東川篤哉『ここに死体を捨てないでください! 』

「死んじゃった…あたしが殺したの」有坂香織は、妹の部屋で見知らぬ女性の死体に遭遇する。動揺のあまり逃亡してしまった妹から連絡があったのだ。彼女のかわりに、事件を隠蔽しようとする香織だが、死体があってはどうにもならない。どこかに捨てなきゃ。誰にも知られないようにこっそりと。そのためには協力してくれる人と、死体を隠す入れ物がいる。考えあぐねて、窓から外を眺めた香織は、うってつけの人物をみつけたのであった…。会ったばかりの男女が、奇妙なドライブに出かけた。…クルマに死体を積み込んで。烏賊川市周辺で、ふたたび起こる珍奇な事件!探偵は事件を解決できるのか?それとも、邪魔をするのか?驚天動地のカタルシス。

『烏賊川市シリーズ』の5作目。上記のあらすじに加え、シリーズキャラの私立探偵・鵜飼の元には山田と名乗る女性から依頼の電話があるのだけど、待てど暮らせどやってこない。女性が言っていた「クレセント荘」(温泉つき)に行ってみると、そこに死体を隠し終わった男女が居合わせていて…、という展開。

作者お得意の勘違いドタバタギャグに、周到に伏線を組み入れて、最後にどえらいバカトリックが待っている王道パターン。みんながみんな何か思い違いをしていて、勝手に仮説を立ててるので、最後の方までなんも真実に近づかないという(笑)。

クライマックスは結構ド派手なことになるのだけど、この作者が今までやってきたに比べるとそんなにお馬鹿に見えないというか、結果的にちょうどいい按配に収まった感じ。

東川篤哉『もう誘拐なんてしない』

なんて言わないよ絶対。

下関の大学生・翔太郎がひょんなことから知り合ったのは、門司を拠点とする暴力団花園組組長の娘・絵里香。彼女がお金を必要としていることを知り、冗談で狂言誘拐を提案したところ絵里香は大はりきり。こうしてひと夏の狂言誘拐がはじまった。
いっぽう、そんなこととはつゆ知らない組の面々。身代金を要求する電話を受け、「組長よりもヤクザらしく、組長よりも恐ろしい」絵里香の姉・皐月が妹を救うべく立ち上がる。

翔太郎サイドと皐月サイドの二つの視点から騒動が語られる。となると、いつもの東川篤哉なら絶対なにかあるに違いない…と思ってしまい、そんでやはりサプライズ(第4章から衝撃の展開)があって、なんだけど「あれこれやんなかったっけ?」という既視感があるという、うーんそうきますか…、な読後感。気のせいかな…。

とはいえ、ギャグで気をひいて伏線に気づかせないようにするという、ある意味豪腕なセンスは相変わらず。ゆるゆるな掛け合いも楽しく、相手はヤクザなのにほのぼの路線。東川篤哉の小ネタは会話文だけだと寒いときがあるけど、表情とか間とか映像にしたら結構面白いものになるんじゃないのかなぁ。

ここ最近読んだ本『ストレスフリーの仕事術』『紙魚家崩壊 九つの謎』『質問力』『殺意は必ず三度ある』『オリエント急行殺人事件』

しばらく更新してなかったので一気にまとめて。

ストレスフリーの仕事術―仕事と人生をコントロールする52の法則

デビッド・アレン/田口元『ストレスフリーの仕事術』はLifeHackの中心ともなる仕事術に「GTD」という手法があるのですが、この方法がなぜうまくいくかを解説した本。頭でもやもや考えることは、一旦全部紙にだしてスッキリさせる!という狙いがなぜ大事か、というポイントがわかりやすい。忙しくて何から手をつけたものか、と、多くのタスクに追われている人の一つの道しるべにもなるかと。

原題が”Ready for Anything”で、こっちの方が内容に合ってるし何倍もかっこいいんだけど、本屋でパッと見てどっちが手にとられるかというところが問題なんだろうなぁ。

 

紙魚家崩壊 九つの謎

北村薫『紙魚家崩壊 九つの謎』は北村薫久々の短編集。ミステリ短編集、と名乗ってはいるものの、その味は薄め?

