謎解きは授業のあとで アンソロジー『放課後探偵団 (書き下ろし学園ミステリ・アンソロジー)』

相沢沙呼、市井豊、鵜林伸也、 梓崎優、似鳥鶏。東京創元社発の五人が書き下ろす”学園ミステリ”短篇集。全員1980年代生まれ。

元々持ってるシリーズが学園ものである相沢沙呼(『午前零時のサンドリヨン』)、似鳥鶏(『理由あって冬に出る』ほか)はシリーズものの新作だし、デビュー前の鵜林伸也を先行チェックできるし、昨年『叫びと祈り』で話題をさらった梓崎優の新作も読めるという、なんとも贅沢三昧。文庫書下ろしでお財布にも優しい。

梱包して送ったはずのビデオテープがなくなってる、100球あるはずのボールが99球しかみつからない、バレンタインデーに生徒たちのチョコたちが教壇の前に集められてる…人殺しなんて出てこない、いかにも学園ものの謎解き。若い作家が若人を描くためか、筆致もキャラも生き生きとしてて楽しい。”学園ミステリ”という縛りが効果的に働いているなぁとしみじみ。

その中で特にオススメしたいは梓崎優「スプリング・ハズ・カム」。15年ぶりの同窓会で掘り出したタイムカプセル。中から出てきた、”卒業式放送室ジャック事件”の犯行声明。放送部員たちはあの日を振り返りながら推理合戦を繰り広げる。その結末たるや…!同窓会と卒業式という2つの舞台を行き来して確かめられる、大人になってわかる事と若かったからできた事。ミステリ的な仕掛けもキマっていて、久しぶりにミステリを読み終わって呆然としてしまいました。短編でこれだけのものを詰められるのスゴい。ため息。

間違いなく今年の収穫ですよ。オススメです。

動機と叙述の華麗なる融合 梓崎優『叫びと祈り』

もう身も蓋もなく言っちゃいますけどね、超オススメですよ!

砂漠を行くキャラバンを襲った連続殺人、スペインの風車の丘で繰り広げられる推理合戦、ロシアの修道院で勃発した列聖を巡る悲劇…ひとりの青年が世界各国で遭遇する、数々の異様な謎。選考委員を驚嘆させた第五回ミステリーズ!新人賞受賞作「砂漠を走る船の道」を巻頭に据え、美しいラストまで一瀉千里に突き進む驚異の連作推理誕生。大型新人の鮮烈なデビュー作。

5編からなる連作短編。世界を飛び回るジャーナリストの斉木という男が主人公かつ探偵役なので、5編とも舞台となる国が異なるというのがまず面白い趣向。砂漠で、修道院で、アマゾンの密林で、様々な事件に巻き込まれる。

とにかく動機の謎をめぐる「ホワイダニット(Why done it?)」が素晴らしい。例えば1作目「砂漠を走る船の道」では砂漠を横断するキャラバンで連続殺人が起きる。でも、このキャラバン、斉木を含めて5人しかいない。そんなところで殺人を犯してもバレちゃうリスクは大きいし、なにより遭難の危険性が高まってしまう。それでもこの殺人にはちゃんとした意味、動機が存在する。彼らの中でしか成立しない形で。

動機の謎、というのはけっこう「イヤイヤイヤそうかもしれんけど他になんかあるんじゃないの」となりがちな難しさがあるのだけど、舞台を海外にして、母体を部族や宗教者などの「意思のある集団」にすることで、「普通じゃない動機」が輝きを増す。これまた、風景や登場人物の意思などの書き込みがすごく丁寧なので、異国の雰囲気にどっぷり浸ってしまうのもスパイスとして作用する。この人ホントに新人なのか。しかも20代て!

もう一つ、この人、叙述トリックもすごい上手い。雰囲気たっぷりの風景描写に、人物たちの何気ない会話に、罠を静かに滑り込ませてくる。ネタバレになるので詳しく書けないけど、「ホワイダニット」と「叙述トリック」が類を見ない融合をしている。しかも、何発も。

そして最終章の書下ろし「祈り」でこれまでの話をまとめ上げる、というワザまで見せつけられるわけで、もうこれがオススメせずにいられるかという出来。今年のランキングに上位入り必至。梓崎優、その名を覚えておいて絶対損はない。梓崎優(しざきゆう)ですよ。大事なことなので二回言いましたよ。