イジられどイジられど楽にならざり 枡野浩一『石川くん』

「働けど働けど我が暮らし楽にならざり」と言っていた石川啄木、実はあんまり働いていないって!

啄木の短歌は、とんでもない!(談・糸井重里)
親孝行や働き者のイメージは間違いだった!? お金大好き、働くの嫌い。借金大王で、女ったらし。そんな「石川くん」の本当の姿をユーモラスに描いたエッセイ集。啄木短歌、衝撃の現代語訳つき。

石川啄木といえば、ぢっと手をみたり、泣きながら蟹と戯れたり、母をおぶって歩けなかったり、なんか切なげなイメージだったんですが、いやいや全然違いまっせ、というのがこの本。もとは「ほぼ日刊イトイ新聞」の連載。

まず啄木の短歌を一つ大胆に現代語訳して、次に作者から啄木に手紙を書いて語りかけるような章構成。当時の文献も紐解いて、そこで浮かび上がるのは啄木の愛すべきスチャラカ具合。

妻子を故郷に置いといて都会でプロの女性とイチャイチャしたり、仕事をサボって抜け出したり、奥さんに読まれないようにローマ字で日記を書いたり、母をおぶったのも最初は冗談(戯れ)のつもりだったり…

そんな啄木をイジリ倒す作者。愛あるゆえのイジリなのはわかるのだけど、ちょっとイジリがしつこくて「芸」まで昇華してないかなぁ…。

もとは土日に連載していたので、同じネタでイジるのが続いても連載時は気にならなかったかもしれないけど、こうして一気にまとめて読んでしまうとちょっと胃にもたれる。もうプロの女性とイチャイチャしてた件はいいじゃないか、許してやりなさいよ、とか思ってしまう。

古典を現代まで降ろしてきて、新しいイメージをお披露目する心意気は好き。文中の可愛いイラストも一役買っている。石川くんったらもうー、という気分になったのだけど、石川くんのことこんなにイジリ倒してる人がいるよどう思う?とも聞いてみたくなっちゃう。心意気は好きだけど、姿勢にちょっと馴染めない本だなぁ…と思ってしまいました。

うちの娘三歳作「ももたろう」

ある夜のこと。

娘三歳を寝かしつける際、いつも絵本を読んだり昔話をしたりしています。

その晩も、何のお話ししようかー、と迷っていたところ、娘三歳が突然「あたしがももたろうのおはなししてあげるー」と言ってきた。

というわけで皆様もお聞きください。うちの娘三歳で「ももたろう」

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むかしむかし、
おじいさんとおばあさんがすんでいました。
おじいさんとおばあさんのうしろに、
こわいオバケがきました。
おじいさんとおばあさんは
フライパンとおなべでオバケをやっつけました。
おしまい!

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終わり!?

桃でも太郎でもないけど終わり!?

桃から男など生まれない、自分の身は自分で守るしかないという教訓なのか。なんて現代っ子なのだ。

それでも今日も娘三歳は「アンパンマン、あたらしいかおよー!」とアンパンマンのぬいぐるみに別のアンパンマンの人形を投げています。ただの玉突き事故です。

関連リンク
お腹がよじれる!子供たちの創作おはなし集 サトシン監修『きいてね!おてて絵本』|イノミス

少年の夢は生きている 伊集院光『のはなしさん』

『のはなし』シリーズも3作目。2001年~2006年までtu-kaのメールマガジンに書いてきた約750本のエッセイから82本+新作書き下ろし3本をまとめたもの。

笑いあり、お馬鹿あり、しんみりあり、ハッとする構成あり、行き過ぎた妄想あり。多岐に渡る球種を使い分けるクオリティは健在。

前も言ったのだけど、改めて少年時代のエピソードの豊富さ・記憶の細かさには驚く。誰しも子供時代は予期せぬ出来事の連続だったはずだけど、その時の状況や感じたことを今の言葉で伝えられるまでよく覚えてるなぁ。

読み終えたとき頭に浮かんだ歌がある。山本正之の「少年の夢は生きている」という曲。

山本正之といえば「ヤッターマン」や「燃えよドラゴンズ」で有名。で、アルバム収録のこの曲は、山本正之の少年時代の出来事をただただ並べていく。なのに、段々とあの頃の夕焼けが浮かんでくる歌なのだ。

中日ドラゴンズの江藤慎一が
サインをしながら頭をなでて
ぼうや元気に育ってくれよと笑いかけた
酔っばらったオヤジが赤い顔のまま
真夏の夜の庭先で肩車をして
あれが天の川だとごつい指を天にむけた
丸太ん棒で建てたかくれ家の中で
おさななじみのアキちゃんが
大人になっても友達だよと腕をくんだ
超能力をもっている新聞記者のおじさんが
おもちゃの刀を念力でまげて
やろうと思えば地球も止まると教えてくれた

ビニール人形をストーブで溶かし、運動会でパンツが破れるよう細工をし、テレビのリモコンがどれくらい遠くから効くか試す伊集院少年。

山本正之「少年の夢は生きている」はこんなサビだ。

少年の夢は生きている 幾年すぎても生きている
橋を渡り山を越えて海に出会っても
深く深く胸に生きている

誇大妄想で、ひがみやで、屁理屈を言う肥満児の少年は、伊集院光の中に今も生きているのだと思う。

関連リンク
少年の夢は生きている|山本正之-歌詞GET

新幹線に閉じこめられたい

新幹線に乗るのが好きです。

帰省ぐらいしか乗る機会がないのだけど、シートに座り、お菓子や飲み物を広げ、暇つぶしの本やゲームを用意して、移動時間を楽しむ気満々で臨む。

でも結局寝てるうちに目的地についてしまう。もっと乗っていたい。

そんな想いがこじれてしまったのか、気象災害や車両故障で新幹線に閉じこめられた、というニュースを見ると「いいなぁ…」と思うようになってしまった。

駅で停車中の新幹線で寝ているサラリーマン達の映像。「乗客は不安な一夜を過ごしました」というニュース原稿。僕にとっては全然不安じゃない。キター!である。寝てる場合じゃない。でも寝ないともったいない。どうしよう。

しかし幸か不幸か、今までそんな目にあったことがない。

そこで提案なのだけど、新幹線を夜行列車にしてくれないだろうか。

「はやぶさ」や「さくら」といった往年のブルートレインの名称が、いま新幹線につけられている。ならいっそ、そのブルートレインの魂も継承してほしい。

23時上野発の東北新幹線はやぶさ。ゆっくりとしたペースで走り出し、翌朝7時に新青森に到着。それまで車内を満喫できる。寝てもさめても新幹線。流れる星空。登り出す朝日。ワクワクが止まらない。

本気を出せば半分以下の時間で着きますが…、とか、あの流線型の意味が…、とか、カシオペアに乗れば…?という部下たちの意見に、お前たちは何もわかってない!とドン!と机を叩きたい。

興奮のあまりなんかの組織の上役になってしまっている。

図書館のミラクル

うちの近くの図書館は本を借りると「いま貸してる本はこれこれで、返却期限はこれこれですよ」という小さな紙をくれます。

で、先日図書館で、伊集院光『のはなしさん』と長島有『ジャージの二人』と枡野浩一『石川くん』を借りました。ちなみに『石川くん』は石川啄木を現代語訳したエッセイ集。

で、この3冊を借りたら、あの小さな紙がこんなことになっていました。

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