子供の頃、お札の透かしが不思議で、そしておもしろかった。
一見、ただの白い部分に見えるのに、光に透かしてみるとオッサンの顔が現れた。しかもすごい精巧に。不思議で不思議で、かざしたり戻したりを繰り返してた。
しかし、お金で遊んではいけません、ということで、じっくりと透かし遊びはできなかった。いま大人になってみて思えば、子供に紙幣を渡すなどリスキーこのうえない。破る、紛失する、落書きする、紙飛行機になって飛んでいく…資産価値を貶める様々な危険に、母親は恐れおののいていたに違いない。
そんなある日。うちに親戚のおじさん(と思われるおじさん)が来た。
うちにあがったおじさん。挨拶を一通り終えたあと、おじさんはお小遣いをくれた。1000円だった。
久しぶりの紙幣。上がるテンション。さっそく光にかかげる。透かし!
「ちゃんと透かしがはいってるー!ありがとうー!」
あとで母親から怒られた。そんなこと言うもんじゃありません。お礼はちゃんと言ったのになんでだろう。理由はよくわからなかった。
でも、今はわかる。
おじさんは子供に紙幣の真贋を確かめられてしまっているのだ。せっかくお小遣いをあげたのに「ちゃんと本物だ!」と言われているのである。なんということでしょう。
大人になってわかることもある。
ビジネスの場で、名刺に透かしが入ってなくて本当によかったと胸をなでおろしている。