山里亮太『天才になりたい』

南海キャンディーズのツッコミ、山里亮太が2006年に書いた自叙伝。相方・しずちゃんに注目が集まるわ、容姿がブサイクだわで、テレビではいじられキャラな山ちゃんであるが、その豊富な語彙と的確なコメントは以前から割と好きなのであった。

その彼が芸人を志してからM-1決勝にいたるまでの獣道。てれびのスキマさんの「山里亮太・天才の公式(前編/後編)」で紹介されたのをきっかけに手にとってみました。

一読、彼がいかに小心者で、それゆえに努力家あることに驚かされる。芸人になりたい。しかし自分は「天才」ではない。でも「天才」と思われたい。そこで彼が取った行動は、過去のちょっと褒められた記憶を溜め込んだり、相方に厳しいダメ出しをして優位を保ったりで、「張りぼての自信」を作ることだった。

その張りぼての自信を保つゆえ、「こんな努力をして栄光をつかんだ」という話ではなく「こんな執着でここまでたどり着いた」という内容になっている。

その執着たるや容姿以上に「キモイ」と思われても仕方ないほど。

相方に厳しすぎたため二度もコンビを解消されたり、面白いと思った芸人のネタを写経のように書き写したり、当時別のコンビを組んでいたしずちゃんをケーキバイキングで口説き落として略奪したり、千葉出身なのに「芸人になるには大阪に行かねば」と思いこみ関西大学に進学したりする。

(そういえばロザン宇治原も芸人になるために京大に入っていた(『京大芸人』より)。勉強しなさいよ勉強を)

小さな成功のたびに過信して挫折し、何度も心が折れる音を聞きながら、面白く思われたいと切に願う。そんな山谷を繰り返しているうちに「いじられる」ことをプラスに変えて進めるようになる。

ただのよくしゃべるブサイク、と思われがちな山ちゃんは、手探りと努力で今のポジションまでやってきたのだった。そのネガティブとポジティブの反転の仕方たるや。この本が新書になってるのもある種の”教え”を含んでいるからと思う。
 

そして2009年。M-1グランプリ2009。3回目のM-1決勝進出を果たした南海キャンディーズ。結果は決勝9組中8位となったが、終了後の記者会見にて島田紳助が「大会の総括」を聞かれ、南海キャンディーズについてこう語っている。

南海キャンディーズの山里(亮太)は天才やと思ってる。漫才では無理だけど、山里は才能あるんですわ
【M-1優勝インタビュー】新王者パンクブーブー&紳助との一問一答

 
これでまた山ちゃんの張りぼての自信貯金にチャリンチャリンと預金が増えたのかもしれないけど、もうその自信は張りぼてじゃなくてもいいんじゃないの、と思う。