近藤史恵『タルト・タタンの夢』

だまって食べればピタりと解ける。

下町の小さなフレンチ・レストラン、ビストロ・パ・マル。風変わりなシェフのつくる料理は、気取らない、本当にフランス料理が好きな客の心と舌をつかむものばかり。そんな名シェフは実は名探偵でもありました。常連の西田さんはなぜ体調をくずしたのか? 甲子園をめざしていた高校野球部の不祥事の真相は? フランス人の恋人はなぜ最低のカスレをつくったのか?……絶品料理の数々と極上のミステリ7編をどうぞご堪能ください。

MYSCON9昼の部のゲストの一人、近藤史恵さんの現時点でのミステリ最新刊。

謎をすべて料理に絡ませていて、シェフが用意した料理を”食べれば解ける”状態にもっていってるのが面白い。北森鴻の「香菜里屋」シリーズを思わせるけども、こちらはフランス料理一本。この縛りをこなすには肩に力が入りそうなところ、さらっと後味軽く作り上げてるのも旨い。いや、巧い。

上品な作品集であり、分量も上品ゆえ、読了後もまだ食べ足りない感じが残るのですが、それはそれ、今後のシリーズ化でメニューが増えていくのも期待しております。

MYSCON9の参加受付は今週末23日(土)から

毎度おなじみミステリファンの巨大オフ会、MYSCON9の参加受付がいよいよ始まりますよ。
→公式サイト(http://myscon.net/)

昨年同様昼夜の二部構成。昼のゲスト一組目に近藤史恵先生をお招きし、杉江松恋さんによるインタビュー企画を行います。『サクリファイス』(→感想文)はオススメ本ですからねぇ。どんなお話が聞けるか楽しみです。

ゲスト二組目は絶賛交渉中。夜の企画も地下で進行中でございます。昼・夜どちらか片方での参加でもOKです。
 
 

近藤史恵『サクリファイス』

サクリファイス【sacrifice】— いけにえ、犠牲。

自転車のロードレースがこの作品の舞台。この本を読むまで知らなかったんですが、実はかなり奥が深い競技なんですな。自転車ロードレースは団体競技であり、「エース」と「アシスト」という役割が存在するとのこと。

アシストはエースが勝つための駒として働くのが仕事。エースの先を走ることでエースにかかる空気抵抗を減らしたり、集団から飛び出して全体のペースを乱したり、エースの自転車がパンクした時は自分の自転車の車輪を提供したりする。駆け引きの中に身を投じ、目まぐるしく変わる状況の中で活路を見出すスポーツなのだった。

この物語の主人公は「アシスト」の白石誓。勝つことに意味が見出せず、アシストとしての役割に徹するつもりであった白石。しかし、その実力やレースでの経験から、自分のために走ることを意識し始める。気になるのはチーム内のエース・石尾。彼は自分以外のエースを認めないとの評判が立っていた。彼に潰された選手もいたと言う…。

物語の半分以上を過ぎ、青春小説としてぐいぐい引き込まれてる最中、「惨劇」の章で起こる事件が読者も登場人物も揺さぶっていく。そこから二転三転し、ラストへの急展開。全てが鳥肌。

サクリファイス。いけにえ、犠牲。その言葉が本作でなす意味は、あまりに重い。