合鍵を作っていたのです」
「馬鹿な、部屋の鍵は晶子が身につけていた。そしてこの鍵は合鍵が作れないタイプだぞ。そんなことが…」
「できるんです」
「な…!?」
「犯人は3Dプリンタを使ったのです」
「3Dプリンタ!?」
「鍵の前後左右から写真を撮るんです。この4枚の写真を元に設計図を作り、3Dプリンタで鍵を出力したのです」
「そんなことが…」
「できるんです」
「じゃぁ…無くしたはずの晶子のイヤリングの片方が出てきたのは…」
「3Dプリンタです」
「飾り棚のインディアン人形が1体増えていたのは…」
「3Dプリンタです」
「冷蔵庫に入っていた晶子の首は…」
「3Dプリンタです」
「晶子は生きているか!?生きているなら会わせてくれ!あいつが…あいつがいないと俺は…俺は…」
「こちらを」
「その後ろ姿は…晶子!晶子なのか!俺が…俺が悪かった…借金なんか作ったりして…もう一度二人でやり直そう…!晶子…!こっちを向いてくれ…!」
「3Dプリンタです」
「なんだよ!」

推理小説は困っても、コントの幅は広がるかもしれません。

クレイマーズ・ハイ

砂浜に降りたった私は、パラシュートをかき分けた。さっきまで乗っていた飛行機はもう見えない。

空中に投げ出された時は、視界がすべて青だった。

必死だった。空の青と海の青がグルグルと回った。スカイダイビングの経験なんてない。すぐにパラシュートの紐を力一杯引いた。グン!と背中が引っ張られる。しかし、のん気に空中散歩というわけにはいかなかった。眼下は大海原だ。どこに降りろというのか。

一面の青の中に緑が見えた。島だ。あそこに降りなければ。身体を振り、無我夢中でコントロールする。高度が下がるにつれ、岩山や森がはっきりとした輪郭をもって現れた。砂浜に転げ着いたのは奇跡としか言えない。

戻ったら即、クレームを入れてやろう。

確かに「もうやだ、降りる、飛び降りる!」とは言った。隣の席の赤ん坊が泣きやまず耐えられなかったのだ。半分本気だったが、まさか本当に降ろされるとは。パラシュートを装着させる手際からすると、乗務員はこういう訓練を受けているのだろう。企業ぐるみでこんなこと、許されるわけがない。乗務員のネームプレートもしっかり見た。携帯を開く。圏外だ。

ここはどこだろう。

砂浜には人工物がなかった。ボートもパラソルも、なにもなかった。ホテルなど、建造物の姿も見えない。内陸には森が広がっている。深く、暗く、どこまで続いているのかわからない。

飛行機が無人島に不時着するなんて使い古された設定だ。海外ドラマでもあった。そんな手垢のついたシチュエーションに自分が置かれるなど、不安よりも不愉快でしかたなかった。

人の気配を探して森に入った。冷静でなどいられなかった。不愉快。不快。誰かいないのか。出てこい。この不愉快を吐き出させろ。背丈ほどの茂みをかき分ける。

沼に出た。

森の中にぽっかりと沼がある。湖とまでいかないがかなり大きい。淀んでいて深さはわからない。

沼の周囲を回ってみが、すぐに何かにつまづいて転んだ。腹が立ったが、その何かを見て血の気が引いた。

骨だ。動物の骨。牛かなにかの、かなり大きな頭蓋骨。改めて見回すと、あちこちに骨が散らばっている。何頭分あるのだろう。死体が骨になったのではない。なにかが骨を、いや、肉を貪り喰った痕跡…

気味が悪くなって来た道を戻った。肉を食べた何物かのことは考えないようにした。なんでこんなことになったんだ。冷静にパラシュートをつける乗務員の顔が浮かぶ。いや、そもそもはあの赤ん坊だ。ひきつけでも起こすのかというぐらい泣きわめいて。親も親だ。飛行機なんて乗せるんじゃないーーー

視界が真っ赤になった。

怒りで、ではない。空が、海が、赤い。砂浜に出た私を照らすのは、大海原に沈む夕日だった。

不意打ちを食らって、頭の中が真っ白になった。夕日が白を赤に染めていく。私の中に夕日が入ってくる。体の力が抜けて、へたり込んだ。

私は泣いた。やっと涙が出てきた。そこからはもう一気に泣いた。泣きじゃくり、しゃくりあげ、また声を上げて泣いた。そうだ、私だって、私だっていつかは赤ん坊だったじゃないか。喉が枯れても、涙は枯れなかった。止まらなかった。泣いて、泣いて、泣いた。

