志村、後ろ後ろ! 奥泉光・いとうせいこう『世界文学は面白い。 文芸漫談で地球一周』

奥泉光といとうせいこうが北沢タウンホールで定期的に行っている『文芸漫談』の書籍化第二シリーズ。1回に一冊「薄いブンガクの本」を題材に二人がセンターマイクを挟んで語るという形式(イベントではその後奥泉光のフルートといとうせいこうの朗読があるらしい)

前作『文芸漫談』ほど枕は長くなく、途中の脱線も少ない(あと漫談に茶々ばかり入れていた脚注がなくなったのは個人的にうれしい)。カフカ『変身』や夏目漱石『坊ちゃん」、ポー『モルグ街の殺人』など、冒頭からラストにいたるまで粗筋を引用しながら、不条理な展開を笑い、小説技法に唸り、作家の心中を推し量る。未読の人には興味をひくプレゼンテーションになり、既読の人には再確認ができる。

これが「漫談」という形式で成立するのはすごいなぁ。難しいことを人に分かりやすく説明する、というのは頭がよくないとできない。ちなみにタイトルにある「志村、後ろ後ろ!」は主人公の危機に読者は気がついているもののどうしようもできないという、”物語の客観性”を表している比喩。こんな感じで、難しくなりがちな文芸評論が二人の「読み」から「トーク」への昇華によって手に届きやすくなっている。

今回取り上げられてる9冊はどれも薄くてさっと読める本。同じく世界文学を独自の視点とツッコミで解説する伊藤聡『生きる技術は名作に学べ』と比べてみるのも面白いかも。
 

いとうせいこう・奥泉光・渡部直己『文芸漫談』

いとうせいこうと奥泉光が実際に舞台の上で行った文学漫談の活字化。副題に「笑うブンガク入門」とある通り、文学のエッセンスを漫談形式で時にわかりやすく、時にややこしく、時に奥泉光の大ボケで語っていくのが面白い面白い。文学というのはこういうことを考えて論じるんだ、という、「文学」に触ったことがない自分には多くの示唆に富んだ本。これはいい。

いとうせいこうは属性的にはツッコミなんだけど、勢い頭がキレるだけに全てのものにツッコムため、相手がみうらじゅんやシティボーイズ等の「大ボケ」でないと空回りして見えてしまうのだけど、奥泉光の「ボケる時は大きくボケるけど、語るときはしっかり語り、最後にちょっと踏み外す」というスタンスとの距離感がベストマッチ。保育園で泣きすぎ。セカチューを嫌いすぎ。

こうなると残念なのが脚注の渡部直巳で、本文にツッコミを入れたりボケたりと、脚注なのに読者の方を向かずに舞台の方ばかり見ているので、ホントに「入門」として接することになった者としては用語とかもっと注を入れて欲しかったところ。トリオ漫談はポジションが難しい。

「小説」「書く」「読む」「語り手」「物語」「泣く」「ユーモア」…キーワードを繋ぎ俯瞰し構造化しながら紐解いていく。読み終わると、なんか小説を書きたくなってしまうという副作用も生じる一冊。だって二人はこう言うのだ。

「世界を二重化して見ることが、元気の素なんだ」