遠まわりする雛

「古典部」シリーズ最新作。古典部のメンバー4人の入学直後から『クドリャフカの順番』で舞台となった文化祭を経て、春休みの出来事までをピンポイントに取り出した短編集。これまでの長編3作の合間にあった「日常の謎」が明らかに。

”省エネ主義”なのに解決役を頼まれて、結果として安楽椅子探偵っぽくなってしまう主人公・折木奉太郎は健在で、校内放送で『九マイルは遠すぎる』をやってしまう「心当たりのあるものは」は推理作家協会賞候補にもなった良作。

しかしやはり白眉は「手作りチョコレート事件」と「遠まわりする雛」。日常の謎を織り交ぜながら、古典部男女4人の人間関係が動き出す。気づかないふりをしていた気持ちが、見過ごせないほど大きくなっていく。あぁ青春やなぁ。

シリーズを通して読んでる人ほど本作の展開は最重要。1年が終わり、そして春が来るのである。

 

阿弥陀(パズル) (幻冬舎文庫)

「恋人がエレベーターに乗ったまま戻ってこない」。週末の夜。会社員の男の訴えを聞き、警備員の檜山はビル内を探す。しかしどのフロアにも彼女の姿はない。ビルの外にも出た形跡がない。37台もの監視カメラをかいくぐり、彼女はどこへ消えたのか?

エレベーターを縦棒、フロアを横棒として、ビルを巨大なあみだくじと見立てたタイトル。探偵役はシリーズキャラの風水火那子である。全編通して警備員・檜山の一人称で語られ、舞台もほぼビル内。

地味になりそうな展開を盛り上げるのはビル内の癖のあるテナントたち。消えた女が属していた保険会社、興信所、銀行の分室、果ては新興宗教の道場まである。なんか怪しい人々がなんか隠して過ごしていて、そのなんかが明らかになってみると全然消えた女と関係ない…けど手がかりが増える、という展開で、それはまさにアミダクジの外れを一本一本引いているかのよう。

外れを一本引くたびに仮説がひとつ消えふたつ消え、すると最後に「当たり」の解答のみが残るという、これはまさしく本格パズラーの構図。ちょっと真相はズルーい、って感じもあるのですが、アミダクジの行ったり来たりが楽しい一冊でした。
 

9月 202007
 

インシテミル (文春文庫)

「時給11200百円」。誤植だろと思いつつ高額アルバイトに応募した12人。「実験モニター」と称されたその仕事の内容は、1週間のあいだ地下の館「暗鬼館」で過ごすというもの。全員が地下に閉じ込められたその時、放送で「ルール」が説明される。破格の時給に加え、ボーナスが出るという。「人を殺した者」「人に殺された者」「人を殺したものを指摘した者」に…。

「館」で「クローズドサークル」である。これがワクワクせずにいられるかってものですよ奥さん。しかも「クローズドサークル内の殺人ゲームを観察する」目的で施設が作られているので、「ローカルルール」と「ガジェット」がてんこもり(抜け道の存在や各種凶器、12体のインディアン人形まである)。これが本格ミステリの持つゲーム性を否応無しに高めてくる。

設定だけを取り出したら、これまでにもトンでもないルールやおかしな館の作品は幾多もあれど、『インシテミル』独特の面白さは「型の包括」にあると思うのである。

「名探偵 皆を集めて さてと言い」みたいなベタな本格の型を客観的に見つつも、もう一回り大きな枠で包んで話を展開させているのだ。メタ的な趣向でありながらも、話の筋はきちんと館の中に納まっている。あまり詳細に書けないのがもどかしいんだけど、この「一回り大きな枠」の構造はミステリのマニアであるほどツボにはまるんではないか。

古典の本格があって、新本格があって、さらにもう一段階本格ミステリを進めたのが、この王道かつ異形なミステリなのでは、とまで思う次第であります。

構造の妙だけではなく、もちろん幾多ものサプライズや伏線の回収にも彩られている。本格ミステリを読むときのあのワクワク感がまた味わえる。間違いなく2007年の収穫となるだろう、本作を読み逃してはならんですよ。

