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伊坂幸太郎
伊坂幸太郎『砂漠』
「鳥瞰型」の主人公・北村、やませみ頭のブルジョア・鳥井、陽だまりの超能力者・南、リアクション薄の超美女・東堂、そして前進前進また前進の演説男・西嶋。四月、仙台の大学に進学した5人。麻雀をきっかけにして始まる、あっという間の学生生活。
参った。余韻に浸りすぎです。「5人の青春群像」とか書けばそのまんまなのですが、とにかく登場人物たちへの愛着の沸き方が半端じゃない。朝、通勤電車の車内で途中まで読んで、その後会社で仕事しているとき、ふと「あいつら今頃どうしてるかな」と思ってしまうくらい彼らが好きになる。何気ないやり取りや行動の一つ一つが彼らを作り、本の中に命が吹き込まれている。出会ったら二次会までは確実に行きたい。最低2半荘はやりたい。
「春」の章から始まる物語で、幾つかの事件に巻き込まれながら、その一方で普通に暮らしながら、喜怒哀楽を繰り返し、彼らの四季は過ぎていく。これはね、いいですよ…。ほんとに…。しみじみ言うけど。読み終わって余韻に浸るとき、ラスト近くに作者が施したちょっとした仕掛けが、また物語を奥深くさせてくれるのだ。
この話舞台が仙台なんですが、僕も仙台で学生時代を過ごしたこともあり、いろいろと光景が懐かしい。これは宮城野区のほうだなとか、この歓楽街は国分町だなとか、青葉通りと東二番丁がぶつかる交差点の地下の噴水とか出てきますよ。ちくしょう八木山に住めよ、とかつっこんだり。2倍楽しめます。
それにしても伊坂幸太郎の作品ってRV車=悪者率が高い気がするのは気のせいでしょうか。
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2005年:今年読んだ本ベスト10
- 2005-12-31 (土)
- 読書感想文
2005年も残すところあと数時間。今年読んだ本は87冊でした。どうしても毎年100冊まで届かないなぁ。今回はその87冊から心のベスト10冊を挙げていきます。順位はなしで。あくまで「今年読んだ」なので、出版はもっと前のものもあります。

石持浅海『扉は閉ざされたまま』
本ミスでも1位に投票しました。「扉を破らない密室モノ」という、普段ならボケで笑うしかないようなシチュエーションを、よくぞここまでスリリングな本格に仕上げたものだと感服。犯人側から描く倒叙形式で、じりじりと探偵役に追い詰められてく。犯人vs探偵が純粋な敵対関係でないところもいい。動機がやはり受け入れがたいが『セリヌンティウスの舟』まで読み続けると慣れてきますなぁ。

伊坂幸太郎『魔王』
今年、『魔王』『死神の精度』『砂漠』と3作出した伊坂幸太郎。『魔王』のテンションの高さには参った。不思議な能力を持った兄弟が来るファシズムと静かに闘う様子は、これが架空の話とは思えないほどの緊張を読者にもたらす。伊坂の中では異色かもしれないが、この読後感はいろんな人に体験してほしい。

