ミステリでいうところの「館モノ」「吹雪の山荘モノ」というと、ふつう容疑者は建物内の、まぁ、多くて10人いるかいないかぐらいなんですけど、まぁ、これ、あらすじ見てください。
大富豪の館でメイドとして働く妹に頼まれ、名探偵・西園寺とその館にかけつけた神尾は、奇妙な殺人事件に遭遇する。衆人環視下、謎の方法で館の主が殴り殺され、容疑者は、なんと館を訪れていた計百人!誰もかれもが疑わしい!?しかも外界に通じる唯一の道である橋が爆破され、閉鎖空間内で次々事件が…。鬼才があなたに“本格ミステリ”の意味を問う、驚愕の最新作。
容疑者100人。
で、巻頭の「登場人物一覧」に律儀に100人の名前と属性(親族とか職業とか)が書いてある。総ページすう6ページにもわたる登場人物一覧!親族20人以上!使用人30人以上!お笑い芸人、元プロ野球選手、オーケストラの楽団員、タクシー運転手、住職、主婦、無職まで、全部名前がついている!
と、ここまで煽ったものの、作中に名前がちゃんと出てくるのはほんの一握り…。ロジックで100人の中から搾り出す、というのはあんまり期待しないほうがいい感じ。シリアルキラーまで出てきちゃって、派手な展開の大騒ぎ。最後明かされるトリックには膝カックンものという、愛すべきバカミスです。
というわけで一言でいうならば、「出オチ」でしょうか…。
古書店アルバイトの大学生・菅生芳光は、報酬に惹かれてある依頼を請け負う。依頼人・北里可南子は、亡くなった父が生前に書いた、結末の伏せられた五つの小説を探していた。調査を続けるうち芳光は、未解決のままに終わった事件“アントワープの銃声”の存在を知る。二十二年前のその夜何があったのか?幾重にも隠された真相は?米澤穂信が初めて「青春去りし後の人間」を描く最新長編。
結末をわざと伏せて、その後の展開を読者に任せるタイプの小説を「リドルストーリー」と呼ぶ。有名なところだと『女か虎か?』とかなんですが、上の粗筋にある、亡くなった父が残した「五つの小説」がすべてリドルストーリーの形をとっていて、小説探しの本編の中でひとつひとつ小説が見つかるたびに作中作としてこのリドルストーリーが挟まれる、という構成になっている。
本編の他に5編のリドルストーリーが考えられていて、しかも裏に一つの未解決事件という背骨をつけて、さらにさらにとある”仕掛け”まで用意されているという、本格魂的にもうなんとも贅沢な造りなのである。ミステリ的な仕掛けもさることながら、この作品の評価を高めるもう一つの材料が主人公の大学生・菅生の描き方。
これまでの米澤穂信作品でもいわゆる「探偵役」は一筋縄でいかない設定が多い。面倒事に極力関わりたくない古典部シリーズの折木奉太郎、推理能力を隠して暮らそうとする小市民シリーズの小鳩、ちゃんとした推理があっさり無視されてしまう『インシテミル』など。
今回の主人公、菅生は大学生とはいえ休学中(事情は物語中で徐々に明らかになる)。小説探しの依頼を受け、最初は報酬に目がくらんで調査を始めるも、段々と事件に含まれた「物語」にひきこまれていく。他人の「物語」と自分の存在の対比に段々と変化してく主人公の心情が、こちらにも重くのしかかる。
謎を解くという役目と、その役目によって影響を受ける探偵役。外側である事件の解決と、内側である探偵役の葛藤。これまでのシリーズ作品などよりもかなり落ち着いたトーンで描かれる本作は、外側/内側のコントラストがより濃く浮き出てくる。
仕掛けの素晴らしさと、登場人物の重さとが、絶妙に融合した本作。お勧めです。お勧めですよ。
ぼくは思わず苦笑する。去年の夏休みに別れたというのに、何だかまた、小佐内さんと向き合っているような気がする。ぼくと小佐内さんの間にあるのが、極上の甘いものをのせた皿か、連続放火事件かという違いはあるけれど…ほんの少しずつ、しかし確実にエスカレートしてゆく連続放火事件に対し、ついに小鳩君は本格的に推理を巡らし始める。小鳩君と小佐内さんの再会はいつ―。
『春期限定いちごタルト事件』 『夏期限定トロピカルパフェ事件』(→感想)に続く、「小市民」シリーズの第三弾。探偵役はもうやりたくない「狐」小鳩くんと、復讐の暗い悦びを忘れたい「狼」小山内さん。『夏季限定~』での出来事からそんなに日も経たずに始まる、1年にもわたる追跡と暗躍…。