というか、高級レストランにいって出てきたモノを食べてみたものの、美味しいのかよくわからなくて、料理人の腕か自身の舌か、どっちを信用したものかなぁともやもやするような、そんな気分。エンタメというよりもはや寓話なのではないのか。一つ言えるのは昔話にミステリ解釈と加えようとする最後の 「新釈おとぎばなし」の一人遊びの空回りぶりがどうにも肌寒かったということ。ノリツッコミは高度な手法なのです。

 

質問力 ちくま文庫(さ-28-1)

斉藤孝『質問力』は古今東西の対談集から「いい質問」の例を取り出しながら、”質問力”の技とはどんなものかを教えてくれる本。そのラインナップたるや、谷川俊太郎、黒柳徹子、村上龍、手塚治虫など豪華ラインナップ。これらの対談のポイントごとを斉藤孝が咀嚼して、一粒で二度美味しい本になっています。

白眉は宇多田ヒカルとダニエル・キイスの対談。当時16歳と72歳の二人が、同じクリエイターとしてわかりあうまで、キイスは巧みに質問で流れを作り、宇多田はそこに狙い通りの賢い回答を返すという、とても見事なキャッチボールが紹介されてます。必見です。

 

殺意は必ず三度ある

東川篤哉『殺意は必ず三度ある』は鯉ヶ窪学園探偵部がドタバタと活躍というかなんというかを繰り広げるシリーズ第2弾。今回は野球部のベース盗難事件から発展した「野球見立て殺人事件」が登場。

もともと野球好きがあちこちの作品に見えていた作者だけに、とても楽しそうな筆致。野球場全体を巻き込んだメインの大トリックが、本格ミステリの箱庭的な面白さを存分に出していてとても好きですね。脇の小さな仕掛けもドタバタに効いていて、小ネタと伏線が絡み合う様子を今回も楽しむことができます。

 

オリエント急行殺人事件

アガサ・クリスティー『オリエント急行殺人事件』は実は未読だったもの。クリスティーを初めとして古典海外はかなり抜けているんですが、オリエント急行はーネタがさーあれなんでしょーというのは知っていただけにあまり読む気がなかったものの一つ。

しかし「そういえば、その真相にいたるまでのプロセスはどうだったんだろう?」というのが気になって、読んでみたらこれがまぁ一気読みですよ。面白いー!証言の矛盾を突いて突いてあそこまでもっていくとは。やはり古典には古典と呼ばれる所以あり。女王に最敬礼。ネタを知ってても十分楽しめますよ。

東川篤哉『学ばない探偵たちの学園』

私立鯉ヶ窪学園の非公認サークル・探偵部の三馬鹿トリオが、学園内で起きた密室殺人事件に挑むシリーズ第1弾。先日シリーズ続編の『殺意は必ず三度ある』が出たので、未読だったシリーズ1作目を押えてみた。

ゆるい小ネタに緻密な伏線を隠し持っている東川作品ですが、本作はキャラも小ネタもトリックもバカ方面にまっしぐら。もう少しで鯨統一朗になってしまうほどであった。ツッコミ役が不足しているからか誰も正気に戻されることもなく、緊張感もなくゆるーく進む展開です。

密室が2つ出てきますが、どちらもかなりのバカトリック。そのために掘った外堀が意外とたくさんあって、逆にその必死さが面白かった。そこも埋めるのかよ!みたいな。久々に”ゆるい”密室ものを読みたくなったらどうぞ。

2005年:今年読んだ本ベスト10

2005年も残すところあと数時間。今年読んだ本は87冊でした。どうしても毎年100冊まで届かないなぁ。今回はその87冊から心のベスト10冊を挙げていきます。順位はなしで。あくまで「今年読んだ」なので、出版はもっと前のものもあります。

扉は閉ざされたまま
石持浅海『扉は閉ざされたまま』


本ミスでも1位に投票しました。「扉を破らない密室モノ」という、普段ならボケで笑うしかないようなシチュエーションを、よくぞここまでスリリングな本格に仕上げたものだと感服。犯人側から描く倒叙形式で、じりじりと探偵役に追い詰められてく。犯人vs探偵が純粋な敵対関係でないところもいい。動機がやはり受け入れがたいが『セリヌンティウスの舟』まで読み続けると慣れてきますなぁ。

