慎重な議論

Lex Macho Inc.

「お集まりいただきありがとうございます。先日の委員会で『慎重な議論が必要だ』という結論を受け、本日の会議を開かせて頂きました。つきましては、より慎重な議論を持ちたく、よろしくお願い致します」
「よろしいですか」
「どうぞ」
「会議室のキャパシティについて確認です。参加者はまだ他にいらっしゃるのでしょうか」
「慎重なご意見ありがとうございます」
「恐縮です」
「本日はコンプライアンス上の慎重を期すため、私他1名、計2名での開催としています」
「わかりました」
「それでは議論の方に……」
「よろしいですか」
「どうぞ」
「私が本人であるかどうか慎重に調べていただく必要はないでしょうか」
「慎重に?」
「慎重に」
「ニセモノかもしれない、とおっしゃる」
「はい。慎重な議論の場だからこそ、こうした慎重さが求められるのではないでしょうか」
「なるほど」
「どうでしょうか」
「既にIDカード、指紋認証、顔認証、静脈認証はパスしていただきました」
「パスいたしました」
「そして筆跡、声紋、DNA共にデータベースのものと一致しています」
「果たしてそれで本人と言えるのでしょうか」
「なるほど」
「どうでしょうか」
「慎重な議論が必要ですね」
「慎重な議論が必要です」
「例えば親族などの証人を呼んで確認していただくのはいかがでしょうか」
「当人たちと口裏を合わせている可能性もあります」
「あなたの身元についてはデータベースに全て情報が存在します。親族、上長、恩師、隣人に至るまで。ランダムに証人を選び、こちらが用意した質問に基づいて答えていただく。この方式ではいかがですか」
「私が日頃から彼らを欺いているとしたら?」
「いつからニセモノになったのかわからないと」
「そうです」
「なるほど」
「偶然に回答が一致する可能性もあります」
「なるほど」
「どうでしょうか」
「慎重な議論が必要ですね」
「慎重な議論が必要です」
「行動記録はいかがですか」
「行動記録」
「あなたが生まれてから、成人し、この会議室に来るまでの間、すべての行動記録はデータベースに記録されています。ニセモノと入れ替わる動きがあればわかります」
「私の肉体は本人のものかもしれません。しかし精神がニセモノだとしたら?」
「行動記録には現れない方法でニセモノになっていると」
「そうです」
「精神がハックされたのなら、肉体になんらかの痕跡が残るはずでは?」
「電磁波、超音波などのワイヤレスな手段の可能性もあります」
「なるほど」
「狐憑きなど超自然的な現象も視野にいれなければなりません」
「なるほど」
「どうでしょうか」
「慎重な議論が必要ですね」
「慎重な議論が必要です」
「それではデータベースの……」
「待ってください、私がデータベースを操作できる人間だとしたら?」
「まさか、それはいささか荒唐無稽な…」
「可能性の問題です。私にデータベースを操作する権限があるとしたら?」
「全ての元となるデータが改ざんされているかもしれないと」
「そうです」
「なるほど」
「どうでしょうか」
「慎重な議論が必要ですね」
「あなたと話しているのは私なのでしょうか?」
「慎重な議論が必要ですね」
「私と話しているのはあなたなのでしょうか?」
「慎重な議論が必要ですね」
「第三者が全ての出来事を操作しているのではないでしょうか?」
「慎重な議論が必要ですね」

「いかがですか。あなたは、あなただと、証明することができますか」

「そろそろ時間になります」
「より慎重な議論が必要ですね」
「より慎重な議論が必要である、と言えます」
「本日はありがとうございました」
「ありがとうございました」

結論:
『より慎重な議論が必要である』

あたらしい「ほう・れん・そう」

「思ったより集まったじゃないの」
「そうですね」
「なんだっけ、募集した標語のテーマ」
「新しい『ほう・れん・そう』です」
「あー、報告・連絡・相談の『ほう・れん・そう』」
「それの2013年版です」
「よく考えるねぇみんな」
「うちの会社も相当ヒマですね」
「じゃ、ヒマの成果をみてみるか」
「一つずつ読んでいきますね」

