シャーロット・アームストロング『毒薬の小壜』

解説にある通りまさに「善意のサスペンス」。よかった。猛烈によかった。よかったー!(窓を開けて絶叫)。様々なきっかけから、主人公が悲しきネガティブに沈んでいく前半から事態は一転、優しさとポジティブに溢れた後半のロードムービー的展開たるや。長い助走から急上昇。台詞一つ一つに込められた魂の光。暖色に彩られた素晴らしき日。タイトルと装丁の愛想のなさから予想もつかないような暖かさが待っています。読もう。読もうよ。

高野和明『幽霊人命救助隊』

これすんごい面白かった。神から指令を受け、地上に降り立った4人の霊。彼らは天国に行くことを条件に自殺しようとする命を救うよう命じられた『人命救助隊』だった。期間は四十九日。救うべきは100人の命。

とにもかくにもアイデア勝ち。霊魂となった彼らが生身の人間の心を動かす手段はただ一つ、「メガホンで叫ぶ」なのだった。揺れる自殺者心理をモニターしながら説得したり、時には第三者に事情を聞き込んだり、小学生にピンポンダッシュをさせたり(←これが実はすごく重要な行動なのは読めばわかる)。とても応用の効くアイデアであると共に、「こらー!」と訴え叫ぶことで物語のテンションも嫌がおうにも高まるのだ。ナイス。

あらゆる自殺の動機を網羅してあるのでちょっと分量が多い気もするけど、「幽霊」「自殺」というキーワードにそぐわぬシュールで楽しい救助隊キャラと、叫びのテンションと、泣かせるエピソードも多く取り揃え、かつ自殺者の救助を通して現代社会の問題提起まで執り行うという贅沢三昧。大変おススメです。エンターテイメントはなによりの抗うつ剤。不定な未来に絶望するのはまだ早い。

エラリー・クイーン『九尾の猫』

2005年一発目からいきなり後期クイーン問題ですよ。ミッシングリンクものの傑作ということながら、内容は本格本格というよりサスペンス中心な感じ。とはいえあれだけバラバラな材料が一つの事実をもって一網打尽にまとまる手腕は見事。燃やせ自分の地図。それにしても装丁のセンスがすごいいい。

東野圭吾『嘘をもうひとつだけ』

倒述もの短編5編。容姿は爽やかなのに粘着質の加賀刑事がひたひたと迫る。関係者からの視点ではあるものの、最初に事件の全体像を見せてはくれないので、何の意味を持つかわからない質問をしてくる加賀刑事が読者からも恐ろしく見えるのがポイント。関係者側と同調できる作りなので最後までスリリング。短さも手伝って中身も濃厚。サクッとおすすめできる品です。