これから「これからの『正義』の話をしよう」の話をしよう

この前、NHK「クローズアップ現代」でゲーミフィケーションの話題をしていた。

ゲーミフィケーションってなに?っていうと、既存の仕組みに「ゲーム感覚」をうまく取り込んで目的達成を図る取り組み、って感じかな。紹介されていた例だと、社内の評価制度に「いい感じの仕事をした人に”バッチ”を贈り合う」仕組みを取り入れたり、タンパク質の構造を解明するために分子構造をうまく作ると高得点というゲームを作ったら世界中の人がプレイして3週間であっさい解明した、とかだったり。

ゲーム感覚すごいじゃん、って感じですが、その後に「今後の課題」として取り上げられていたのがこんな例。

イギリスでは犯罪抑止のために街中に無数の監視カメラが設置されている。ところがあまりに数が多いので、カメラの映像をチャックすることができない。そこである会社が「ネット経由でカメラを監視して、万引き犯を見つけた人に報酬を与える」というサービスを始めた。見つけたらボタン早押しで通報する仕組み。

提供元は店側から利用料を得て、一部を「監視員」に報酬として渡す。店側は万引きの減少が期待できる。「監視員」はゲーム感覚で通報して報酬を得る。

お金が儲かって犯罪も経る。全体としてはいい感じに見える。でも道徳的にちょっとどうなの、という議論がある。監視カメラに写っている普通の人のプライバシーの問題もあるし、ゲーム感覚で犯罪者を捕まえるのは是か非か。なんか直感的にダメなような気がするけどうまく説明できない。
 

この番組を見ていて、今読んでいる『これからの「正義」の話をしよう』を思い出した。

ちょっと前に話題になったサンデル先生の白熱教室のあれ。最近文庫化されました。当時興味があったけど触れてなかったので、この期に読んでいる次第。とても刺激的でおもしろい。
 

「正義」には3つのアプローチがある、と最初のほうでサンデル先生は言う。

幸福と、自由と、美徳。

全体的にみんな幸福になればいいじゃない、という正義。自由な言動を守るのが大事じゃない、という正義。人として徳のある行動をするべきじゃない、という正義。

どれも「正しいことをする」という根っこはあるけど、突き詰めるとどうしてもぶつかり合って切り離せない。そこをどう折り合いをつけるのか(あるいはつけないのか)を、過去の様々な哲学者たちの言説を紹介しながら巡っていく。
 

「監視員ゲーム」の話に戻ると、お金も儲かって犯罪も減っていいじゃない、というのが「幸福」のアプローチ。功利主義と呼ばれる。とにかく結果的に幸福度があがればよし。でも損をする人は切り捨てるし、そもそも「幸福度」ってどうやって図るの?

ゲーム感覚だとしてもそれでお金を得るのは自由、でも罪のない人が監視されるのは自由じゃない。その人の行動はその人によって選ばれるべき、という「自由」のアプローチ。自由という響きはいいけど、行き過ぎると何やってもいいじゃん関係ないし、みたいなことになる。

監視やゲームの対象となるのことは人間の尊厳に反する、という美徳のアプローチ。人として美しいこと正しいことを追求する。でも美徳とは何か、を定義するのが難しい。
 

混ざり合う幸福/自由/美徳。どれが欠けてもどれが行きすぎても歪みが生じる。いくつもの事例(ホントに悩ましい出来事ばかり!)を混じえて、様々な哲学を当てはめ紹介していく。難しいけど、こちらもすごい考える。

世の中、結論は出ないけど結論を出さないといけないことが次々現れる。日々のニュースを見ていてもそんなことばかり。

「正義とはなにか」は紀元前アリストテレスの頃から考えられていることで、一つの結論が出ているわけではない。でも、いくつもの考え方を学んで、「自分の正義」を形作るのは大いに意味があると思う。
 

まさに、これから「これからの『正義』の話をしよう」の話をしよう、である。
 

あと、ちゃんと最後まで読もうと思う。
 

「ハーバード白熱教室」にスパイダーマン登場

NHK教育で「ハーバード白熱教室」という番組をやっている。

ハーバード大学の大教室にカメラをいれて、教授の講義や学生とのディベートをそのまま収録してる番組。ハーバード大学の講義を公にするのは初のことらしい。このたび公開されるのは学生一番人気のサンデル教授という人の「JUSTICE(正義)」という授業。「ザ・教育テレビ」って感じの質実剛健さである。

大学の講義の様子をそのまま流してるので、学生ももちろん映る。1000人以上入る教室で、二階席もある。

この、たまに映る学生たちが気になってしょうがない。

真面目に質問する学生もいるんだけど、両手をあげて思いっきりあくびしていたり、隣の女子とイチャイチャしてたりするやつもいる。ハーバードとはいえ、この辺は日本と変わらないんだねぇ、と思ってたら、先日すごいものを見た。

スパイダーマンがいた。

前列3~4列目の中央、いやでも教授の目線に入るところにスパイダーマンのマスクをかぶった学生が座っていた。

教授としては、笑ったりツッコんだりしたら負けなんだろうと思う。淡々と授業は進むが、たまにスパイダーマンがチラチラ映る。僕が教授だったらもう耐えきれない。

仮に一回乗り切ったとして、次の授業のときスパイダーマンが二人並んでたらどうしよう。それも頑張って乗り切ったとして、さらに次の授業の時に1000人の生徒がみんなスパイダーマンだったらどうしよう。教室中にちりばめられた赤と青。それはまるで星条旗を散りばめたかのよう。教室に入った途端、スパイダーマン1000人が一斉にこちらを見て…。

僕にはハーバード大学で講義を受け持つ自信がない。

オファーが来ても断ろうと思う。