愉快!痛快!『大誘拐』!

2013-02-20 15.05.29

先日の『獄門島』(→レビュー)に続き、読んでないままだった名作を改めて読んでみよう第2弾。天藤真『大誘拐』です。読んでなかったのですよ。

『大誘拐』はですね、子供のころ金曜ロードショーで映画版を観た記憶がちょっとだけあるんですよ。ヘリとか爆破などの派手な場面は印象に残ってるんだけど、話自体はほとんど覚えてない。

でも読んでわかった。それもそのはず、身代金100億円をめぐるユーモア混じりの駆け引きは、オトナじゃないとオモシロさがわからない!

刑務所で知り合った三人のゴロツキが企んだのは、一発逆転の誘拐劇。紀州一の大富豪、柳川家の当主、とし子刀自(「刀自」は年輩の女性の敬称)。持山を散歩しているところをなんとかさらってみたものの、82歳のとし子刀自に主導権を握られてしまい、隠れ家まで提供されてしまう始末。

ところで身代金はいくらにするつもり?ととし子刀自に聞かれ、5000万!と答えてみれば、見損なうな、と100億円まで釣り上げられてしまう。かくして、誘拐犯&おばあちゃん vs 警察&家族 の熱い日々がはじまるのだった。

「身代金100億円」が作る壁

「誘拐もの」を面白くするポイントってのはいくつかあって、要求を伝えるところや、身代金を受け渡すところがやっぱり見せ場になる。犯人側と警察側の知恵比べになる。

それがこの『大誘拐』、身代金が100億円という金額のため、この「見せ場」が困難極まりない。まず100億円という金額が本気にされない。受け取るにも100億円の現金となるとすごい重さになる。そもそも用意できるの?

これらの「100億円の壁」を乗り越えていくアイデアの数々が、派手で、ユーモアにあふれ、クレバーで、すごいおもしろい。映画化されてることからもわかるけど、映像化が映える映える。

そんな派手な展開もありながら、意外にも読後感は「ほっこり」なのだ。

みんなおばあちゃんの虜

数々のアイデアもさることながら、やはり『大誘拐』はとし子刀自のキャラクターに尽きる。

視界に入る山はすべて柳川家の持山というくらい大富豪でありながら、邪心が無く付近住民の信頼も厚い。真面目に決めるところは決め、茶目っ気もある。柳のごとく柔軟で、川の流れのようにたおやか。いい人なの。

そんな人なので、登場人物がみんなとし子刀自にお世話になったことがある、というのも重要なところ。金と人とのトレードに終始しがちな誘拐に「恩返し」が絡んできちゃうのだ。打算のない行動が、身代金100億円を実現するアイデアにつながっていく。逆に言うと、とし子刀自じゃないと成り立たない。

全部とし子刀自を中心に回っている。それでいて愛すべきキャラクター。読み終わる頃には、このおばあちゃんの虜になっていること請け合い。オトナになったいま、映画版を観たいなー。

※映画版の予告編がYouTubeにあった!そうそう、これこれ!