さよならをもう五回  伊坂幸太郎『バイバイ、ブラックバード』

主人公・星野一彦はお金の問題もろもろで<あのバス>に乗せられて遠くへ行くことになってしまった。

<あのバス>の行き先については詳細はわからない。監視役の巨体の大女・繭美(イメージはマツコ・デラックス)に聞いても恐ろしい例え話をするばかり。ずけずけと人を傷つける言動を繰返す繭美に、星野一彦はあるお願いをする。恋人に最後の別れを告げたいと。

しかし、星野一彦は五股をかけていたのだった…。
 
 
というあらすじからなる5編+1編の短編集。「繭美と結婚することになった」という嘘を引っさげて、一人一人に別れを告げに行くのだ。

借金+五股だけど星野は悪人というわけではなく、いい人なんだけど色々自覚がなくてこうなっちゃった、という感じ。なので、別れ際にもなんか女性の役に立ちたいと考えてしまう。車を当て逃げされたと聞けば、犯人を探し出したいと繭美に頼んでブーブー言われ、それでも繭美の協力を得て、なんやかんやでカーチェイスをする羽目になってしまう。

星野が一人の女性と関係を断ち切るまでを1編としてるのだけど、別れ話の後に起こる事件や出来事をスマートに回収する様はさすが伊坂幸太郎。繭美のキャラ立ちと、お話の小粋さのコントラストが面白いです。

星野のいい人さと、繭美の無軌道さ、様々なタイプの女性たちと、そこに偶然と伏線を織り混ぜて、恋愛でもミステリーでもない、あまり見たことのない連作短編に仕上がっています。最後の書き下ろしの1編もまた、いいんだよなぁ。
 

伊坂幸太郎『モダンタイムス』

『ゴールデンスランバー』(→感想)と対をなす、540ページの冒険。『魔王』(→感想)から50年後の世界で起こる「監視」とは。

主人公の渡辺拓海はシステムエンジニア。浮気を疑う妻が差し向けた刺客に、拷問を受けるところから物語は始まる。仕事でかかわることになった「ゴッシュ」なる会社の検索システムに異常なコードを見つけた渡辺たち。その後、ある言葉で検索した人々に次々に不幸が襲い掛かる。

モーニングに1年間連載されたものを元に加筆修正した本作。上のあらすじでいきなり拷問だ検索だときてますが、まだまだこんなもんじゃなく、展開は予想もつかないループコースター。

独特の言い回しや強烈なキャラクターなど、伊坂幸太郎の世界を楽しめるのはもちろんなのですが、同時期に書き下ろされた『ゴールデンスランバー』とどうしても比べてしまう。緻密な伏線が効いた『ゴールデン~』に比べ、連載という形態もあってか本作はどうも一本槍で、予想のつかない展開も悪く言うと「行き当たりばったり」に感じてしまったり。

とはいえ、『魔王』を楽しめた人は絶対読むべきで、『魔王』を読んでない人は読んでから読むべき。モーニングに掲載されたときの挿絵を一緒にのせた特別版もあります。

Googleストリートビューで伊坂幸太郎めぐり

Googleストリートビューがすごくって、あちこち見ています。街中に立ってぐるぐる見回すのが癖になる。これ、首都圏だけじゃなくて仙台もカバーしているので、伊坂幸太郎めぐりができるかも?と思った。

というわけで、伊坂幸太郎作品の中に出てくる仙台の場所をいくつか拾ってみました。

仙台駅。『チルドレン』『アヒルと鴨のコインロッカー』『ラッシュライフ』などに登場。

大きな地図で見る
続きを読む →

伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』

書下ろし1000枚の本作はまさに「ベスト・オブ・伊坂幸太郎」といったおもむきですよ。政治の闇は『魔王』、親子の絆は『重力ピエロ 』、学生時代の友情が『砂漠』で、殺し屋といえば『グラスホッパー』。これら今まで発表した作品のエッセンスを1つに注ぎ込んだのが、この『ゴールデンスランバー』、と言うぐらいの伊坂全部盛りです。

仙台での凱旋パレード中、突如爆発が起こり、新首相が死亡した。同じ頃、元宅配ドライバーの青柳は、旧友に「大きな謀略に巻き込まれているから逃げろ」と促される。折しも現れた警官は、あっさりと拳銃を発砲した。どうやら、首相暗殺犯の濡れ衣を着せられているようだ。この巨大な陰謀から、果たして逃げ切ることはできるのか? 

逃亡アクションものとしてはまだアイデアを盛り込める余地がありそうで、行き当たりばったりな展開もありますが、この作品の中心は繰り返し使われる「信頼と習慣」という言葉にあるような気がします。普通の人が逃げなければいけない目になったとき、何をどう信じたらよいのか?見えない絆が生む奇跡に心やられます。

リンクも健在で、見落としてる伏線もまだあるような気がするなぁ。読み終わった方は第2章と第3章をもう一度読むことをオススメします。伊坂幸太郎の入門としても、ファンサービスとしても、十二分に耐えうる一冊。タイトルの元になった、ビートルズが聞きたくなってしかたがない。

マシリト

グッドウィルの折口会長の髪型が何かに似てるなぁーと思って、あ、Dr.マシリトじゃないか!?と思って調べてみたらそこまで似てなかった。

微妙すぎて話しが膨らまない。

—–

斉藤和義と伊坂幸太郎のコラボレーションの話をいまさら知りましたよ。次のシングルの初回限定版に書き下ろし小説がつくらしい。短編が2本。プレミアの予感がするけどどうなのか。入手困難になるかあっさり短編集に組み込まれたりするのか。激しく迷う。