古川日出男『LOVE』

東京の品川・目黒一帯を舞台に、数々の登場人物が乱れる群像劇。全てを見ているのは無数の猫たち。

「ハート/ハーツ」「ブルー/ブルース」「ワード/ワーズ」「キャッター/キャッターズ」の4つの短編があり、その間に東京の土地と猫についての挿話がある。各短編には5~6人の登場人物がいて、それぞれを二人称でスケッチし、別々の暮らしをしていた人々が微妙にリンクしていく。小学生は自転車を飛ばし、ミュージシャンはガード下で歌い、少女は都バスに乗り続ける。その文体はとても独特で、短く切った文章がテンポよく積み重なり、品川・目黒・五反田がビュンビュンと後ろへ通り過ぎていく。

このドライブ感はもはや小説というより、音楽に近いかもしれない。ひとつひとつの電球がネオンを作るように、ひとつひとつの楽器が音楽を作るように、一人一人の物語が東京を作っていく。音色はいまも、鳴り止まない。
 

古川日出男『ベルカ、吠えないのか?』


ベルカ、吠えないのか? ベルカ、吠えないのか?
古川 日出男

文藝春秋 2005-04-22
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4頭の軍用犬からはじまる、20世紀戦争の記録。イヌよ、イヌよ、お前たちはどこにいる?

1943年、アリューシャン列島に置き去りにされた4頭の軍用犬から始まる、犬たちの大河物語。子孫が子孫を産み、世界中に広がっていく戦いの血。第二次世界大戦、ベトナム戦争、アフガンと戦地に赴くものから、ドッグショウ、野犬、マフィア、果ては狼と交わるものまで。同じ血を持ったものが地球上で交差し収束する、その数奇な運命たるや。

近代世界史と共に展開するイヌの年代記が、もー圧倒される壮大な物語。熱い文体に血をたぎらせて、地を駆け、唸り、宙を見上げる凛々しさ、そのイヌの姿にどっぷり惚れる一冊。あー、かっこいい…。