優しくオモロい読み聞かせ 伊藤聡『生きる技術は名作に学べ』

ブログ『空中キャンプ』伊藤聡さんの初著書。『空中キャンプ』はもうずっと読ませていただいてるブログで、5年くらい読んでるんじゃないかと思ったら開設が2004年とのことなのでそこまでじゃなかった。それだけ日常に溶け込んでいる大好きなブログです。

その伊藤さんの初著書は、ご本人の言葉を借りますと「過去の海外名作小説を十作セレクトし、それらについてコント風に語りながら、役立つエキスを抽出しようというテーマで作られた一冊」(「2010-01-20 – 空中キャンプ」より)。

世界の名作って、実は面白く、人生に効く!
人気ブロガーによる世界の名作の新しい読み方! 食わず嫌いは止めて、やや古めかしく見えるそれらの作品に触れてみよう!
『魔の山』『赤と黒』『異邦人』……教科書などで名前だけは目にしたけど、読んだことはないという人も多い世界の名作の数々。だが、そんな古めかしい小説でも読み方ひとつで、笑えて日々の活力になりもする。人気ブロガーがそれらの世界の名作を軽妙に読み解き、そこから意外なエッセンスを抽出した本書を読めば、人生がちょっと楽になったり、元気になったりもするはず。思わぬ発見に満ちた読書を堪能してみては?

恥ずかしながら、この本に挙げられた十冊とも全て読んだことがありません…。まず章の最初1ページにあらすじがまとめられているので、そんな僕でも安心でした。

いやしかし、ヘミングウェイ「老人と海」なんて、もっとのんびりした話だと思ってた。夕暮れの海、釣り糸を垂れる老人、地域の人々との触れ合い…みたいなの想像していまた。全然違った。危ないところだった。読んでよかった。

とっつきにくい海外古典文学を、ひょうひょうと、するするとしたいつもの語り口で「いかがなものか」と突っ込んだり、十九世紀ロシアに王様ゲームが存在していたことを発見したり、たまに真顔になったり。

『アンネの日記』のアンネの性のめざめに驚き、『ハックルベリー・フィンの冒険』ではずる賢いトムに敵意をむき出しにし、『魔の山』の長い割りにあまりに何も起こらない話から逆に現代人の時間感覚にはなしをもっていったり。1作につき1テーマを吸い出す感じなので、語る焦点もわかりやすい。

「こんな新しい解釈もできるんですよ!」というテンション高めの上からのスタンスじゃなくて、「この人こんな人なんですよ」という横からの語りかけなのも、読んでいない身には理解がしやすくて安心でした。「名作に学べ」という命令形の書名とは裏腹にフレンドリー。

それにしても関心するのは著者の守備範囲の広さ。古典文学だけじゃなく、映画や芸能・スポーツにいたるまで、いろんなところから話題を引き込んできます。落合博満から、村上春樹『1Q84』から、映画になれば『スタンド・バイ・ミー』『アメリカン・ビューティー』から『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『レスラー』まで、縦横無尽です。すごいなぁ。

名作を読んだ事ない人には教養として、読んだことあるひとには「そうそうそう!」と懐かしむ材料としてぜひどうぞ。

妄想約50本ノック 岸本佐知子『ねにもつタイプ』

本業、翻訳家。岸本佐知子のエッセイ集第二弾が文庫化。

前作『気になる部分』同様、妄想おとぎ話が止まらないエッセイ。文庫にして3ページ分が1編で、それが約50本ノンストップで続きます。

コアラの鼻の材質が気になって翻訳が手につかなくなる、小さな富士山を手元におきたくてたまらなくなる、「一生ひとつの表情しかできない」となったらどんな顔にしたいいか悩む、郵便局で列に割りこんだおばさんと脳内コロッセオで激しい戦いを繰り広げる…。

日常の小さな疑問から大きな妄想に発展していったり、子供の頃の暗い記憶を発掘したり、日常と見せかけていきなり妄想劇だったり(商店街の話かと思ったらゾンビの街だったり、新宿丸井の前に大きな穴が開いたり)、とにかく手がつけられない脳の中身。

それでいて、これらが落ち着いた筆致で、翻訳家ならではの豊富な語彙で語られていく。これが、もう、クスクス笑いが止まらない。あんなこと書いてる最中もたぶん真顔なんだろうなぁ。面白いなぁ。

ご本人曰く「気がつかない星人」(裏を読めない、物事を額面通りに受け取る、写真屋のおじさんに鳩が出ますとと言われて本気で待ち続ける)なのに、ちょんまげという髪型の不自然さや「人の間と書いて”人間”って?」と、アサッテのことばかり気がついてしまうこのアンバランスさが、日常から斜め方向にずれていく原動力なのかもしれません。