東野圭吾『容疑者Xの献身』
このミス、本ミス、文春と三冠達成。数学者の一途な思いが作り出した完璧なトリック。「恋愛感情」と「トリック」が劇的に密接なつくり。トリックについては全然気づかなかったので、かなり驚いた。数学者の友人でもある、探偵役の物理学者・湯川の揺れる心情にも注目。最近は指紋が付かない表紙に変わったらしいですよ。
東川篤哉『交換殺人には向かない夜』
東川篤哉を初めて読んだ年でした。小ネタも好きだし、その小ネタがさらに伏線になっているという贅沢構成。『館島』のバカ館もいいけど、本作の平行線が一本に収束する衝撃のラストを推したい。こんな話をよく行き当たりばったりで書いたもんだ!
鳥飼否宇『痙攣的』
鳥飼否宇も今年初。その奇想っぷりに嵌まると癖になる濃さ。『逆説探偵』も『昆虫探偵』も好きだけど、もう『痙攣的』でぶっとんだ。途中まで普通に(普通でもないけど)してたじゃない!もうアホ!アホ!(ほめ言葉)。
松尾由美『雨恋』
「大森望氏も涙!」の帯が印象的。幽霊との淡い恋物語ですが、そこに絡めたルールが「彼女が死んだ真相が明らかになるほど姿が見える」というすごいジレンマなもの。以外と入念な外堀で本格度も高いような。ラストも泣ける。そりゃぁ大森望も泣くよぉ。
高野和明『幽霊人命救助隊』
そういえばこれも読んだの今年入ってからだ。幽霊が自殺者を止める、その手段を「大声で説得」にする発端から、幽霊-人間を繋げるアイデアがとても秀逸!笑って泣いてのジェットコースター。隠れたおススメ本。
浅草キッド『お笑い 男の星座2 私情最強編』
『本業』も熱かったけど、やはりお笑い界を書いているときが一番乗っている気がする水道橋博士。思いを語りグイグイ引き込み、韻やくすぐりも交えて、もはや暗唱したくなるような文章。前書きの出版界への警鐘も必読。
いとうせいこう・奥泉光・渡部直己『文芸漫談』
文学界最高のボケ・ツッコミコンビ。この調子で本当に舞台に立っているんだからすごい。やりとりに笑っているうちに文学の読みどころがわかってくるという、最高のネタ本であり教科書。いとうせいこうと奥泉光を来年はもっと読みたい。
The Arbinger Institute『箱―Getting Out Of The Box』
「自己欺瞞」のメカニズムを「箱」という概念を通して説明。人間関係について目からウロコ、と各方面で話題らしく、amazonのユーズド価格が大変なことに。図書館で読みました。わかったような気になっているけど、もう一回読んでおいてもいいかも。
池谷裕二・糸井重里『海馬―脳は疲れない』
脳についての新しい知識がとても新鮮。そして二人の絶妙な対談。うまく頭を使うことがいい生活になるはずよねぇ、としみじみ。30歳になった今年、この本の「30歳から頭はよくなる」という言葉を楽しみに、来年を過ごしたい。
11冊になっちゃった。来年はもっと読みたいですなぁ。新春一発目は『砂漠』の予定。よいお年を!
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伊坂幸太郎『魔王』
考えろ考えろマクガイバー。伊坂幸太郎の声が本の中から聞こえてくる。不思議な能力を持った兄弟の姿を借りて。信用を失った政治に、思考を止めた国民に、迫り来るファシズムに。
急速に支持率を上げる野党の政治家・犬養の登場に、兄は危機感を覚えていた。ファシズムを連想する言い分がどうも気になる。そんなある日、兄は自分の思っていることを他人に喋らせることができることに気づき始める。同時に盛り上がっていく日本全体の反米感情。犬養の思想が及んでいるのか。どうにかならないのか自分の力で。苦しい。息が。胸が。考えろ。考えろ考えろマクガイバー。(「魔王」)
その昔、ヒトラーは演説の最中に人間の可聴範囲ギリギリの低音を流して群集を高揚させたという。徐々に上がっていくテンションと緊張感。平行して見えない部分で低くジワジワ流れる違和感。「魔王」を読んでいくと感じる息苦しさと危機感は、この上下二方向からのせめぎ合いから生まれてきているような気がする。これまでの伊坂作品にもあった、無軌道無計画の悪意が、全体主義に向けることで読み手を緊張を与える効果を上げている。これでいつものリーダビリティなのだから堪らない。目を離す暇がない。
考えることをやめた大人達に、情報に溺れた若者達に、考えることを促し訴える。伊坂がこんな直球を飛ばしてくるなんて驚いた。「おまえ達のやっていることは検索で、思索ではない」と犬養も言っている。政治色の強さから「問題作」のレッテルを貼られることもあるみたいだけど、これを読むと自身を世界を考えずにはおれない。
もう一編収録されている「呼吸」は「魔王」のその後の話。弟をメインにし、「魔王」とは転じて緩やかな世界が広がるが、今度はより具体的に憲法の話まで飛んでくる。一冊の中に動と静を配置して構え万全。文学が世界に投じたこの一石で、波紋はどこまで広がるだろうか。
ちなみに「魔王」にはこっそり死神が出演しています。おかげで天気が悪くなってます。
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伊坂幸太郎『死神の精度』
切れるセンス。回る台詞。いつもの伊坂幸太郎の姿がそこにあるのだけど、読み終わった後のこの物欲しさはなんだろう。死神のもつ”ルール”の特殊さに、短編毎に変わる設定に、隠し味のように効いてくる伏線に、もっともっとと期待する、人間の浅ましさを死神が嘆くのか。死神視点の人生論。NO MUSIC NO LIFE。
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伊坂幸太郎『グラスホッパー』
殺し屋+一般人の三重奏。洒落た文章のセンスは変わらずで読ませはするものの、出てくる悪が気分が悪くなる出来であまり乗れず。伊坂の書く悪人像というのはクレバーに策を巡らすタイプでなく、無軌道で衝動のままに酷い事を平気でする点で「いじめっ子」なので、読んでてあまり気持ちのいいものではない。今回その「いじめっ子」が他作に比べて前に出てるので、うーうーという感じ。伏線拾いもあるが、伊坂にはやっぱりもっと上を望んでしまうなぁ。期待値が高まりすぎたのかしらん…。
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