魔王
伊坂幸太郎『魔王』

今年、『魔王』『死神の精度』『砂漠』と3作出した伊坂幸太郎。『魔王』のテンションの高さには参った。不思議な能力を持った兄弟が来るファシズムと静かに闘う様子は、これが架空の話とは思えないほどの緊張を読者にもたらす。伊坂の中では異色かもしれないが、この読後感はいろんな人に体験してほしい。

容疑者Xの献身
東野圭吾『容疑者Xの献身』

このミス、本ミス、文春と三冠達成。数学者の一途な思いが作り出した完璧なトリック。「恋愛感情」と「トリック」が劇的に密接なつくり。トリックについては全然気づかなかったので、かなり驚いた。数学者の友人でもある、探偵役の物理学者・湯川の揺れる心情にも注目。最近は指紋が付かない表紙に変わったらしいですよ。

交換殺人には向かない夜

東川篤哉『交換殺人には向かない夜』

東川篤哉を初めて読んだ年でした。小ネタも好きだし、その小ネタがさらに伏線になっているという贅沢構成。『館島』のバカ館もいいけど、本作の平行線が一本に収束する衝撃のラストを推したい。こんな話をよく行き当たりばったりで書いたもんだ!

痙攣的

鳥飼否宇『痙攣的』

鳥飼否宇も今年初。その奇想っぷりに嵌まると癖になる濃さ。『逆説探偵』も『昆虫探偵』も好きだけど、もう『痙攣的』でぶっとんだ。途中まで普通に(普通でもないけど)してたじゃない!もうアホ!アホ!(ほめ言葉)。

雨恋

松尾由美『雨恋』

「大森望氏も涙!」の帯が印象的。幽霊との淡い恋物語ですが、そこに絡めたルールが「彼女が死んだ真相が明らかになるほど姿が見える」というすごいジレンマなもの。以外と入念な外堀で本格度も高いような。ラストも泣ける。そりゃぁ大森望も泣くよぉ。

幽霊人命救助隊

高野和明『幽霊人命救助隊』

そういえばこれも読んだの今年入ってからだ。幽霊が自殺者を止める、その手段を「大声で説得」にする発端から、幽霊-人間を繋げるアイデアがとても秀逸!笑って泣いてのジェットコースター。隠れたおススメ本。

お笑い 男の星座2 私情最強編

浅草キッド『お笑い 男の星座2 私情最強編』

『本業』も熱かったけど、やはりお笑い界を書いているときが一番乗っている気がする水道橋博士。思いを語りグイグイ引き込み、韻やくすぐりも交えて、もはや暗唱したくなるような文章。前書きの出版界への警鐘も必読。

文芸漫談―笑うブンガク入門

いとうせいこう・奥泉光・渡部直己『文芸漫談』


文学界最高のボケ・ツッコミコンビ。この調子で本当に舞台に立っているんだからすごい。やりとりに笑っているうちに文学の読みどころがわかってくるという、最高のネタ本であり教科書。いとうせいこうと奥泉光を来年はもっと読みたい。

箱―Getting Out Of The Box

The Arbinger Institute『箱―Getting Out Of The Box』

「自己欺瞞」のメカニズムを「箱」という概念を通して説明。人間関係について目からウロコ、と各方面で話題らしく、amazonのユーズド価格が大変なことに。図書館で読みました。わかったような気になっているけど、もう一回読んでおいてもいいかも。

海馬―脳は疲れない

池谷裕二・糸井重里『海馬―脳は疲れない』

脳についての新しい知識がとても新鮮。そして二人の絶妙な対談。うまく頭を使うことがいい生活になるはずよねぇ、としみじみ。30歳になった今年、この本の「30歳から頭はよくなる」という言葉を楽しみに、来年を過ごしたい。

11冊になっちゃった。来年はもっと読みたいですなぁ。新春一発目は『砂漠』の予定。よいお年を!