法令遵守・連携・掃除

「まともっぽいけどなぁ」
「掃除で一気に学校っぽくなりますね」

報告漏れ・連絡ミス・相談窓口

「窓口ができてる」
「この2つ専門の?」

蜂起・煉獄・騒乱

「ただごとじゃないな」
「世界史レベルの出来事が起きてますね」

包容力・連帯感・総監督

「高橋みなみかな?」
「高橋みなみですかね?」

法則・連鎖・相殺

「ぷよぷよだな」
「ぷよぷよですね」

崩壊寸前・連日の株価下落・早期退職

「見なかったことにしたい」
「こんなことしてる場合じゃなかった」

ホーチミン・レンタカー・相場

「ベトナム旅行する人の検索ワードだな」
「相場知ってないと値切れませんもんね」

ホールドオン・連想ゲーム・相談員

「NHKのバラエティ番組だな」
「上沼相談員ですね」

「で、どうしましょう」
「ホーチミン好きだけどなぁ」
「ホーチミンにします?」
「……」
「……」
「怒られるんだろうなぁ…」
「怒られるでしょうねぇ…」

サプライズ!

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photo by Mohammed Alnaser

「おぅー!いたいた!」
「おう」
「ここ空いてる?」
「空いてる」
「探したよ〜」
「あ、そう?」
「まさか昼休みに食堂にいるなんて〜」
「思い当たれよ」
「ここぞとばかりに食事をとるとは〜」
「なんなの。探してたんだろ」
「そーそー!」
「なんなの」
「実はですね、ご報告があります!」
「お。なになに」
「昨日、誕生日だったでしょ?」
「あぁ、よく覚えてんね」
「というわけで……サプライズパ〜ティ〜を〜……しました!」
「……」
「サプライズ!」
「……しました?」
「だ・か・ら、サプライズパ〜ティ〜は〜……昨日でした!」
「……」
「サプライズ!」
「整理させて」
「サプライズ!」
「うん、あの、わかったから」
「サプラーイズ!」
「あのね、昨日はオレ、一人で過ごしたのね」
「ハイ」
「誕生日だけど」
「ハイハイ」
「誰にも会わなかったのね」
「ハイハイハイ」
「で、なに?サプライズパーティーを?」
「サプライズパ〜ティ〜を〜……しました!」
「本人呼ばずに?」
「サプライズ!」
「あ、そう…」
「サプライズ!」
「あーそういうことなのー」
「サップライズ!サップライズ!」
「わかったわかった。静まれ。静まれ」
「(サプライズ……)」
「あの、普通さ、サプライズパーティーというのはね、パーティー始める、本人呼ぶ、サプライズ、盛り上がる、おひらき、なんですよ」
「サプライズ」
「いま言ってるのは、パーティー始める、盛り上がる、おひらき、本人に言う、」
「サプライズ!」
「だね。そうだね。順番おかしいじゃん」
「サプライズ…?」
「おかしいよね」
「……サプ…ライズ…」
「わかった?」
「……サプ…ラ…イ…ズ……」
「わかってくれたならいいんだけど」
「……サ…サプ…ラ…イズ……」
「呼んでよパーティーに」
「……サ……サプ……サプ…」
「……」
「……サ……グスン……サプ……グスングスン……サプ……」
「……まー、その……驚いたよ」
「サプライズ…!?」
「ある意味ね、ある意味驚いたよ」
「サプライズ!」
「サプライズではあったよ」
「サプラーイズ!」
「はい。サプライズです。はい」
「サップライズ!サップライズ!サップライズ!」
「いい加減サプライズ以外なんか言えよ」
「昨日はお前が好きなマミちゃんも来たよ」
「えーー!!」
「サプラーイズ!」

