西澤保彦『方舟は冬の国へ』

六年勤めた会社を辞め、失業中の十和人は、ハローワークの前で奇妙な男に声をかけられた。仕事を依頼したいという。それは、一カ月の間、別の名前を名乗り、見知らぬ女性と少女との仲のいい三人家族を装って、盗聴器と監視カメラのある家に滞在するというものだった。依頼を受けて滞在を始めた三人に、不思議な現象が起こりはじめる…。

ヘンテコシチュエーションから酩酊推理と見せかけてSF設定パスラーだと思いきや大人の御伽噺。荒唐無稽なつくりなのになんだこの心温まる感じは。いいなぁー。20代後半から30代前半男子向けファンタジー。

片山恭一『世界の中心で、愛をさけぶ』

何の因果かセカチュー。泣きながら一気に読んでないけど。なかなかにせつない。

映画・テレビとの大きな違いは主人公のテンションの低さか。っていうか叫ばないし!シーンとシーンの間に隙間が多く、もっと泣かすシーンを挟もうと思えばいくらでも挟めるところが映像にしやすい理由だったのかな。登場人物も少ないから増やせるし。

黒田研二『幻影のペルセポネ』

現実世界と電脳世界で起きた殺人事件のリンク。さすがのネタ満載ぶり。しかし後半は真相繋ぎに忙しくなって、読んでてちょっと煙に巻かれた感じになったのが残念。電脳世界のルール作りが丹念に行われていて、ちょっと前の西澤保彦のようなSF設定ミステリを彷彿とさせるのだけど、そこはコンピュータ内の世界なので、「そんなこと言ってもどうにかなっちゃうんじゃないの?」と思われちゃうのがちょっと難点か。難しい。

小路幸也『Q.O.L』

「殺したいやつがいるんだ。」
殺し屋だったという父の遺言で、拳銃を昔の相棒に届けることになった龍哉。同行を申し出た同居人の光平とくるみには、その拳銃を使って「やりたいこと」があった。3人の思惑をのせてサンダーバードは走る。新鋭が描く、痛みと癒しの青春ロードノベル。

拳銃と車を手に入れた若者三人のロードノベル、と帯で見て、暴力かハイテンションかと思って読み始めたら、穏やかでニュートラルで、そしてとてもクレバーな話だった。

三人それぞれが親兄弟にトラウマがあり、それはとても深く暗いのだが、ただ荒れる時は過ぎ「信頼できる仲間」という安息を得てから物語が始まるため、躁すぎず鬱すぎずのキャラ造形がとても大人に映る。かといって物語に起伏ないわけでは全然なく、ロードノベルの道から外れだしてからの展開は予想を上回る着地点でほぅと嘆息。いい!

Quality Of Life,Quest Of Love. 冷えすぎず熱すぎず、僕は僕の声を聞く。

綾辻行人『暗黒館の殺人(上下)』

やっと読了。次にカミさんが読むので明言は避けるものの、長い!ひたすら長い!

旧家の怪しげな風習に翻弄される主人公 → 館の中の誰かに詳細を尋ねる → 誰かが思わせぶりに答えようとする → 邪魔が入って中断 → また誰かに聞きに行く → また邪魔が入る → また怪しげな風習が登場 → 誰かに尋ねる → 邪魔が入る → 死体が!

もう!もう!