ほのめかす供述

unsplash_2014042201

「へー、取調室って、テレビで観たのよりキレイなのね」
「さぁ、旦那をどうしたのか教えてもらうか」
「あら、探してほしいのはこっちよ」
「どうだか」
「もう1週間も連絡が取れなくって、心配で心配で、腰もちょっとくびれちゃったわ」
「どうだか」
「ところで刑事さん」
「なんだ」
「ここの窓から見えるあの山、あそこには底なし沼があるんですって。何を入れてもすっぽり飲み込んでしまうって話よ。その噂を聞きつけた産廃業者が夜な夜なトラックで乗り付けて、産業廃棄物を毎晩捨ててるんですって。どんなゴミでも綺麗さっぱりなくなるらしいわよ。いやよねぇ。そんなところに、人なんか落ちたら、ひとたまりもないわよねぇ……」
「おい!」
「あら」
「いま、ほのめかしただろ!」
「なんのことかしら?」
「旦那を殺してその底なし沼に沈めたことをほのめかしただろ!」
「いやだわぁ刑事さん、誤解ですわよ」
「ならいいが」
「ところで刑事さん」
「なんだ」
「この時期旅行に行くなら京都がいいわよぉ。暑くもないし、寒くもないし。連休は混んじゃうから、波が引いたその後に行くのがいいわよね。あたしこう見えても古いお寺とか大好きなの。ゴミゴミした喧騒から離れてね、竹林のザワザワしか聞こえないような参道を通ってね、時が止まったみたいよぉ。あの人も一緒に行ければ、いや、行けたらよかったのにね……」
「おい!」
「あら」
「いま、ほのめかしただろ!」
「なんのことかしら?」
「語尾を過去形で言い直すことで暗に相手が死んでいることをほのめかしただろ!」
「いやだわぁ刑事さん、誤解ですわよ」
「ならいいが」
「ところで刑事さん」
「なんだ」
「あなた、8歳になる娘さんがいるんですって?ここに来る前に婦警さんに聞いたわぁ。かわいくてたまらないわよねぇ。傷ひとつつけたくないわよねぇ。大事な一人娘ですもんねぇ。夜道を歩くときはくれぐれも気をつけたほうがいいわよぉ」
「おい!ほのめかしただろ!」」
「なんのことかしら?」
「娘のことを心配すると見せかけて娘に危険が迫っていることをほのめかしただろ!」
「いやだわぁ刑事さん、誤解ですわよ」
「ならいいが」
「ところで刑事さん」
「なんだ」
「うちの旦那はね、馬鹿なの。もうホント馬鹿。あたしが髪を切っても気がつかないし、記念日は毎年忘れちゃうし、指輪のサイズだって間違えるし、LINEに既読がついてるのに読んでないってウソつくし、着てる服だってダサいし、毎晩毎晩飲んで帰ってきてご飯食べてくれないし、うちのダンナ、ホントに馬鹿なの……」
「おい!ほのめかしただろ!」」
「なんのことかしら?」
「旦那の愚痴と見せかけて結局胸の内では旦那のことを愛しているってほのめかしただろ!」
「いやだわぁ刑事さん、誤解ですわよ」
「ならいいが」
「ところで刑事さん」
「なんだ」
「この年で専業主婦だとね、再就職なんかも難しいの。だからあたし、資格取ろうと思って。ほら、AKBのなんとかっ子も勉強してた調剤薬局事務?あんなアイドルも受かるんだから簡単かと思ったら、難しいのねぇ。もう全然勉強してない。昨夜も漫画読んで寝ちゃった。受かる気がしないわぁ……」
「おい!ほのめかしただろ!」
「なんのことかしら?」
「勉強してないしてないと言って周りを油断させておきながら実際はちゃんと勉強してて高得点を取る感じをほのめかしただろ!」
「いやだわぁ刑事さん、誤解ですわよ」
「ならいいが」
「ところで刑事さん」
「なんだ」
「昨日からノドが痛いの。朝起きたらやっぱり治ってなくて、風邪っぽいの。でも気合で治そうと思って今日は来たの。明日もちゃんと来ないとねぇ……」
「おい!ほのめかしただろ!」
「なんのことかしら?」
「前々日から徐々に体調不良であることをチラつかせてアイツなんだか最近具合悪いなぁと思わせておいて休みたい日に仮病を使ってバイトや会社を休む感じをほのめかしただろ!」
「いやだわぁ刑事さん、誤解ですわよ」
「ならいいが」
「ところで刑事さん」
「なんだ」
「あたし、この取り調べが終わったら再婚するの……」
「おい!ほのめかしただろ!」
「なんのことかしら?」
「やっとのことで厳しい取り調べを終え帰路についたところで再婚相手から着信があってウキウキで会う約束を取り付けて電話を切った直後にダンプが突っ込んできて死んでしまうフラグをほのめかしただろ!」
「いやだわぁ刑事さん」
「なんだ」
「旦那がいたら、いま好きな人と再婚なんてできないもんねぇ……」
「おい!」
「あら」
「ほのめかしただろ……!」
「いやだわぁ」

