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や行の作家 Archive

山口雅也『モンスターズ』

『ミステリーズ』『マニアックス』に続く”Mシリーズ”の最新作。納められてる中篇短編の通しテーマはタイトル通りの「モンスター」。怪談あり、ハードボイルドあり、終いにはヒトラーや吸血鬼や狼男が出てくるミステリあり、とバラエティな内容。

ただ、今回、特に目を見張る巧緻や趣向に欠けた印象で、個人的には消化不良でした…。うーん。「ミステリーズ」「マニアックス」に見られたメタフィクション的な趣向が好きだったので、シリーズ通しての期待値を求めると下がってしまうのかもしれません。

續・日本殺人事件 (創元推理文庫 M や 1-5)

『続・日本殺人事件』とか、本格だったはずなのに論理も理屈もふっ飛んだのがまた読みたいな、と思うのです。というか今はじめて文庫版の装丁見たけどすごいカッコいいなぁ。

山田ズーニー『あなたの話はなぜ「通じない」のか』

こんな例でこの本は始まる。

「何を言うか」よりも、「だれが言うか」が雄弁なときがある。例えば同じニュースでも、どのメディアが言うかで、ぐっと印象は変わる。
ついに宇宙とコンタクト(日本経済新聞)
ついに宇宙とコンタクト(東京スポーツ)

自分と相手が「通じる」ためのコミュニケーション論。とは言え、単なる技術論にあらず。自分の想いを伝えて、相手に受け止めてもらって、共感と信頼を得るまでの、著者の考え抜かれた想いがギュッと詰まっている。もうこの時点で著者から読者へ言葉が通じまくりなのだ。

冒頭の例は「メディア力」と表現されている。どんな言葉でもそれを言う人によって捕らえ方が変わる。「メディア力」を持っている人ほど話が通じやすい。では「メディア力」上げるにはどうしたらいいのか?

ここで作者は小手先の交渉テクニックを持ち出したりはしない。話を通じさせるには、まず通じさせる自分の意見をはっきり持つこと。自分の意見をはっきり持つためにはまず考えること。そう、この本では「考える方法」に主眼を置かれて書かれているのである。

なぜ正論が通じないのか、全く言葉が通じない時に振り返るべき点はなにか、共感が生む効果とは…などなど、人と通じ合うための「根っこ」が余すところなく語られている。

NHKのテキストにもなった『話すチカラをつくる本―この一冊で想いが通じる!』もこの本がベース。『話すチカラ~』もエッセンスを取り出して読みやすいけれど、より作者の想いが綴られている本書の方が僕は好きです。

いたるところに気づきがあって、読み終わったあともこの気づきを忘れたくないと切に思う。うわべではない核心の話をしてくれる、まさに人とつながるための教科書。著者は言う、案ずる無かれ、みんな最初は初対面だったのだ、と。
 

米澤穂信『遠まわりする雛』

「古典部」シリーズ最新作。古典部のメンバー4人の入学直後から『クドリャフカの順番』で舞台となった文化祭を経て、春休みの出来事までをピンポイントに取り出した短編集。これまでの長編3作の合間にあった「日常の謎」が明らかに。

”省エネ主義”なのに解決役を頼まれて、結果として安楽椅子探偵っぽくなってしまう主人公・折木奉太郎は健在で、校内放送で『九マイルは遠すぎる』をやってしまう「心当たりのあるものは」は推理作家協会賞候補にもなった良作。

しかしやはり白眉は「手作りチョコレート事件」と「遠まわりする雛」。日常の謎を織り交ぜながら、古典部男女4人の人間関係が動き出す。気づかないふりをしていた気持ちが、見過ごせないほど大きくなっていく。あぁ青春やなぁ。

シリーズを通して読んでる人ほど本作の展開は最重要。1年が終わり、そして春が来るのである。
 
■関連エントリ(過去の感想文)
米澤穂信『クドリャフカの順番』
米澤穂信『愚者のエンドロール』
米澤穂信『氷菓』

山田正紀『阿弥陀(パズル)』

「恋人がエレベーターに乗ったまま戻ってこない」。週末の夜。会社員の男の訴えを聞き、警備員の檜山はビル内を探す。しかしどのフロアにも彼女の姿はない。ビルの外にも出た形跡がない。37台もの監視カメラをかいくぐり、彼女はどこへ消えたのか?

エレベーターを縦棒、フロアを横棒として、ビルを巨大なあみだくじと見立てたタイトル。探偵役はシリーズキャラの風水火那子である。全編通して警備員・檜山の一人称で語られ、舞台もほぼビル内。

地味になりそうな展開を盛り上げるのはビル内の癖のあるテナントたち。消えた女が属していた保険会社、興信所、銀行の分室、果ては新興宗教の道場まである。なんか怪しい人々がなんか隠して過ごしていて、そのなんかが明らかになってみると全然消えた女と関係ない…けど手がかりが増える、という展開で、それはまさにアミダクジの外れを一本一本引いているかのよう。

外れを一本引くたびに仮説がひとつ消えふたつ消え、すると最後に「当たり」の解答のみが残るという、これはまさしく本格パズラーの構図。ちょっと真相はズルーい、って感じもあるのですが、アミダクジの行ったり来たりが楽しい一冊でした。
 

米澤穂信『インシテミル』

「時給11200百円」。誤植だろと思いつつ高額アルバイトに応募した12人。「実験モニター」と称されたその仕事の内容は、1週間のあいだ地下の館「暗鬼館」で過ごすというもの。全員が地下に閉じ込められたその時、放送で「ルール」が説明される。破格の時給に加え、ボーナスが出るという。「人を殺した者」「人に殺された者」「人を殺したものを指摘した者」に…。

「館」で「クローズドサークル」である。これがワクワクせずにいられるかってものですよ奥さん。しかも「クローズドサークル内の殺人ゲームを観察する」目的で施設が作られているので、「ローカルルール」と「ガジェット」がてんこもり(抜け道の存在や各種凶器、12体のインディアン人形まである)。これが本格ミステリの持つゲーム性を否応無しに高めてくる。

設定だけを取り出したら、これまでにもトンでもないルールやおかしな館の作品は幾多もあれど、『インシテミル』独特の面白さは「型の包括」にあると思うのである。

「名探偵 皆を集めて さてと言い」みたいなベタな本格の型を客観的に見つつも、もう一回り大きな枠で包んで話を展開させているのだ。メタ的な趣向でありながらも、話の筋はきちんと館の中に納まっている。あまり詳細に書けないのがもどかしいんだけど、この「一回り大きな枠」の構造はミステリのマニアであるほどツボにはまるんではないか。

古典の本格があって、新本格があって、さらにもう一段階本格ミステリを進めたのが、この王道かつ異形なミステリなのでは、とまで思う次第であります。

構造の妙だけではなく、もちろん幾多ものサプライズや伏線の回収にも彩られている。本格ミステリを読むときのあのワクワク感がまた味わえる。間違いなく2007年の収穫となるだろう、本作を読み逃してはならんですよ。

■関連記事
米澤穂信『氷菓』
米澤穂信『愚者のエンドロール』
米澤穂信『クドリャフカの順番』
米澤穂信『犬はどこだ』
米澤穂信『夏期限定トロピカルパフェ事件』

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