いやー、面白かった!
脳科学者の著者が母校で行った講演&三日間の特別授業の講義録。もともと語り口が柔らかい人なんだけど、高校生を相手にしてよりわかりやすい言葉運びになっている。
わかりやすい、の最大の理由は、論文や実験をたくさん紹介してくれるところ。実際に「そんなことあるなぁ」っていう日常の”あるある”が、実は脳の働きだと証明されてたりとか、もう興味津々。すぐに実例や実験結果を出して説明してくれて、3,4ページに一つは例を出してるんじゃないか。そんなペース。
で、しかもその実験たるや、とにかくおもしろい。脳波を見るだけじゃなくて、脳の狙った部分ピンポイントに刺激を与えたりマヒさせたりしちゃうのだ。庭いじりならぬ「脳いじり」の数々が衝撃的。こんな感じ。
- 運動を司る神経を刺激すると、勝手に右手が動いたりする
- 「心が痛む」ときは脳で本当に痛みを感じている
- 脳のある神経をマヒさせると、写真に写っているのが自分が他人かわからなくなる
- 脳のある神経を刺激すると、幽体離脱を経験できる
- ラットの脳内の快楽を司る神経を刺激し続けると、餓死する(食べるのより気持ちいいから)
- ゴルファーの脳波を観測すると、パットを打つ前に入るか外すかわかる
もう、えらいことになっている。完全にSFの世界。でももう科学はここまで来ちゃってるのだ。この時点でグッとひきつけられる。
でも、著者はもっと深いところまで入り込んでいく。
例えば、何か物を取るとき。
脳と身体の仕組みを考えると、脳から「あれを取れー」って命令が出てから手が動く、と思いがち。
しかし実は逆で、脳が先に手に命令を送ってて物を取った時はじめて自分で「取った」と認識するらしい。言わば身体が先らしいのだ。無意識のほうが早い。
ということは、僕らは無意識にあやつられている。自分が思っている「自分」は無意識で動いた結果の「後付け」。自分探し、なんてホントはできない。じゃぁいったい自分ってなんなの?自分の意志はどこにあるの?自由はあるの?
科学に基づいた脳の仕組みから、「心」「自由」「命」などを考察していく。自分の脳で「自分」を考える。もはや哲学の領域に入っていくのだ。
自分ってなんだろう?と多感な思春期の若者と共に、「脳」という地図を持った科学者が探検を試みる。それはとてもアカデミックで、なんともエキサイティング!
「そうなの!?」「そうなんだ!?」「そっかー!」と、なんどものけぞる脳の摩訶不思議。著者自身も「今までで一番好きな作品」と言う本書。諸手を挙げてオススメです!
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