恐ろしき四月馬鹿

「犯人がわかりました!警部さん、皆を大広間に集めてください」
「なんだって!犯人は一体誰なんだ!?」
「上原さんです」
「あの善良そうな娘が……!?」
「善良そうな振りをして、大旦那のお茶に毒を持ったのです」
「善良そうな顔して……」
「善良そうな顔をして、死んだ大旦那の悪口を2chで言いふらしていたんです」
「善良そうなのになぁ」
「善良そうなのに、その悪口をまとめブログにしてアフィリエイト収入も得ていました」
「なんで善良そうだと思ったんだろう」
「今となっては最大の謎です」
「よし、すぐに確保だ」
「待ってください」
「なんだ」
「ウソです」
「え?」
「今までの話はウソです」
「え」
「犯人は上原さんじゃないです」
「なんでそんな嘘つくのかね」
「エイプリルフールなので」
「今やることかね」
「様式美なので」
「Yahoo!とか円谷プロとかその辺に任せたらどうかね」
「とにかく、皆を大広間に集めてもらえますか」
「わかった」
「先にうちの助手の小林くんも向かっています」
「小林くんか。心強い」
「ウソです」
「またかね」
「またです」
「誰も行っていないのだな」
「佐藤くんが向かっています」
「そこがウソなのかね」
「そして助手ではなくて叔父です」
「そこもかね」
「佐藤さんです」
「叔父だからね」
「ところで、皆さんは大広間に……」
「いま集めようとしているんだよ」
「ウソです」
「集めなくていいのかね」
「この屋敷に大広間はありません」
「おかしいと思ったんだよ」
「6畳風呂なしです」
「屋敷ですらないもの」
「そして犯人ですが……」
「わかってないのかね」
「賢い人にしか見えません」
「バレバレのウソじゃないか」
「失礼しました。この事件には……犯人はいないのです」
「いない?」
「不景気による倒産、押しかける借金取り、上原さんとの不倫による泥沼の離婚劇……八方ふさがりになった大旦那は、自らのお茶に毒を盛り……」
「まさか……自殺……」
「……」
「……」
「ウソです」
「やっぱり」
「不倫相手は上原さんじゃなくて叔父の佐藤さんです」
「そこかね」

これは関係ないかもしれませんが

small_83359336

「他になにか気がつかれたことはありませんか」
「他に…と申されましても……」
「一見、事件とは関係なさそうな出来事が、解決の糸口になることが往々としてあるのです。どんな些細な事でも構いません。なにか気がつかれことはありませんか」
「これは……関係ないかもしれませんが……」
「構いません。どうぞおっしゃってください」
「あの日、旦那様は広間の大時計を気にしておられました」
「ほう」
「どうされたのですか?とお声がけをしたところ『こんなところに傷があったかな』と不思議そうにしておられました」
「ほう……なるほど」
「お役に立ちますでしょうか」
「ご心配には及びません。多くの情報を整理し、吟味し、道筋を作ることが我々警察の使命ですから」
「それはなによりです」
「他になにか、気がつかれたことはありますか」
「これは……関係ないかもしれませんが……」
「どうぞ、遠慮なさらず」
「あの日、旦那様は普段より食欲が無いようにお見受けいたしました」
「ほう」
「昼食のそうめんを、いつもの2束ではなく、1.5束で済ませていました。『残暑が残りすぎている』と、暑さに参っているようでした」
「なるほど……」
「お役に立ちますでしょうか」
「被害者の体調も大事な情報です。貴重な情報をありがとうございました。ではここで」
「あと……これは関係ないかもしれませんが」
「あ、はい」
「あの日、旦那様は、PCにUSBメモリを刺すのに苦労されていました」
「はぁ」
「『刺さらないかと思って、反対にしてみればやっぱり刺さらない。結局最初の方向で正しいのだ。全くどうかしている』と、ひとりごちていました」
「なるほど」
「お役に立ちますでしょうか」
「まぁ、あるある、ですが……。いや、どうも貴重な情報を」
「あと……これは関係ないかもしれませんが」
「なんでしょう」
「あの日、旦那様はマナカナの区別がつかなくなっていました」
「以前はついていたのでしょうか」
「『マナと思えばカナ、カナと思えばマナ。全くどうかしている』と、ひとりごちていました」
「はぁ」
「ちなみにチップとデールの区別の仕方は、鼻が茶色いのがチップ、赤いのがデールであり、”チョコチップと鼻血デール”と覚えるとよいと聞きました」
「それも旦那様が」
「いえ、王様のブランチで観ました」
「ブランチ…」
「お役に立ちますでしょうか」
「浦安では役に立つかと……ありがとうございました。これで」
「あと……」
「なんですか」
「関係ないかもしれませんが」
「しれませんけど」
「あの日、旦那様が部屋に入った直後、どなたからか電話がかかってきたようでした」
「それを詳しく」
「旦那様の携帯電話の呼び出し音が鳴り、旦那様がお出になられました」
「会話の内容はわかりますか」
「最初のほうは聞き取れなかったのですが」
「はい」
「しばらくして、旦那様が大きな声で……」
「大きな声で!?」
「『いいとも!』と、おっしゃいました」
「そう……ですか……」
「タモリなのでしょうか」
「確認はしますが……」
「明日のテレフォンショッキングはどうなるのでしょうか」
「それは警察ではなくフジテレビが決めることです」
「あと……」
「なんすか」
「これは関係ないかもしれませんが」
「はい」
「ガラガラヘビは、交尾に長く時間をかける動物で、その長さは約23時間にも及ぶそうです」
「関係ない!」

