草上仁『文章探偵』

カルチャースクールで文章講座の講師をしている作家・左創作は、文章からそれを書いた人間をプロファイルする、人呼んで「文章探偵」。ある日、彼が審査を務める新人賞に応募された作品が、現実のバラバラ殺人事件によく似ていることを発見する。どうもその作品は彼が持つ講座の生徒が書いたものらしい。しかも、文章をちょっと変えただけで同じ内容の作品がもう一つ投稿されていた。誰が書いたんだ?そいつが犯人なのか?なんでもう一個あるんだ?持ち前の文章探偵術で作者を突き止めようとする左だったが…

まず「文章のプロファイル」という題材が面白い。ミスタッチからローマ字入力/かな入力を判断したり、誤変換で選択された漢字から作者の職業を推理したり、「見いだす」「見い出す」といった単語選びの癖を見たり、小学校時代にこの教科を習った者は昭和~年代といった時代考証に至るまで、作者像を割り出すバリエーションが多くて楽しい。手がかりの文章も講座の課題や応募原稿、メールや手紙までいろいろ。よく考えてるなぁ。

とはいえ、主人公は普通のミステリ作家。いわゆる「探偵」然としたキャラではない。そして独り身で調査してるので、結果として部屋で文章を見ながら悶々とする感じになってしまい、ビジュアル的にちょっと地味である。よく練られたプロットで意外な結末も決まるんだけど、「独りで悶々」としてるため、推理や解明の道筋がどうもクドく感じてしまうだった。作者初のミステリ長編ということもあり、事態の説明がちゃんと伝わるか不安があったのかもなぁ。

風通しが良くなりさえすれば、全編随所に出てくる文章探偵術と、混乱を極める殺人予告小説の謎の両方が楽しめるオイシい作品になっていると思う。2作目3作目にも期待したい。