森の暗がりの中で、ドボン、と、鈍い音がした。

それが泣き声のクレームだと気づくのに、時間はかからなかった。

※参考
再生JALの心意気/さかもと未明(漫画家)

泣き叫ぶ乳児にブチ切れてクレーム……さかもと未明の“搭乗マナー”が物議

【漫才】はいどうもー、衆議院でーす

「はいどーもー、衆議院でーす」
「…」
「僕らね、まだまだ若手ですけども、今日は名前だけでも覚え…」
「あのな」
「あ?なに」
「今日、みんなに言わなあかんことがあんねん」
「おいどうした急に」
「僕たち衆議院…解散します!」
「えっ!」
「今週いっぱい、16日をもって…」
「ちょ、ちょっ待てって。待てって」
「なによ」
「聞いてないよ。解散?」
「そうや」
「勝手に決めんといて」
「しゃあないやん」
「しゃあないて、なんでよ」
「解散権、俺しか持ってないもん」
「なにを持ってんねん!」
「とにかく解散やから」
「待て待て、落ち着け!ちょっと整理しよ。整理しよ」
「選挙区を?」
「まだや!解散を急ぐなて!なぁ、なんか俺、あかんことした?俺が原因?」
「そらまぁ、いろいろあるわ」
「じゃぁ言うてくれよ。治すとこ治すから」
「ほなら言うけど、お前、最近、先輩との飲み会来ないやん」
「それはおまえ、たまたま予定入ってたん」
「お前な…外交をないがしろにするなよ!」
「外交!?」
「この世界な、大国の協力なしでは生きていかれへんぞ!」
「そらまぁ、先輩との付き合いが大事なのはそうやけど…」
「それにお前、こないだ、家に後輩泊めたやろ」
「あぁ、終電なくなったいうから泊めたわ」
「領海侵犯やぞ!」
「なんでや!」
「俺の部屋に勝手に入ってきて」
「お前の部屋ちゃうわ!」
「部屋にいれたんやろ!?」
「いや、あいつ、玄関で寝てたわ」
「接続水域で!?」
「玄関!」
「あんな、あいつ、部屋にある資源を狙ってるんやぞ」
「資源?資源てなんやねん」
「シェールガス」
「ないわ!」
「出るかもしれへんやろ!」
「俺のアパートから次世代エネルギーは出ぇへんわ!」
「まぁええわ、外交だけやないねん不満なのは」
「他になにがあるのよ」
「おまえ、今年の芸人男前ランキング、何位だった?」
「…言わせんの?」
「何位だった?」
「…圏外」
「国民の支持率さがってるやん!」
「うるさいわ!じゃぁお前は何位やねん」
「…圏外」
「あかんやん!」
「お前と二人でいるから下がってんねや!」
「ブサイクは解散してもブサイク!」
「…!」
「解散しても顔は変わりません!」
「…」
「お、どうした」
「今の失言Twitterに流してやるからな」
「失言ちゃうわ」
「拡散希望、と」
「やめとけやめとけ」
「おおっ!めっちゃリプライ返ってきた!」
「なに書いてあんの」
「このダブリューダブリューダブリューってなに?」
「wwwや!笑われてんの!」
「なんやと!」
「ブサイクの顔アイコンでブサイクのこと呟くからや!」
「くそぉ…国民め…」
「思い直したか」
「これは言わずにおこうと思ったんやが…」
「まだあんの」
「実は…他のとこから誘われてんねん…」
「うそ!お前を引き抜こうとしてんの!?」
「そうや…」
「誰やねん、それ」
「石原…」
「慎太郎!?」
「良純」
「石原良純とお前でなにやんねん!」
「…天気予報ちゃうん?」
「スーパーニュースにブサイク2人もいらんやろ!安藤さんも困るわ!」
「…!いまのブサイク発言Twitterに…」
「やめろやめろ」
「このダブリューダブリューダブリューってなに?」
「笑われてんねん!」
「わからんからタウンページで調べよ」
「良純!」
「もうだから、お前とは組めへんねん!」
「じゃぁ好きにせぇや!」
「え」
「お前がそんなに言うならな、解散や!解散!」
「ええんやな!」
「衆議院は解散や!」
「約束ですか?約束ですよ!」
「あぁ!もうお笑い辞めるたるわ!」
「わかった。じゃぁ定数削減やから、俺だけピン芸人で頑張るわ」
「ええかげんにせい」
「「ありがとうございましたー」」