太田忠司『奇談蒐集家』

奇怪な呼び水、浴びせる冷や水。

【求む奇談!】新聞の片隅に載った募集広告を目にして、「strawberry hill」を訪れた老若男女が披露する不思議な体験談――鏡の世界に住まう美しい姫君、パリの街角で出会った若き魔術師、邪眼の少年と猫とともに、夜の町を巡る冒険……謎と不思議に満ちた奇談に、蒐集家は無邪気に喜ぶが、傍で耳を傾ける美貌の助手が口を開くや、奇談は一転、種も仕掛けもある事件へと姿を変えてしまう。夜ごと”魔法のお店”で繰り広げられる、安楽椅子探偵奇談。

奇妙な謎をはらんだ不思議な体験で盛り上がるものの、あっさりと助手によって現実に引き戻されてしまう。盛り上がり↑と引き戻し↓の高低差が激しいほど、とても魅力的な安楽椅子探偵ものになりうる本作。ただ、引き戻し↓の内容が膝を打つ、というより、わりと身も蓋もなかったりするので(ただの見間違い、とか)ちょっと食い足りなかったりする。

そんなちょっとモヤモヤを抱えたまま最後の書き下ろし「すべては奇談のために」を読むと評価一変。いわば「後日談」にあたる一編は今までの流れからの視点を変え、立っていたはずの足場を揺らぎさせる。幻想と現実の入れ替え戦。webミステリーズ!の【ここだけのあとがき】にもまさに最後の書き下ろしが作者のやりたかったことらしい。読了した方はぜひこのあとがきも読むことをオススメします。

太田忠司『予告探偵―西郷家の謎』

大戦の傷跡をまだ深く残しつつも、人々が希望を胸に復興をとげてゆく時代―一九五〇年の十二月。それは三百年以上続く由緒ある旧家、西郷家に届いた一通の手紙から始まった。便箋に書かれた“すべての事件の謎は我が解く”の一文。その意味する「謎」とは?壮麗な旧家の屋敷を舞台に繰り広げられるおぞましき人間関係、次々と起こる奇怪な事件。はたして犯人の正体は?そして、その目的は一体何なのか…!?

と、amazonの紹介文にあるわけなんですが…いやーこれは面白かった。爆笑してしまいました。あの最終章は作者自身が「さぁ、この本を壁に投げておくれよ!」と明るく誘っているとしか思えんですよ。綺麗な放物線を描けるよに本にちょっと重りをつけたいくらいですよ。

高慢な探偵役と気弱なワトソン役の対比、旧家の諍い、お屋敷と執事と美術品など、本格ミステリのお約束ガジェットをこれでもかと配置して、最後に下にあったテーブルクロスを一気に引き抜くような大オチ。記録よりも記憶に残るミステリがまた一つ誕生しましたよ。ひでぇ~なぁ~(←褒め言葉)