いとう せいこう
新潮社 (2004/02)
売り上げランキング: 49,749
狭さこそ知恵、貧しさこそ誇り。庭のない都会暮らしで植物を愛でる自称「ベランダー」のいとうせいこうの植物生活エッセイ。第15回講談社エッセイ賞受賞作。
広い庭を扱うガーデニングを横目に見ながら、狭いベランダを駆使して植物を育てる自らを「ベランダー」と呼ぶ。ベランダーの一人称は「俺」であり、強い子になれと鉢を西日に送り出したり、枯れた植物をなかなか認めようとしなかったり、トイレにレモンポトスを伸ばし放題にしたり、煙草を吸いながら蓮の泥をかきだしたりなど、「園芸家」という日向なイメージから遠くいて、もはや園芸ヤンキー、孤高の不良ぶりです。
それでも植物の愛がそこかしこから伝わってくる。無償の愛、というより、嫉妬や羨望であり、彼らの命の手綱を握っておきながら、彼らは生命は自分の手の届かないところにいることを感じて憧れる。その様子は強がりでいじらしい。植物を愛でるとは、なんと切なく愛おしい様なのか!
深まる冬に向けて春の緑が待ち遠しくなる一冊。落ちているアロエさえ拾い、植木市に色めき立ち、諦めかけてた鉢から若葉が覗いたのを発見するや狂喜する、ハードボイルド・ベランダー。これはもはや、植物に対するツンデレと言っても過言ではない。
時はルネサンス期イタリア、ミラノ。舞台は宮廷に認められた建築家や芸術家が集まる「旧宮殿」。様々な揉め事に気をもむ宰相ルドヴィコが相談する相手、その人こそレオナルド・ディ・セル・ピエーロ・ダ・ヴィンチであった。
5編からなる短編集。中世なので人名が読みづらいカタカナで誰が誰やらだったのですが、慣れてくると舞台設定の特殊さがメインとなる謎に絶妙に絡んできて気持ちいい。衆人環視のなか右腕だけ残して消えた彫像、塔に幽閉された女が子羊の死体を残していなくなり、祝宴に飾られていた肖像画が謎の譜面を残して消失する。どれもなかなかにトリッキー。
そしてなんといっても注目は4つめの「二つの鍵」。『ザ・ベストミステリーズ〈2005〉』や『本格ミステリ05』にも収録され、
2005インターネットで選ぶ本格ミステリ短編ベストにも選ばれたのもうんうんと頷ける傑作短編。遺言状を入れる箱を特注した大富豪。その箱には金・銀二つの鍵がついていて、金の鍵で閉めると銀の鍵じゃないと開かないし、銀の鍵で閉めると金の鍵じゃないと開かない。銀の鍵三本を息子に配り、大富豪は金の鍵で箱を閉めた。自分の生きてる間に誰かが箱を開けたら相続権は愛人に渡ると言い放つ。そしてある晩、富豪が殺されて箱が持ち去られる。ここから始まるフーダニットはすーごーいーぞー。こんなにキマッた消去法ロジックは久々に見た。読む価値大アリです。
「リプレイ」+「そして誰もいなくなった」=…がアレになってるとは!本格ミステリというより思考実験の末のおもろい法螺話。真相とそこに至るまでがエキサイティングだけど、それだけにそこから先の畳み掛けがちょい浮きぎみな気も。もっとクレバーな姿が見たかった感じ。止まらない運命のメビウスの輪。主人公モテすぎなのは「リプレイ」の主人公を踏襲した結果なのか。
考えろ考えろマクガイバー。伊坂幸太郎の声が本の中から聞こえてくる。不思議な能力を持った兄弟の姿を借りて。信用を失った政治に、思考を止めた国民に、迫り来るファシズムに。
急速に支持率を上げる野党の政治家・犬養の登場に、兄は危機感を覚えていた。ファシズムを連想する言い分がどうも気になる。そんなある日、兄は自分の思っていることを他人に喋らせることができることに気づき始める。同時に盛り上がっていく日本全体の反米感情。犬養の思想が及んでいるのか。どうにかならないのか自分の力で。苦しい。息が。胸が。考えろ。考えろ考えろマクガイバー。(「魔王」)
