高野和明『幽霊人命救助隊』

これすんごい面白かった。神から指令を受け、地上に降り立った4人の霊。彼らは天国に行くことを条件に自殺しようとする命を救うよう命じられた『人命救助隊』だった。期間は四十九日。救うべきは100人の命。

とにもかくにもアイデア勝ち。霊魂となった彼らが生身の人間の心を動かす手段はただ一つ、「メガホンで叫ぶ」なのだった。揺れる自殺者心理をモニターしながら説得したり、時には第三者に事情を聞き込んだり、小学生にピンポンダッシュをさせたり(←これが実はすごく重要な行動なのは読めばわかる)。とても応用の効くアイデアであると共に、「こらー!」と訴え叫ぶことで物語のテンションも嫌がおうにも高まるのだ。ナイス。

あらゆる自殺の動機を網羅してあるのでちょっと分量が多い気もするけど、「幽霊」「自殺」というキーワードにそぐわぬシュールで楽しい救助隊キャラと、叫びのテンションと、泣かせるエピソードも多く取り揃え、かつ自殺者の救助を通して現代社会の問題提起まで執り行うという贅沢三昧。大変おススメです。エンターテイメントはなによりの抗うつ剤。不定な未来に絶望するのはまだ早い。

エラリー・クイーン『九尾の猫』

2005年一発目からいきなり後期クイーン問題ですよ。ミッシングリンクものの傑作ということながら、内容は本格本格というよりサスペンス中心な感じ。とはいえあれだけバラバラな材料が一つの事実をもって一網打尽にまとまる手腕は見事。燃やせ自分の地図。それにしても装丁のセンスがすごいいい。

東野圭吾『嘘をもうひとつだけ』

倒述もの短編5編。容姿は爽やかなのに粘着質の加賀刑事がひたひたと迫る。関係者からの視点ではあるものの、最初に事件の全体像を見せてはくれないので、何の意味を持つかわからない質問をしてくる加賀刑事が読者からも恐ろしく見えるのがポイント。関係者側と同調できる作りなので最後までスリリング。短さも手伝って中身も濃厚。サクッとおすすめできる品です。

柄刀一『レイニー・レイニー・ブルー』

”車椅子の熊ん蜂”シリーズ短編集。短編一つにこれでもかとトリックと反証を詰め込んで、そこに障害者を取り巻く社会が抱える問題まで織り込むという、もうはち切れそうな本。「密室の中のジョゼフィーヌ」は久々に密室もので興奮を味わった。「コクピット症候群」もいい。不可能犯罪がいかに「不可能」であることを見せるのが長けていて、そこを打ち砕いたときのカタルシスに大いにリターンが来るのだ。

石持浅海『水の迷宮』

行動原理的は荒唐無稽だが、感動方面のベクトルがめっぽう上向き。元々その傾向があった作者だけど、今回はその乖離が飛びぬけて激しいなぁ。小さなトラブルに対する対処等はとてもクレバーな面があるのだけど、全体通すと「そんなことしなくたって!」とツッコミの虫がうずくのだった。評価難しい作品だと思う。割と二つに分かれるのではないのか。