道尾秀介『向日葵の咲かない夏』

終業式の日、学校を休んだ同級生・S君の家に寄った主人公は、そこでS君の首吊り死体を発見する。慌てて学校に戻り先生に事情を説明。しかし先生と警察が駆けつけると、S君は消えていた。部屋で一人、困惑しているとS君の声がする。そこには一匹の蜘蛛。S君の声は、自分は蜘蛛になって生まれ変わったと言うのだ…。

同様の手法をつい最近見たので、どうしてもインパクトは減ってしまう…。主人公たちの行動の原点となる「推論」がどうも頭に入ってこないので、最初は主人公の家や担任教師の”キモイ”描写に目がいきがち。ホラー寄りの人でもあるし。

で、これが後半になるにつれ、あちこちの線が半ば強引に集まり始める。筋を通すために手段を問わない繋ぎぶり。最初に本筋ありきでそれに近づけていく方法論ではなく、この収拾の付かない事態に蹴りをつけるために物語が暴走してます。あーあーえらいこっちゃー。眩暈による胸のむかつきをずっと抱えたまま読んだような、独特の読後感です。

石井裕之『一瞬で信じこませる話術コールドリーディング』

一瞬で信じこませる話術コールドリーディング
石井 裕之
フォレスト出版 (2005/06/01)

占い師や詐欺師が使う”裏”コミュニケーション術を、一般向けに解説した本。例えば「あなたのお母さんは、死んでいませんね?」といった曖昧な問い「確かに死んでもういません!」「確かに死んでないです!」と、さも当たった(=マッチした)ように聞き手に感じさせ、信頼を得るやり方。悪用すれば酷いことになるが、いい方にも使えるんですよ、というのがこの本のコンセプト。

手法にいろいろ名前がついてるのがなんか必殺技のようで面白い。さっきの否定疑問文でどっちにもとれる質問は『サトルネガティブ』。「あなた左利きじゃないですよね…?」というように使ったりするらしい。他にも「外交的だけど実は打たれ弱いですね」と相反する二面性でマッチさせる『アンビバレンス』、「あなたの部屋に整理されてない雑誌や写真があるでしょう?」と一般的な経験を出す『ストックスピール』などなど、そういやそんな質問あるわ、と納得します。

感心したのが、「あなたは普通の人に比べて情にもろい」というように「普通の人より~」を強調するやり方。「普通の人」となんて、どうやっても比べようがないうえ、誰しも自分は「普通の人」より何か上だと思っているため、マッチしやすいらしい。

この話術は意外と論理的に構成されているので、上級者相手はホント隙がなさそう。怪しい霊能者に引っかからないために手の内を知るのには有効な本ですなぁ。日常生活にどう生かすか、ってのは嘘をつくことになりそうなので、ちょっと課題ですが…

藤岡真『白菊』

白菊
白菊

posted with amazlet on 06.05.10
藤岡 真
東京創元社 (2006/03)

画商兼インチキ超能力探偵・相良蒼司の元に持ち込まれた依頼は、「白菊」という絵のオリジナルを探すこと。しかし依頼人は失踪し、探偵は命を狙われる。大男の刑事や記憶喪失の女、骨董マニアが入り乱れ、ロシアの記憶を手繰りながら、物語は混乱していく。

いつもより見通しが立ってるというか、いつもの多数のガジェット使いと比べてシンプルになってる気がする。まぁ藤岡真なので、いろいろややこしいことにはなってるんですが、それでもだいぶ読みやすい。相良蒼司というキャラがしっかり軸になりうる魅力を備えているので、全体が掴みやすいのかな。

絵画と女を巡る二転三転の構図も決まっていて、ミステリらしいミステリ読んだなぁという満足感があります。いやー面白かった。今までの藤岡真の中で一番好きかもしれない。ちょうど一冊前に「コールドリーディング」を読んだので、偽超能力の手口についても楽しめたというのもあるかもしれません。