パンク刑事、飲まれる 山口雅也『キッド・ピストルズの醜態』

金融業者コーエンの散らかった部屋で、作家ノーマンは途方に暮れていた。机には白髪の老人の生首。自分の鞄には男のものらしき手首。手には、この死体がコーエンのもので、自分がその殺害にかかわったことを示唆するマザーグースの歌詞……。何が起こったのか? スコットランドヤードの腕利きパンク探偵、キッド・ピストルズが風変わりな密室見立て殺人の真相に挑む! 傑作本格ミステリ中編を3本収録した、シリーズ待望の最新刊。

2年ぶり6作目になるキッド・ピストルズシリーズ。久しぶりなんで世界の設定忘れたなぁ…と思ったら、前書きにちゃんと「パラレル英国の概説」と題した解説があった。よかったよかった。

舞台はパラレルワールドの英国。年代は我々のいる世界と同じだけど、パラレル英国では警察の権威が地に落ちており、代わりに探偵が事件解決の権限を持っている。警察では誰でも警察官になれるようになってしまって、パンク族まで入隊できちゃう。このシリーズの主人公、キッド・ピストルズもその「パンク刑事」の一人。持ち込まれるのは変てこな事件ばかり。しかも「マザーグース」になぞらえたものばかり…。

「だらしない男の密室 ー キッド・ピストルズの醜態」「《革服の男》が多すぎる」「三人の災厄の息子の冒険 ー キッド・ピストルズの醜態、再び」の中篇3編を収めた中編集。

上に挙げたあらすじの「だらしない~」と、投獄されてるはずの殺人鬼《革服の男(レザーマン)》の目撃情報から展開が二転三転する「《革服の男》が多すぎる」は伏線の絡ませ方と解き方が巧み。そういえばあそこに書いてあった!という王道の驚きと、王道からひねくれた展開の妙がおもしろい。

最後の「三人の~」だけちょっと毛色が違って、犯人や動機は?という謎ではなく、「このお話は一体なに?」という趣向。閉鎖病棟に閉じ込められて…という出だしなんだけどなんだか様子が変。お互い身に覚えがない三人の双子。消える死体。不完全な建物。頼みのキッドも泥酔状態。ただちょっと予想がつく割に冗長だったりなので、トーンダウンに感じてしまいました。趣向は面白いんだけどなぁ…。
 

山口雅也『モンスターズ』

『ミステリーズ』『マニアックス』に続く”Mシリーズ”の最新作。納められてる中篇短編の通しテーマはタイトル通りの「モンスター」。怪談あり、ハードボイルドあり、終いにはヒトラーや吸血鬼や狼男が出てくるミステリあり、とバラエティな内容。

ただ、今回、特に目を見張る巧緻や趣向に欠けた印象で、個人的には消化不良でした…。うーん。「ミステリーズ」「マニアックス」に見られたメタフィクション的な趣向が好きだったので、シリーズ通しての期待値を求めると下がってしまうのかもしれません。

續・日本殺人事件 (創元推理文庫 M や 1-5)

『続・日本殺人事件』とか、本格だったはずなのに論理も理屈もふっ飛んだのがまた読みたいな、と思うのです。というか今はじめて文庫版の装丁見たけどすごいカッコいいなぁ。