本業、翻訳家。岸本佐知子のエッセイ集第二弾が文庫化。
前作『気になる部分』同様、妄想おとぎ話が止まらないエッセイ。文庫にして3ページ分が1編で、それが約50本ノンストップで続きます。
コアラの鼻の材質が気になって翻訳が手につかなくなる、小さな富士山を手元におきたくてたまらなくなる、「一生ひとつの表情しかできない」となったらどんな顔にしたいいか悩む、郵便局で列に割りこんだおばさんと脳内コロッセオで激しい戦いを繰り広げる…。
日常の小さな疑問から大きな妄想に発展していったり、子供の頃の暗い記憶を発掘したり、日常と見せかけていきなり妄想劇だったり(商店街の話かと思ったらゾンビの街だったり、新宿丸井の前に大きな穴が開いたり)、とにかく手がつけられない脳の中身。
それでいて、これらが落ち着いた筆致で、翻訳家ならではの豊富な語彙で語られていく。これが、もう、クスクス笑いが止まらない。あんなこと書いてる最中もたぶん真顔なんだろうなぁ。面白いなぁ。
ご本人曰く「気がつかない星人」(裏を読めない、物事を額面通りに受け取る、写真屋のおじさんに鳩が出ますとと言われて本気で待ち続ける)なのに、ちょんまげという髪型の不自然さや「人の間と書いて”人間”って?」と、アサッテのことばかり気がついてしまうこのアンバランスさが、日常から斜め方向にずれていく原動力なのかもしれません。
装丁と挿絵を担当しているクラフト・エヴィング商會も「固そうで超馬鹿馬鹿しい」この本の雰囲気を保っていて、いい仕事してます。一遍につき文章3ページ、挿絵1ページ。パッと見、無駄にかっこいい。
テンションは低く、攻撃力は高く。あぁ、こんな文章かけるようになりたい。