三木聡『図鑑に載ってない虫』

時効警察の監督・脚本でゆるく濃厚な小ネタをお茶の間にお見舞いした、三木聡の初の小説。というより監督脚本した同名映画(→公式サイト)のノベライズ。

フリーライターの主人公は鬼編集長(美人)から死後の世界をルポするように命じられる。人を仮死状態にする「死にモドキ」を使って一回死ね、そして生き返れとのこと。できなかったら半殺し。っていうか死にモドキってなんだよ。アル中の相棒エンドーを引き連れてあてのない旅に…。

序盤から中盤にかけて全くメチャクチャなアレである。ボンネットに吐くわ、やくざ100人に追いかけられるわ、サロンパス丸めて吸ってラリるわ、である。無駄なセリフ、無駄なキャラ、無駄なコネタに彩られて、しかし気がつくと死にモドキの正体に迫っていたりする。

無駄すぎ、なんだけど、本筋、かつ、本筋すぎず、無駄すぎ、みたいなグラグラしたバランスを三木作品ではよく見るような気がする。シティーボーイズもそうだし。不安定な足場にツッコミを入れている間に家が建っているのである。なんとも不思議。

急に正気になり始める終盤の展開に驚き、あれよあれよと読了。そこに海を出してくるのがズルいよなぁ。

不思議な面白さ、と書くとそのまんまなんだけど、ガーッとアクセルを踏んで、ガーッとブレーキを踏んで、崖スレスレで止まるような、緩急の激しさがこの作品を良きものに留まらせているのではないかと思います。でも数々のコネタはやはり映像でみたいかもですな。