装丁と挿絵を担当しているクラフト・エヴィング商會も「固そうで超馬鹿馬鹿しい」この本の雰囲気を保っていて、いい仕事してます。一遍につき文章3ページ、挿絵1ページ。パッと見、無駄にかっこいい。

テンションは低く、攻撃力は高く。あぁ、こんな文章かけるようになりたい。

変わり者たちの楽園 初野晴『退出ゲーム』

穂村チカ、高校一年生、廃部寸前の弱小吹奏楽部のフルート奏者。上条ハルタ、チカの幼なじみで同じく吹奏楽部のホルン奏者、完璧な外見と明晰な頭脳の持ち主。音楽教師・草壁信二郎先生の指導のもと、廃部の危機を回避すべく日々練習に励むチカとハルタだったが、変わり者の先輩や同級生のせいで、校内の難事件に次々と遭遇するはめに―。

初野晴は初めて読みます。4編からなる短編集。吹奏楽部の部員を増やす=難題を解決して仲間にする、という、これだけ取り出すとRPGみたいな展開。1編づつ奏者を仲間にしていく中で、いわゆる日常の謎系の青春ミステリになるんだろうけど、全然「日常」じゃないのがポイント。

4編のあらすじはそれぞれこんな感じ。

「結晶泥棒」
科学部が文化祭で展示する予定だった硫酸銅の結晶が盗まれた。硫酸銅は劇薬で、表沙汰になると文化祭が中止になる恐れもある。タイムリミットは3時間。
「クロスキューブ」
高校に進学すると同時にオーボエを辞めた女子。彼女は亡き弟が残したパズルに心を縛られていた。それは”六面全部が白いルービックキューブ”。
「退出ゲーム」
演劇部にいるサックス奏者を勧誘したい。演劇部が提示した条件は「即興劇対決」。制限時間内に相手チームの誰かを舞台から退出するように仕向ければ勝ちなのだが、即興劇ならではのなんでもありの条件に苦しめられ…。
「エレファント・ブレス」
明部が開発した「想い出まくら」。3色の色のイメージを元に思い通りの夢を見る装置、なのだが、匿名の購入主から「エレファント・ブレス」なる謎の色の指定が届き…。
 
それぞれは手がかりの提示により読者が真相にたどり着けるようなものではなく、科学・地理・歴史など多種多様な知識を総動員しないと真実に辿り着けない。高校1年生については博識すぎるのだけど、知識に置いてきぼりにされるわけでもなく、「そういうことだったのか!」というクレバーな解決が待っている。

博識に置いてけぼりにされない理由は、その解決が登場人物の心情や動機に巧みにリンクしていることにもあるとおもう。どうしてこんなことをしなければならなかったのか、面倒なところもあれど、いつのまにか彼らの世界に入り込んでしまう自分がいる。雰囲気的に真木武志『ヴィーナスの命題』をちょっと思い出したりもした(これも好きなんだよなー)

ちょっとした笑いのくすぐりの要素もあり(『エレファント・ブレス』の生徒会長と発明部兄弟とかもう面白くて…)大変楽しかったです。続編の『初恋ソムリエ』も読もうと思います。
 

四億円の土地

最近テレビのニュースで「陸山会が購入した土地」というテロップで、住宅街の一角を空撮した映像をよくみる。

詳しいことは知らないので、なんだかゴニョゴニョしたウンヌンしたお金で買った土地というイメージなのだけど、あの土地をどうするつもりだったのかが気になる。
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龍馬テイクアウト

ちょっと見たニュース。

坂本龍馬の妻・お竜の法要が神奈川県横須賀市が行われたのだけど、そこに京都の神社にある坂本龍馬の墓から龍馬の霊を「分霊」して持ってきて、一緒に位牌を並べて、「104年ぶりの再会を果たした」らしい。
坂本竜馬と妻お竜が“再会” 横須賀市の信楽寺で – 47NEWS(よんななニュース)

というか、霊ってそんなテイクアウトみたいなことができるのか。

こちらでお召し上がりですか的なことも言われるのか。誰にだ。
 
  
全然関係ないけど、龍馬と言えば、あんなに坂本龍馬好きでおなじみの武田鉄矢が、「JIN」では龍馬役を内野聖陽に奪われ、「龍馬伝」でも勝海舟役になっている。

唯一の龍馬オファーが、ソフトバンクのCMの龍馬かぶれだ。

本人の心中いくばくかお察ししたい。