フリーライターの寺坂真以が仕事場代わりにしているファミリーレストランには、名探偵がいた。店の常連ハルお婆ちゃんは、客たちが話す「不思議な話」を聞くと、真以を呼び寄せ、たちどころに謎を解いて見せるのだ。そんなお婆ちゃんにも、ある秘密があったのだが…。可愛くって心優しいお婆ちゃん探偵が活躍する、ハートウォーミングな連作ミステリー。

いわゆる日常の謎ミステリですが、謎の解決部分にはどうもその、「こうだったんじゃないか」という解釈に乗り切れないことが多くてちょっと消化不良。「そうだったのか!」と登場人物が驚くを見て、イヤイヤイヤそんなめんどくさい事になるかいな、とどうしてもつっこんでしまうのだった。

 

だまって食べればピタりと解ける。

下町の小さなフレンチ・レストラン、ビストロ・パ・マル。風変わりなシェフのつくる料理は、気取らない、本当にフランス料理が好きな客の心と舌をつかむものばかり。そんな名シェフは実は名探偵でもありました。常連の西田さんはなぜ体調をくずしたのか? 甲子園をめざしていた高校野球部の不祥事の真相は? フランス人の恋人はなぜ最低のカスレをつくったのか?……絶品料理の数々と極上のミステリ7編をどうぞご堪能ください。

MYSCON9昼の部のゲストの一人、近藤史恵さんの現時点でのミステリ最新刊。

謎をすべて料理に絡ませていて、シェフが用意した料理を”食べれば解ける”状態にもっていってるのが面白い。北森鴻の「香菜里屋」シリーズを思わせるけども、こちらはフランス料理一本。この縛りをこなすには肩に力が入りそうなところ、さらっと後味軽く作り上げてるのも旨い。いや、巧い。

上品な作品集であり、分量も上品ゆえ、読了後もまだ食べ足りない感じが残るのですが、それはそれ、今後のシリーズ化でメニューが増えていくのも期待しております。

 

現職の精神科医が現場で感じる”やさしさ”の偏移そして変異とは。

席を譲らない“やさしさ”,好きでなくても結婚してあげる“やさしさ”,黙りこんで返事をしない“やさしさ”…….今,従来にない独特な意味のやさしさを自然なことと感じる若者が増えている.悩みをかかえて精神科を訪れる患者たちを通し,“やさしい関係”にひたすらこだわる現代の若者の心をよみとき,時代の側面に光をあてる.

お互いの心に踏み込まない、相手の気持ちを先回りして自分の行動を制限する、誰のせいにもできないため決断ができない…。”やさしすぎる”ためにいろいろねじれてしまう人々たち。著者曰く、現代のやさしさは「治療としてのやさしさ」でなく「予防してのやさしさ」だという。

あぁ、あるあるとうなずいているうち、自分の中にもこの”やさしさ”が存在していることに気がつく。傷つかないための「予防としてのやさしさ」は確かに、ある。そしてネガティブな感情(傷ついた!)や「自分探し」がその”やさしさ”を中心に説明されてしまうと、なんだかタネを見せられたような、そんなことだったのか!と、ふっ、と弛緩する。

著者と患者の面談がケーススタディとして豊富に書かれているんだけど、これが思いのほかミステリっぽい。患者が精神科にやってきた動機が謎となり、探偵でもある精神科医が巧妙な質問と推測で謎を引き出していき、最後に患者本人が自分の心境に気づいて大団円。ちょっと出来すぎな気もするけど(「私…子供産もうかしら」にはさすがに意表を突かれた)まさに「日常の謎」のような趣きです。

10年以上前の本だけど、「相手の気持ちを読もうとして」「沈黙したり立ち去ったり」なんて、まさに今でいうところの「空気を読んでスルー」。自分探しの話題もあり、まだまだ現代にも通じる内容です。作中で「自分たちの”やさしさ”は大人にはわからない」と言っていた若者なんて、もう大人になってるじゃないか。行き過ぎた”やさしさ”はどこまで行き過ぎるんだろう。
 

恋文 (新潮文庫)

内容と全然関係ないけど、この本にミステリを感じる方には連城三紀彦『恋文』なんてオススメしてみよう。日常のホワイダニットを男女間の揺らぎに埋め込む5編の短編集。

 

遠まわりする雛

「古典部」シリーズ最新作。古典部のメンバー4人の入学直後から『クドリャフカの順番』で舞台となった文化祭を経て、春休みの出来事までをピンポイントに取り出した短編集。これまでの長編3作の合間にあった「日常の謎」が明らかに。

”省エネ主義”なのに解決役を頼まれて、結果として安楽椅子探偵っぽくなってしまう主人公・折木奉太郎は健在で、校内放送で『九マイルは遠すぎる』をやってしまう「心当たりのあるものは」は推理作家協会賞候補にもなった良作。

しかしやはり白眉は「手作りチョコレート事件」と「遠まわりする雛」。日常の謎を織り交ぜながら、古典部男女4人の人間関係が動き出す。気づかないふりをしていた気持ちが、見過ごせないほど大きくなっていく。あぁ青春やなぁ。

シリーズを通して読んでる人ほど本作の展開は最重要。1年が終わり、そして春が来るのである。

10月 282007
 

Rのつく月には気をつけよう

食べ物と色恋を絡めた、いわゆる「日常の謎」の連作短編集。今年の石持浅海は『人柱はミイラに出会う』 『心臓と左手 座間味くんの推理』と全て短編集なんだけど、全て趣向が違うのがおもしろい。

舞台は全てマンションの一室。学生時代からの飲み仲間三人が企画した飲み会を行うのだけれど、毎回ゲストを一人連れてくる。酒と肴も毎回異なり、牡蠣や銀杏、チョコレートフォンデュなど。飲みが進むうちに、ゲストがポツリとそのときの肴についてつぶやいた一言が謎解きのスタートの合図になる。

毎回食べ物と色恋の趣向が変わるのでなかなかに凝っていておもしろい。だけれども、理詰めの展開を得意とする作者だけに、その論理の刃が日常レベルに降りてきてしまうと、そこまで普段考えて行動するかしら…とどうも行き過ぎた感じになってしまう。

ただ、色恋のとなると人は無駄にいろんなことを考えてしまうわけで(あの時のあの発言はなにか意図があって…とか)、その普段使いじゃない思考をいわば「狂人の論理」として扱うとこんな作品になるのかなぁとも思います。

油断してると最後に大ネタがあったりして、意外にサービス精神旺盛な本なのではないか。装丁もかわいいしねぇ。

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