三雲岳斗『少女ノイズ』

読者よ、表紙の萌え絵に欺かれるることなかれ。

ミステリアスなヘッドフォン少女の美しく冷徹な論理
欠落した記憶を抱えた青年と心を閉ざした孤独な少女。彼らが出会った場所は無数の学生たちがすれ違う巨大な進学塾。夕陽に染まるビルの屋上から二人が見つめる恐ろしくも哀しい事件の真実とは――。
気鋭の作家が送る青春ミステリーの傑作!

塾の屋上でいつも死体のようにぐったり寝てる少女・冥(でも全国模試トップ)と、その世話役のバイトになった高須賀(趣味:殺人現場の写真集め)の二人が主人公。双方人付き合いがドライなのだけど、会話するうちに不思議と共鳴していく。表紙からしてライトノベル的展開になろうと思われど、しかしまぁなんともギットギトの本格ミステリ魂が味わえる連作短編集なのですよ、奥さん。

どれもこれもネタ濃縮で、日常の謎・ミッシングリンク・人間消失・密室(心理も物理も!)もがいくつも絡み合う。日常の謎+トラウマ「Crumbling Sky」、人体切断+ABC殺人+密室殺人「四番目の色が散る前に」、呪い+人間消失「Fallen Angel Falls」、密室+幽霊+ストーカー「あなたを見ている」、密室+21世紀本格「静かな密室」の全5編。ネタを詰め込み過ぎて展開が駆け足な印象もあるけれど、そのぶん濃厚な読後感。胃もたれ寸前。

トリックやプロットだけでも見所多しですが、どの作品にも『思春期』が見え隠れしているのがもう一つの特徴。学習塾が舞台なため、登場人物がほぼ10代。犯人の自意識だったり、被害者のトラウマだったり、探偵役の自我だったり、さまざまな意識がもつれた末に不可思議な事件が生まれる。技巧と心理の両面から固められた物語は深い。

キャラが立ってるうえに、クールかつシャープな切れ味の本格ミステリ。ラノベ層にもミステリ層にもオススメできる逸品だと思います。続編も期待しちゃうなー。

三雲岳斗『旧宮殿にて』

時はルネサンス期イタリア、ミラノ。舞台は宮廷に認められた建築家や芸術家が集まる「旧宮殿」。様々な揉め事に気をもむ宰相ルドヴィコが相談する相手、その人こそレオナルド・ディ・セル・ピエーロ・ダ・ヴィンチであった。

5編からなる短編集。中世なので人名が読みづらいカタカナで誰が誰やらだったのですが、慣れてくると舞台設定の特殊さがメインとなる謎に絶妙に絡んできて気持ちいい。衆人環視のなか右腕だけ残して消えた彫像、塔に幽閉された女が子羊の死体を残していなくなり、祝宴に飾られていた肖像画が謎の譜面を残して消失する。どれもなかなかにトリッキー。

そしてなんといっても注目は4つめの「二つの鍵」。『ザ・ベストミステリーズ〈2005〉』『本格ミステリ05』にも収録され、
2005インターネットで選ぶ本格ミステリ短編ベストにも選ばれたのもうんうんと頷ける傑作短編。遺言状を入れる箱を特注した大富豪。その箱には金・銀二つの鍵がついていて、金の鍵で閉めると銀の鍵じゃないと開かないし、銀の鍵で閉めると金の鍵じゃないと開かない。銀の鍵三本を息子に配り、大富豪は金の鍵で箱を閉めた。自分の生きてる間に誰かが箱を開けたら相続権は愛人に渡ると言い放つ。そしてある晩、富豪が殺されて箱が持ち去られる。ここから始まるフーダニットはすーごーいーぞー。こんなにキマッた消去法ロジックは久々に見た。読む価値大アリです。