その昔、ヒトラーは演説の最中に人間の可聴範囲ギリギリの低音を流して群集を高揚させたという。徐々に上がっていくテンションと緊張感。平行して見えない部分で低くジワジワ流れる違和感。「魔王」を読んでいくと感じる息苦しさと危機感は、この上下二方向からのせめぎ合いから生まれてきているような気がする。これまでの伊坂作品にもあった、無軌道無計画の悪意が、全体主義に向けることで読み手を緊張を与える効果を上げている。これでいつものリーダビリティなのだから堪らない。目を離す暇がない。
考えることをやめた大人達に、情報に溺れた若者達に、考えることを促し訴える。伊坂がこんな直球を飛ばしてくるなんて驚いた。「おまえ達のやっていることは検索で、思索ではない」と犬養も言っている。政治色の強さから「問題作」のレッテルを貼られることもあるみたいだけど、これを読むと自身を世界を考えずにはおれない。
もう一編収録されている「呼吸」は「魔王」のその後の話。弟をメインにし、「魔王」とは転じて緩やかな世界が広がるが、今度はより具体的に憲法の話まで飛んでくる。一冊の中に動と静を配置して構え万全。文学が世界に投じたこの一石で、波紋はどこまで広がるだろうか。
ちなみに「魔王」にはこっそり死神が出演しています。おかげで天気が悪くなってます。
「日本坂道学会副会長」を名乗るタモリが、東京の「よい坂」を37坂紹介。「暗闇坂」や「桜坂」などメジャーどころから、抜け道裏道のマイナーどころまで街歩き。1坂あたりにつき、見開きの写真・タモリによる解説・辺りの他の坂・江戸時代の地図・イラストマップ・周辺のタウンガイドまでついている充実振り。坂道がこんなに丁重に扱われてる本は他にないのではないか。
休みの日にパラパラと広げて、この坂行ってみようかとお出かけマップに使うもよし、江戸風俗と照らし合わせて歴史に思いを馳せるもよし。一家に一冊の東京坂道バイブルに仕上がっています。なごむなぁー。
坂道もさることながら、タモリ自身によるまえがきも必見。坂道に目覚めるきっかけになった幼稚園時代を真面目な顔で飄々と描く書きぶりがいい感じです。エッセイとか出さないかなぁ。
西澤 保彦
実業之日本社 (2005/07/16)
売り上げランキング: 27,443
神出鬼没の公務員、櫃洗市市民サーヴィス課出張所の腕貫の男。特徴なし面白みなしの役所仕事で安楽椅子探偵をやってのける。
全7編の短編集。1作目「腕貫探偵登場」の時は無愛想にヒント一つ出して、相談者が勝手に仮説を思いつくという『完全無欠の名探偵』的な展開だったのが、後半に行くにつれて業務に慣れたのか段々と饒舌になっていく腕貫男。
困ったこと/変なことが起きて→相談して→饒舌に答える、のような問題→答え合わせのようなまっすぐな図式より、無愛想ヒント一つの展開の方が難しいなりに捻りようがあって好きだったんだがなぁ。というわけで徐々に腕貫男のスタンスが揺れていく中、ちょうど真ん中に位置する「喪失の扉」がバランスが取れたのか出色の出来。押入れの中から見つかった大量の学生証と履修届。しかも二十年前のもの。身に覚えがないんだが何だこれは?という発端から背筋が凍る展開に。
奇想は相変わらずの西澤節なのですが、「役所仕事の腕貫探偵」というキャラがもっと生きる様を見たかったなぁ。もっと光を。もっと腕貫を。
有栖川 有栖
講談社 (2005/03/08)
売り上げランキング: 4,081
国名シリーズ第8弾。ちぐはぐな誘拐の果ての惨劇「助教授の身代金」、”あの”ミッシングリンクでクリスティの名作に挑む「ABCキラー」、探偵たちの中休み「推理合戦」、狙って毒を入れる機会が全くない毒殺「モロッコ水晶の謎」中篇3つ+掌編1つの構成。
アベレージは悠々超えてやってくる安定打。しかし安定しているだけにこれ!と推せる作品に困るのも確か。どれも割りと偶然の要素が絡むので、本格推理にもっていくなら事件における計画性と偶然とをどう処理するかが肝になると思うのだけど、「まぁこういうことが起こっちゃったんですよねー」的な、ロジックというよりシチュエーションの特異さが目立つ結果に。