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読書感想文 Archive

乾くるみ『クラリネット症候群』

過去に徳間デュエル文庫で出版された「マリオネット症候群」と書き下ろし中篇「クラリネット症候群」の2本セットであります。どちらもミステリの色を匂わせつつもなんともヘンテコなお話。

夜中に突然、憧れの先輩に自分の体を乗っとられてしまう主人公の女子高生。乗っ取られたとはいえ意識はある。しかし乗っ取った先輩と意思の疎通はできないので、なんだか乗り物に乗っている気分。しかしそのうち、先輩が誰かに殺されていたことがわかり…というのが「マリオネット症候群」。

巨乳で童顔の憧れの先輩にいいところを見せようと、同居人のクラリネットを勝手に持ち出して吹いたのはいいけども、やってきた不良にボコボコに壊されてしまった男子。クラリネットが壊れた時から耳に異変が。「ド」と「レ」と「ミ」と「ファ」と「ソ」と「ラ」と「シ」の音が聞こえなくなっている!というのが「クラリネット症候群」

どちらのあらすじもまだまだ序の口。犯人当てに向かいそうになる「マリオネット症候群」、暗号ミステリに向かいそうになる「クラリネット症候群」だけども、急ハンドルを何度も切って展開はあらぬ方向へ。論理や暗号などの技巧も散りばめつつ、ドタバタギャグからSFまでイメージが飛んでいく。やりすぎでお腹いっぱい。この人しかこんな話書けないなぁ。

あんなに次々と変な展開がやってくるのに、長さは2本あわせて文庫一冊333ページと濃縮還元スリム設計なのも良ですなぁ。早く長編も出ないかな。

せきしろ『去年ルノアールで』

今日も今日とて、「喫茶室ルノアール」で暇を潰す筆者。カフェほどお洒落でなく、喫茶店ほど小さくまとまってなく、混沌とした人種が集まるルノアール。客や店員を観察しているうちに始まる、妄想力いっぱいのエッセイ。こんな無気力妄想エッセイが、『relax』で4年も連載されていたということにまず驚かされる。

まずルノアールに来る人がおかしすぎてすごい。アニマル柄の奇抜なセーターの中年女性、「車をかじりません」と泣いて父親にわびる子供、洗面所で髪をあらって出てくる客、談笑の末にセカンドバックから500万円を取り出して受け渡す二人組み、ココアを頼み「ミルクを抜いてください」と店員に何度も注文をつけ(その度「かしまりました」と答える店員)あげく厨房にまで乗り込んでミルクを抜いてくれと頼んだのに一口も飲まずに帰る女性客などなど、とにかく変すぎる。

こんなおかしな場所設定を描き出した時点で、もう何を乗っけても面白くなること必死。ここで筆者は妄想力を駆使しておかしな客の背景を想像したりする。おかしな客の行動を「表」とするならば、妄想をもって「裏」を取るのだった。もはや毒をもって毒を制すという泥仕合。たまに全く関係なく、笑っていいともが終わった後のタモリはどうなるんだろう?誰もいないアルタでたそがれるのか?とか想像しだすけど、これもたまらん。

ルノアール、行ったことあるけど、こんな場所だっけ?と、実地で確認せずにはおれなくなってくる。無益で無気力な無茶エッセイ。映像化もされてる(→去年ルノアールで DVD-BOX~深煎り妄想セット~)のがものすごい気になる。

佐藤雅彦『プチ哲学』

「ちょっとだけ深く考えてみる。それがプチ哲学。」

家庭の事情でピタゴラスイッチを頻繁に見るようになったので、佐藤雅彦が気になってしかたがないこの頃です。「哲学」と銘打っているのものの、なんとか思想がどうこうという話ではなく、日常見かける風景から「ちょっとだけ深く」ものごとを考えてみよう、という考える入り口をご提案する本。

プッチンプリンとエレベーターの共通点「逆算という考え方」、バナナをお腹いっぱい食べたいと魔法使いにお願いする猿だったが、魔法でいきなりお腹いっぱいの状態にされてしまう「結果と過程」、美味しさを想像して笑顔になるために写真と撮るときチーズ!と言うネズミ「外からつくる、内からつくる」などなど、可愛いイラストで描かれるプチ哲学が31項目。

他愛もないイラストだけど、ニヤッとしたりフフンとうなずいたり。発想の転換とか飛躍とかの激しい効用はなく、ほのぼのとした空気。読み終わって「すごい!」というより、ちょっと戸棚に入れておいてたまに開いてみたりするお茶請けのような存在感です。頭が煮詰まってる時にパラパラとめくって気づきを得たりするのにいいかも。

巻末の佐藤雅彦のエッセイのほうが、より佐藤雅彦の思考の動きがわかって面白いので(つぎはぎだらけの道路工事に芸術をみたり)、このエッセイだけで一冊にならないかなぁ。

伊集院光『のはなし』

初エッセイ集だったとは。

伊集院光の魅力が詰まった一冊。こんなエッセイ集を、今まで誰も、読んだことも見たこともないはず。連載5年、構想4年、修正1年。伝説のエッセイ、ついに刊行! 爆笑!感動!鳥肌!の全82話。

携帯会社のメールマガジンに数年に渡り書いたコラム750編(!)から厳選された80編。そんなに書く前にちょっとずつ本にすればいいのに!長さも3~4ページ程度で程よく、次から次へと読んでしまう。

それにしても現在や過去の「恥」をあますとこなく公にしてしまうMっ気たるや。エロ本を買いに行こうとして遭難しかけたり、フリーマーケットで客相手に向きになったり、気まずい家族との思い出や少年時代の背伸びを余すところなく笑いに変え、たまにドキリとするようなトラウマに触れるときもあるけど、気がつくとまた何食わぬ顔して母の財布から小銭をくすねていたりする。そのオープンさと記憶力って、実はとてもすごい能力だと思う。

尺の都合なのか編集の方針なのか、ラジオで聴かせるブラックな面はかなり薄まっている。しかし、その分読みやすく、話も濃縮されているため、万人向けに仕上がっている。テレビで見る「なんだか雑学に詳しいデブ」という印象だけ持っている方にぜひオススメしたい。この才能に触れないなんてもったいないですわ。
 

近藤史恵『タルト・タタンの夢』

だまって食べればピタりと解ける。

下町の小さなフレンチ・レストラン、ビストロ・パ・マル。風変わりなシェフのつくる料理は、気取らない、本当にフランス料理が好きな客の心と舌をつかむものばかり。そんな名シェフは実は名探偵でもありました。常連の西田さんはなぜ体調をくずしたのか? 甲子園をめざしていた高校野球部の不祥事の真相は? フランス人の恋人はなぜ最低のカスレをつくったのか?……絶品料理の数々と極上のミステリ7編をどうぞご堪能ください。

MYSCON9昼の部のゲストの一人、近藤史恵さんの現時点でのミステリ最新刊。

謎をすべて料理に絡ませていて、シェフが用意した料理を”食べれば解ける”状態にもっていってるのが面白い。北森鴻の「香菜里屋」シリーズを思わせるけども、こちらはフランス料理一本。この縛りをこなすには肩に力が入りそうなところ、さらっと後味軽く作り上げてるのも旨い。いや、巧い。

上品な作品集であり、分量も上品ゆえ、読了後もまだ食べ足りない感じが残るのですが、それはそれ、今後のシリーズ化でメニューが増えていくのも期待しております。

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