photo credit: Kaptain Kobold via photopin cc

ホトトギスが鳴かない時の「故障かな?と思ったら」

「鳴かぬなら ○○○○○○○ ホトトギス」

鳴かないなら、殺したり、鳴かせようとしたり、待ったりする。織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の性格の違いを表した、有名な俳句である。

でも、これが現代だったらどうだろう。

サポートセンターに電話して聞く前に、まずは取扱説明書の「故障かな?と思ったら」をチェックすると思う。

そんなわけで、ホトトギスが鳴かない時の「故障かな?と思ったら」を作ってみました。これからの天下取りの参考にしてください。

hototogisu

透明人間 イン・ザ・ハウス

あ、もしもし。

メール見た?

いや、どういう意味もなにも、そのまんま。

そうそう。

いや、なんでって言われても、俺が知りたい。

さっき起きて、鏡見たら、うつってないの。顔も体も。

マジマジ。

マジで。うつってないの。メガネだけ浮いてんの。

マジうけるじゃないよ。

ならないよ。透明人間になったからって視力良くなったりしないよ。

マジうけるですけどじゃないよ。

ホントなんだって。

いや幽体離脱じゃないって。いないもん体が。

俺生きてるから。生きてるから電話かけれたんだし。

そうそうそう!iPhoneちゃんと動くの。透明人間でもスッスッってできるの。

ぱねぇよ。ジョブズぱねぇわ。

いま?いま部屋。

あー、うん。一回全部脱いだ。全身見えない。透け透け。透け透け人間。

自分の体だけど、自分でも見えないね。

いや、自分の体があるのはわかる。わかるわかる。

あのー、ほら、目つぶってもさ、ちょっと体動かすと、手とか足とかあるのわかるじゃん。そんな感じ。

外に?

やんないよ!

全裸で外に出ないといけないじゃん。

そりゃ透明だけど、全裸で外に出るのやだよ。

寒いって。

透明になっても寒いものは寒いの。そこは変わんないから。

透明だけど人間だから。

だからやだって!

それにさ、いつ元に戻るかわかんないじゃん。コンビニに突然全裸の男が出たらみんなビビるじゃん。

ターミネーター2じゃないよ。

マジうけるじゃないよ。

のぞきとか無理だって。

ムリムリ。実際無理。そんなのはね、お話の中の話だから。

それに頑張って全裸で行ってもメガネだけ浮くし。

マジうけるじゃないよ。

信じないないなら見に来たらいいじゃん。

俺から行けるわけないでしょ。

全裸で電車乗れないでしょ。

いや、人には見えないけど、誰かにぶつかったりしたら変な感じになるでしょ。

ぶつかるって。

幽霊じゃないからぶつかるの。死んでないから。つり革もつかまるから。

チャリも無理。聞いてた?今までの話?

あのね、透明ならなんでもできると思ってるけどそうでもないからね。結局。結局人間だから。

にんげんだもの。

いやなんでもない。

あ、そうだ、お願いがあって電話したんだ。

あのさ、俺いまこうなってるからさ、食べ物とかの買い出しをね、お願いしたいんだけど……。

なぜって全裸でコンビニは無理だからです。

ターミネーター2じゃないよ!

それはシュワちゃんが妊娠するやつ!

マジうけるじゃないよ!

え?

あー……。

あー……彼女にね……本来ならそっちにね……。

いや、まあ、頼めるなら頼むだろうけどさ……もう無理なんだよね……。

そうじゃないけど。

別れたんだよね。

マジで。

先週。

マジです。

まあ、そりゃ言ってないから知らないわな。

ちょっといろいろあって。

うん、でも、そろそろかな、って感じはあったんだよね。あんまり会わなくなってたし。

空気みたいな感じだったよね。

でもさ、空気ってさ、無いと生きていけないじゃない。

まあいま、まさに、空気みたいな見た目に……なっていますけどね……。

なんかすまんね。

あ、来る?

いや、銘柄のこだわりない。ビールならなんでも。

ありがとね。

じゃ全裸で待ってるから。

改札でじゃなくて部屋でな。外出ないからな。

じゃまた。あーい。