愛川晶『道具屋殺人事件 ──神田紅梅亭寄席物帳』

まさに落語ミステリの”真打ち登場”。帯の文句に偽りなし。

高座の最中に血染めのナイフがあらわれる、後輩は殺人の疑いをかけられる、妻の知り合いは詐欺容疑……。次から次へと起こる騒動に、二つ目、寿笑亭福の助が巻き込まれながらも大活躍! 落語を演じて謎を解く、一挙両得の本格落語ミステリー!

これまで落語ミステリと言えば大倉崇浩『七度狐』や田中啓文『笑酔亭梅寿謎解噺』など数あれど、本作が新しいのは、落語を演じることイコール事件の解決になること。

3編ともクライマックスは舞台にあがる福の助の落語。福の助が従来の古典落語に新しい演出を加えるのだけど、この演出そのものが謎の真相を示唆することになるのである。この「新しい演出」=「謎解き」の絵がすばらしい。

落語のアイデアを思いつくだけでなく、それを事件と結びつけるプロットを作るなんてたいそう難しかろうに、3編ともクオリティが落ちないのもスゴイ。

粋な登場人物や名人のエピソードなど、作者の落語に対する愛もひしひしと伝わる筆致。しゃべりの果てにある美しき一石二鳥。また続編が楽しみなシリーズが一つ増えました。
 
 

ハナシをノベル!! 花見の巻

なんだか落語が聞きたいなぁと思ってたら、作家9名が新作落語を書き下ろした『ハナシをノベル!! 花見の巻』がつい最近出たらしく、すごい気になる。実演CD付きですって。我孫子武丸、浅暮三文、田中啓文、牧野修などなど。

『気分は名探偵―犯人当てアンソロジー』

2005年、「夕刊フジ」に犯人当て懸賞ミステリーとしてリレー連載されたものを単行本化。夕刊フジにこんなマニアックなもの載せて大丈夫だったのか、と思ったら結構応募があったらしく、正解率もそこそこあったらしい(各短編ごとに正解率が書いてある)。

有栖川有栖「ガラスの檻の殺人」
路上で起こった”視線の密室”殺人。見つからない凶器どこに?
貫井徳郎「蝶番の問題」
別荘で劇団員5人が全員変死。残された手記から犯人を捜す。
麻耶雄嵩「二つの凶器」
現場は大学の研究室。殺害に使われたレンチの他に手付かずのナイフが見つかる。
霧舎巧「十五分間の出来事」
新幹線のデッキで昏倒してるのはたちが悪かった酔っ払い。とどめを刺したのは誰だ?
我孫子武丸「漂流者」
島に流れ着いたボート。記憶をなくした男。持ってた手記には惨劇の記録。オレは誰?
法月綸太郎「ヒュドラ第十の首」
被害者の部屋を荒らした痕跡に不自然な点。容疑者は三人の”ヒラド・ノブユキ”

これだけの作家が揃ってほぼ同じ枚数の犯人当てを書く、というイベントがもう楽しい。肝心の犯人当ては作家の個性が色濃く出て、京大推理研出身の麻耶、法月、我孫子の三人はしっかりツボを押えた論理プロセスを書ききってみせたり、貫井徳郎は夕刊フジ相手に”飛び道具”を使ったために正答率1%になってしまったり、とそれぞれ。

巻末に6人の作家の覆面座談会(これも懸賞付き。解答は公式サイト)があったり、探偵役にシリーズキャラ(木更津悠也、法月綸太郎、吉祥院先輩)が使われてたりして、もはや一つの祭り。納涼・犯人当て祭り。またやってほしいなぁ。

全員が匿名の座談会の最後に、なぜかひょっこり探偵小説研究会の蔓葉氏が出てくるのが個人的ヒットであった。

我孫子武丸『弥勒の掌』

新興宗教・警察・汚職・復讐・捜査小説なんて言葉が帯に踊っていて、横山秀夫でも目指し始めたのか?と思っていたら!やられたー。ベーシックな仕掛けなんだけど、サスペンスフルな展開に引き込まれているうちにポイントをうっかり通り過ぎるように計算されてる。まさに新本格の匠の技。書き下ろし長編13年ぶりは伊達じゃない。タイトルのつけ方もうまいなー。