女子たちは「最後」の重さを知っている 『少女は卒業しない』

胸がキュン、とするどころじゃない。

胃がギューっと、締め上げられるほどの恋心。

それは切なく、苦しく、神々しい。

舞台となるのは、とある地方高校。この春から他校に吸収合併されるため、今年度限りで廃校になる。取り壊しの前日、学校が学校として存在する最後の日に、最後の卒業式が行われる。

その卒業式の日の早朝から夜中までを、7つの短編でつないでいく。7篇すべて異なる女子が主人公の青春小説。

思春期には「最後」が重すぎる

次の日には校舎が壊され、再び集う場所がなくなってしまう。この卒業式の一日は、まさに卒業生にとっても在校生にとっても「最後の一日」なのだ。

10代には「最後」という言葉が本当に重い。機会は永遠に失われ、同じ時間は二度とない。またなんかあったら、とか、そのうちまた、とか、オトナが口にする社交辞令なんて紙切れ同然の軽さだ。

ただでさえ卒業は別れを産むというのに、場が無くなってしまう状況。もう本当に、「最後」。クラスメイトも先輩も後輩も先生も彼氏も、みんなみんなサヨウナラになってしまう。7人の少女がこの「最後」にかける思いがズシンと、くる。

早朝の通学路で、誰もいない屋上で、在校生代表の送辞で、卒業ライブの控え室で、真夜中の校舎で…。

7者7様のシチュエーションで、少女たちは自分の「卒業」と向かい合う。

思わぬ仕掛けに胃がギューッ!

これだけでも盛り上がるというのに、朝井さんはここに「サプライズ」を仕掛けてくるんだよぉ。ずるいよぉ。

各短編、読者に伏せられている事がある状態でスタートするのだ。なんか隠してるな…とわかる場合もあれば、思わずエッと声が出てしまう場合もある。そしてその「かくしごと」がオープンになった時、各短編の主人公の女子が抱えているものの全貌がわかる。

これがまぁ効果的に働いてて、全貌が明らかになった途端にもう、ワーッ!となる。つらい!とか、せつない!とか、そんな思いが胃にギューっとくる。

読み終わるとヘトヘトになります。

まとめ

出てくる女子が「最後」を胸にたかぶらせているのに、描かれる男子がおバカで愚直なのもいい。男子って、何も気がついてなくて、そのくせ、なんか小さいことをずっと覚えていて、女子よりセンチメンタルだったりする。

僕は男子校出身なので、女子高生という存在はもはや想像上の生き物でしかないのですが、それでも彼女たちと一緒に一喜一憂して、ヘトヘトになってしまった…。激しくオススメしますよー。

見えない力が僕らを動かす『桐島、部活やめるってよ』

映画化も話題になり、「石原、都知事辞めるってよ」とか「桐島、部活やめるってばよ」とか、散々大喜利のお題にされてきた『桐島、部活やめるってよ』。ちゃんと原作を読んでみた。

田舎の県立高校を舞台にした、5篇の連作短篇集。冒頭の掌編で、男子2人の会話によってバレー部のキャプテン・桐島が突然部活をやめたことが噂されるのだが…。

桐島が出てこない

肝心の桐島本人は全く出てこないんですよ。部活を辞めた理由が最後までわからない。宮部みゆき『火車』みたい。

キャプテンだった桐島が部活を辞めたことによって、もちろんバレー部は影響を受ける。新体制で再出発せざるを得なくなる。その様子が最初の短編に描かれる。しかし桐島が起こした変化は、それだけじゃ終わらない。

部活が終わるのを待っていた桐島の彼女は早く帰ることになるし、その彼女と時間をつぶしていたソフトボール部員は逆に時間をもてあますことになる。そして、映画部の部員や、ブラスバンド部の部長まで「小さな変化」が連鎖していくのだ。

前半で「小さな変化」を受けた人が、後半、桐島の存在すら知らない人にまで影響を与えたりする。止まらない桐島ドミノ。

高校生活という共同体で、たったひとつの分子が変動しただけで、ポツポツと小さな波紋が広がっていく。この構成がうまいなぁ。

「上」から「下」まで

全5篇の短編は、全て別々の生徒の視点で書かれてる。男女5人。

学校って、自然と「上」と「下」に別れる。

「上」はヤンチャで騒がしくて、運動ができて勉強はそうでもなくて、遠足のバスでも一番後ろに座るようなグループ。対して「下」は静かで運動はそんなにできなくて、だからと言って勉強ができるとも限らない、制服もきちんとした形で着てるグループ。

視点人物の5人はそれぞれ違う階層にいる。一番「下」が1、一番「上」が5なら、レベル1~5まで揃っている。

それぞれの毎日はなんでもないようでいて、心の中は波乱に満ちている。彼らには学校の中が全てで、その狭い世界でずっとモヤモヤしてる。どのレベルでも楽しみと悩みとがある。

5人をしっかりと描いてくれるので、逆に画一的に描かれている、彼らを取り巻くクラスメイトも実は同じ想いを抱えているんだろうな…、と想像させてくれる。脳天気な男子も、オシャレしか興味なさそうな女子も、もちろん、登場しない桐島も。

ずっと続くように思えてたことも、誰か一人の行動が巡り巡って壊していく。永遠に続くようにすら思える青春時代だけど、それはとてももろい。

そして、あの頃見えなかったものが、いま見えているかというと、そうでもないと気がつかされるのだ。