ラジオを聴く男と、傘を差した死体

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「朝からずっと雨ですね」
「そうだね」
「先生」
「なんだい?」
「これまでに解決した事件の中で、とびきり奇妙なものと言ったらなんですか?」
「うん?そうだな……加害者が密室にいた、というのはどうだい?」
「密室に……ですか?」
「そして被害者は屋外で死んでいた」
「犯人が中、死体が外って、通常の密室殺人と全く逆じゃないですか……!?」
「まぁ、言ってみればそうだね」
「待ってください、どうやって犯人は被害者を……いや、それ以前に、どうして被害者を殺したのがその犯人だとわかったんですか!?」
「まぁまぁ、順を追って話そうじゃないか。そうだな…仮に加害者をAとしようか」
「犯人のイニシャルですか?」
「フフ、ただの記号だよ。そんなに真面目な顔しないで、肩の力を抜いて聞いてくれ……その日は今日みたいに朝から雨だった。屋根に落ちる雨音をバックに、Aは椅子に腰掛けてラジオを聴いていた」
「被害者は?」
「被害者は…Bとしようか…Bは朝から降り続く雨の中、傘を差して外に出かけた。近所のコンビニで弁当を買った」
「全く別行動ですね」
「そうだね。もちろん同じ日、同じ時刻、同じ日本国内だよ」
「そこまで疑ってないですよ」
「念のためね。Bは買い物を終えて家路につく。一方、Aはエアコンの効きの悪さにイライラしていたと言っている……そしてその時がくる」
「殺人、ですね」
「Bがどうやって死んだのかは伏せておこうか」
「えっ、一番大事なところじゃないですか」
「ハハハ、一番大事だから伏せておくんだ。ちょっと考えてもらおうかな」
「死因もわからないのに殺害方法を考えるんですか?」
「まぁまぁ、肩の力を抜いて。ここが一番大事、というのがヒントになるんじゃないかな……とにかくBは家にたどり着くことなく死んだ。即死だった。差していた傘は開いたままそばに落ちていた」
「そのときAはどこに?」
「座ってラジオを聴いていたままさ。ドアには内側から鍵がかかっていた。窓も閉めきられている」
「内側から鍵がかかっていたなら、Aは簡単にドアを開けて外に出られるんじゃないですか?」
「ところがそうはいかない。目撃者がいる。目撃者によると、その時刻、Aは外には出ていない。窓にはカーテンがかかっていないので、中が丸見えだった」
「目撃者がいたんですか……。朝から雨だった、って言ってましたけど、犯行時刻は昼ですか?」
「昼だね。12時ごろ。目撃者の見間違えじゃないよ。目撃者はAと面識はないし、ここでは証言は信用していい。」
「そうですか……じゃぁ室内から、例えば銃で狙撃したとか?」
「いや、どこにも銃痕はなかった。窓のほかには換気口があるが、複雑な構造なので銃弾が通り抜けることはできない。もちろん、人間もね」
「では、遠隔殺人でしょうか?携帯電話でなんらかの仕掛けを…」
「いや、Aの携帯電話の電源は切られていた。電話局の記録からもそれは明らかだ。他に有線も無線も装置はない。おっと、言っておくけどWi-Fiもない。ネットを使った可能性は考えなくていい」
「うーん…」
「もう一つ、驚くことを教えてあげようか」
「いったいなんですか?」
「Aは椅子に座っていたと言ったが……実はベルトで椅子に拘束されていたんだ」
「なんですって!?」
「驚いただろう」
「その部屋にはA以外にも誰か人物がいたってことですか?」
「いや、Aしかいない」
「そんな!部屋には内側から鍵がかかっていたから……Aを拘束した人物はどうやって外に……!?その人物が犯人なんですか?」
「落ち着いて。最初に言っただろう、加害者はAだ」
「えー?」
「そろそろわかるかな」
「椅子に縛られた犯人が、外にいる人物を殺す……?犯人を椅子に縛り付けた第三者は煙のように消えるし……うーん……降参です」
「ヒントをあげようか。君はさっきからAを『犯人』と呼んでいるけど、僕はそう言ってないよ。『加害者』と呼んでる」
「同じことじゃないですか?」
「あとは……そう、『部屋』とも言ってない。『室内』も」
「部屋じゃない…」
「もうわかっただろう」
「ダメです。やっぱりわかりません」
「肩の力を抜いて、って言ったんだけどな。先入観に捕らわれてしまったね。探偵小説の読み過ぎかな」
「探偵は先生じゃないですか」
「まぁね。じゃぁズバリ答えを言うよ。これは『交通事故』なんだ」
「……AがBを偶然殺したってことですか?」
「あぁ、比喩じゃないよ。そのまんま。Aが運転する車がBを轢いたんだ」
「え……?」
「目撃者がいたから、Aは業務上過失傷害で現行犯逮捕された。それは普通『犯人』って呼ばないから、一応『加害者』と言わせてもらったよ」
「でも、Aは座ってラジオを聴いていたって……」
「車にラジオはついてるだろう」
「椅子に拘束されていたってのは……」
「シートベルト」
「………」
「そう怒るなよ」
「奇妙な事件でもなんでもないじゃないですか!」
「でもさっきまで君の頭の中は奇妙でいっぱいだっただろう?普通のことでも、見方を変えればとびきり奇妙になる。この世は奇妙であふれているのさ」
「勘弁してくださいよ」
「ハハハ、頭の体操はこれくらいにして、出かけようか。雨もあがったようだ」
「はいはい」
「そうだ、温泉旅館で遭遇した密室の話をしようか。僕が露天風呂から帰ってくると、鍵をかけたはずの部屋の中に布団が敷かれていて…」
「もういいです」

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