柄刀一『レイニー・レイニー・ブルー』

”車椅子の熊ん蜂”シリーズ短編集。短編一つにこれでもかとトリックと反証を詰め込んで、そこに障害者を取り巻く社会が抱える問題まで織り込むという、もうはち切れそうな本。「密室の中のジョゼフィーヌ」は久々に密室もので興奮を味わった。「コクピット症候群」もいい。不可能犯罪がいかに「不可能」であることを見せるのが長けていて、そこを打ち砕いたときのカタルシスに大いにリターンが来るのだ。

石持浅海『水の迷宮』

行動原理的は荒唐無稽だが、感動方面のベクトルがめっぽう上向き。元々その傾向があった作者だけど、今回はその乖離が飛びぬけて激しいなぁ。小さなトラブルに対する対処等はとてもクレバーな面があるのだけど、全体通すと「そんなことしなくたって!」とツッコミの虫がうずくのだった。評価難しい作品だと思う。割と二つに分かれるのではないのか。

大山誠一郎『アルファベット・パズラーズ』

「全てが謎と論理に奉仕する」という本格推理の理想系をまさに追求した作品。しかし(推理にとっては)無駄なモノがなさすぎるのもそれはそれでちょっと…と悩ましいところ。事件自体も無理無理多しで、犯人はもう少し落ち着け!と言った感じ。

法月綸太郎『生首に聞いてみろ』

苦悩の探偵・法月綸太郎が帰ってきた。こんな複雑な悲劇の連鎖をよくぞここまで形にしたの一言。読み終わってはいるが事件を全部把握できていないような気がするほど深い。誤った仮説である「捨て推理」が幾つも試みられていて、濃厚な洋酒のような刺激と酩酊感。見事。

有栖川有栖『白い兎が逃げる』

良品揃いの短編集。ツボをきっちり押えた本格推理で安心して楽しめる。「地下室の処刑」のメインの謎はどこかで見たようなことがある気もするが…(「死刑囚パズル」以外で)。それにしても表題作が一番間延びしてるのはどういうこっちゃ。