深夜の爆弾処理

「おかえりなさい」
「起きてたのか」
「座って」
「カバン置いてくる」
「いいから座って」
「…」
「お仕事大変ね」
「…うん」
「毎晩毎晩」
「うん。この箱なに?」
「土曜も日曜も」
「あぁ、うん」
「家はほったらかしで」
「そう言うなよ」
「ねぇ」
「なに」
「私と仕事、どっちが大事なの」
「…また…」
「どっちなの」
「…ごめんな、そんな質問させて…」
「誤魔化されないわよ」
「どっちも大事なんだよ」
「そればっかり」
「…」
「今日こそハッキリしてもらうわ」
「あ、その箱、なんなの?」
「赤いコードが私、青いコードが仕事よ。どっちか切って」
「えっ」
「ペンチこれね」
「えっ、これ、爆弾…?」
「そうよ」
「そうよって、爆弾、どうしたの」
「作ったのよ」
「作った」
「手作りで」
「手作り…で…」
「あなたのために何か手作りするの、おととしのバレンタイン以来ね」
「あぁ…腕を…あげたね…」
「赤か青か、どっちなの」
「あの、あの一応確認なんだけど、間違ったほうを切ると…どうなる…の?」
「ドカンよ」
「ドカン」
「全部ドカンよ」
「全部ドカン」
「わかるわね」
「全部ドカン…」
「そうよ」
「赤が…?」
「私」
「青が仕事」
「そう」
「大事だと思うほうを…切る…?」
「逆。なんで大事なもの切るの」
「あー…はい。そうですね」
「大事なの切ると爆発するわよ」
「はい…」
「早く」
「あの、あのこれ、例えば、赤を切ったとするじゃないですか」
「私を切るのね」
「例えばですよ例えば。赤を切られたら、単純な話、悲しいじゃないですか。青の仕事が残されて」
「そうね」
「赤切って爆発したとしたら、悲しい上に全部ドカンじゃないですか」
「そうね」
「これ、君が作ったんだよね」
「…そうね」
「…」
「…」
「じゃあ、青を…」
「…」
「青の仕事を切りますよー」
「…死にたくないんでしょ」
「なに?」
「死にたくないから青を切るんでしょ!私が大事だから赤を残すんじゃなくて!」
「違う違う!」
「死にたくないからでしょ!」
「違う違う!君が大事だから赤残すの!」
「嘘よ!」
「ホント!大事!赤が大事!」
「嘘よ!自分がかわいいのよ!」
「っていうか爆発したら君も死んじゃうでしょ!」
「あなただけ死ぬようにできてるわ」
「恐ろしいもの作ったな!」
「手作りよ」
「手作りで!」
「じゃ青切りなさいよ。爆発するかもしれないわよ」
「この流れで『正解は仕事が大事でした』ってパターンないでしょ!」
「…」
「めんどくさいよ…」
「…」
「…」
「…ごめんな」
「…」
「ごめんな、こんな、爆弾作らせて…」
「…いいのよ」
「大事だから」
「ありがとう」
「アハハ…」
「ウフフ…」
「なんか腹減ったな」
「そうね」
「なにかある?」
「赤いコードが肉、青いコードが魚よ。どっちか切って」
「まだやるの!?」

お確かめください

「1820円になります」
「あー……1万円札しかない……これで」
「1万円お預かりします。大きいほう1000、2000、3000、4000、お確かめください」
「え」
「お確かめください」
「いや足りないでしょ」
「お確かめください」
「だから足りないでしょ、1000、2000、3000…5000円札…!?」
「8000円になります」
「えっなにこれ」
「お後、180円になります」
「ねぇなにこれ」
「お確かめください」
「さっきの」
「お確かめください」
「……100……80円です」
「こちら、お品物になります」
「ねぇさっきの」
「右手をお確かめください」
「えっ……あれ」
「胸ポケットをお確かめください」
「……100……80円です」
「袋にお入れいたしますか」
「それどころじゃないよ」
「袋にお入れいたしますか」
「180円が瞬間移動したよ」
「袋に」
「お入れしてよ。お入れして」
「こちらです」
「うん入ってる。入ってます!これは!僕が!買った!品物です!」
「レシートはご入用ですか」
「あれ、お確かめは…」
「レシートはご入用ですか」
「…」
「…」
「あ、なんかすいません…興奮しちゃって…」
「レシートは」
「ください」
「お確かめください」
「きたっ!」
「お確かめください」
「はい!確かに…これは僕の買い物のレシートです!裏も…白くて、透かしても…なにもないです!どうぞ!これどうぞ!」
「それでは返品処理をいたしますのでお品物をお預かりします」
「うんうん」
「お待たせいたしました。代金1820円になります」
「すごーい!レシートがお金になったー!」
「お確かめください」
「今日はいいもの見たー!ありがとう!ありがとう!また来ますね!」
「ありがとうございました……お確かめください」