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米澤穂信『犬はどこだ』
米澤穂信『夏期限定トロピカルパフェ事件』

 

仕事を100倍楽しくするプロジェクト攻略本

  • 著者/訳者:米光 一成
  • 出版社:ベストセラーズ( 2007-07-14 )
  • 単行本(ソフトカバー):128 ページ
  • Amazonで詳細を見る

リーダーは、つらい。

その原因の一つに部下の先頭に立って物事を成し遂げるプレシャーがある。そんなタイプじゃないのに「俺について来い」的な感じにしなきゃいかん時がある。

そうじゃなくて、みんなでわいわいと働いて、共にレベルアップしつつ目標が達成できたら。

著者(→こどものもうそうblog)は「ぷよぷよ」「バロック」「トレジャーハンターG」などを手がけたゲームディレクター。自身の経験から「プロジェクト(仕事でも趣味でも集団で作る物事すべて)」をまわすヒントをあげた本作は、ビジネス書にしてはかなり薄く、ゲームの攻略本のような体裁。しかしその中身は気づきに溢れているのである。

プロジェクトをRPGになぞらえて、アナタは勇者であり、仲間を集めてパーティーを作り、王様(=上層部)の無理難題をそこそこ聞き、パーティーをレベルアップさせながら最終目標に向かう。昔から知ってる概念だけによく理解でき、かつ、その概念がいちいちよく現実に当てはまるのですよ。

よくあるプロジェクトの方法論ではなく、もっと根っこの、もっと人の心の部分からはじめているのが、この本の大きな強み。「イエスアンド」による会議の仕方、「自分マトリクス」「インタビュー」による人の特性のつかみ方、「コンセプトフレーズ」によるベクトルの合わせ方、などなど、プロジェクトを生かすも殺すも結局は人の気持ちの引き出し方によるのだなぁ、と改めて思った次第です。

この世の全てのリーダーにオススメ。

ただ一つ難点があるとするならば、本のタイトルが覚えにくいことかな…。略称をつけられないかしらん。しごひゃくぷろ?

安井俊夫『犯行現場の作り方』

 や行の作家, 読書感想文  コメントは受け付けていません。
1月 142007
 

犯行現場の作り方

  • 著者/訳者:安井 俊夫
  • 出版社:メディアファクトリー( 2006-12-01 )
  • 単行本(ソフトカバー):231 ページ
  • Amazonで詳細を見る

十角館は建物自体は4000万で建つけど、沖合い5kmの島まで電気ガス水道を引くのが大変らしいです。

一級建築士の著者が、国内ミステリに出てくる「不可解な建物」の建築図面を引いちゃうという本。手がかりは文中の記述や表紙のイラストのみ。『有栖川有栖の密室大図鑑』が密室に特化した解析本だったのに対し、こちらは建物まるまる一軒が対象。ただの図面作成に終わらず、建築場所、時代、資材、作業者の宿泊まで考慮して、建築費用、工法、工事費、はては延べ床面積まで出しちゃう有様。これぞプロの仕事!

ターゲットとなるのは10作品の10建造物。台風が多い地域なのに木造建築『十角館の殺人』、51mの廊下に窓が一つもないロッジ『長い家の殺人』、車椅子を考慮するとどうしても変な壁ができる『十字屋敷のピエロ』、天才建築家が建てたまさかの違法建築『笑わない数学者』、傾き角度5度11分20秒・高低さ1.25m!『斜め屋敷の犯罪』などなど。

著者の視点はミステリに対する愛で溢れていて「こんなおかしなことになってますぜアハハ」ということは決してない。「この設計者ならこんな内装にするに違いない」「ここはこの材料じゃないとかっこよくない」「こんな配置ではあるが意図があるに違いない」というように作品世界が最優先。このスタンスが心地よく、文体も落ち着いた感じで読みやすい。

まさに謎と建築への誘い。作者と読者で楽しさを共有できる一冊で、続編が今から楽しみです。そりゃぁもっともっと変な館あるしなぁ。

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