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南海キャンディーズのツッコミ、山里亮太が2006年に書いた自叙伝。相方・しずちゃんに注目が集まるわ、容姿がブサイクだわで、テレビではいじられキャラな山ちゃんであるが、その豊富な語彙と的確なコメントは以前から割と好きなのであった。
その彼が芸人を志してからM-1決勝にいたるまでの獣道。てれびのスキマさんの「山里亮太・天才の公式(前編/後編)」で紹介されたのをきっかけに手にとってみました。
その彼が書いたこの本を読むと、彼がいかに小心者で、それゆえに努力家あることに驚かされる。芸人になりたい。しかし自分は「天才」ではない。でも「天才」と思われたい。そこで彼が取った行動は、過去のちょっと褒められた記憶を溜め込んだり、相方に厳しいダメ出しをして優位を保ったりで、「張りぼての自信」を作ることだった。
その張りぼての自信を保つゆえ、「こんな努力をして栄光をつかんだ」という話ではなく「こんな執着でここまでたどり着いた」という内容になっている。
その執着たるや容姿以上に「キモイ」と思われても仕方ないほど。
相方に厳しすぎたため二度もコンビを解消されたり、面白いと思った芸人のネタを写経のように書き写したり、当時別のコンビを組んでいたしずちゃんをケーキバイキングで口説き落として略奪したり、千葉出身なのに「芸人になるために大阪に行くため」に関西大学に進学したりする。
(そういえばロザン宇治原も芸人になるために京大に入っていた(『京大芸人』より)。勉強しなさいよ勉強を)
小さな成功のたびに過信して挫折し、何度も心が折れる音を聞きながら、面白く思われたいと切に願う。そんな山谷を繰り返しているうちに「いじられる」ことをプラスに変えて進めるようになる。
ただのよくしゃべるブサイク、と思われがちな山ちゃんは、手探りと努力で今のポジションまでやってきたのだった。そのネガティブとポジティブの反転のしかたたるや。この本が新書になってるのもある種の”教え”を含んでいるからと思う。
そして今年。M-1グランプリ2009。3回目のM-1決勝進出を果たした南海キャンディーズ。結果は決勝9組中8位となったが、終了後の記者会見にて島田紳助が「大会の総括」を聞かれ、南海キャンディーズについてこう語っている。
南海キャンディーズの山里(亮太)は天才やと思ってる。漫才では無理だけど、山里は才能あるんですわ
【M-1優勝インタビュー】新王者パンクブーブー&紳助との一問一答
これでまた山ちゃんの張りぼての自信貯金にチャリンチャリンと預金が増えたのかもしれないけど、もうその自信は張りぼてじゃなくてもいいんじゃないの、と思う。
ミステリの醍醐味と言えば、終盤のどんでん返し。中でも、「最後の一撃」と呼ばれる、ラストで鮮やかに真相を引っ繰り返す技は、短編の華であり至芸でもある。本書は、更にその上をいく、「ラスト一行の衝撃」に徹底的にこだわった連作集。古今東西、短編集は数あれど、収録作すべてがラスト一行で落ちるミステリは本書だけ。
と、いう煽りで紹介されてはおりますが、本書はどちらかというとサスペンス・ホラーの領域なので、ラスト一行で世界が反転するというよりはゾッとする、という感じ。5編収録された短編集で、特筆すべきはラスト一行のことよりも、「使用人(女子)がメインキャラクターとなる短編ばかりの短編集」であることだと思う。
お嬢様に従順な付き人、暇でたまらない山荘の管理人、高飛車すぎる料理人など、1編ごとに異なる名家の異なる使用人が、話のカギを握る存在となる。主人に忠実な存在であり、命令には実直に従うが、何を考えているかわからない存在として書かれる彼女たち。彼女たちが犯す「奇行」には彼女たちなりの理屈があり、それがいわゆる「狂人の論理」として機能し、最後の一行に向かって収束する。5編それぞれ主観人物や構成も異なり、よく練られてるなぁ。
それにしてもかなりダークな手触り。おっかないですわ。もう。アミルスタン羊とかさぁ。
閉ざされた空間での心理戦。たどる結末は、震度ゼロの衝撃。
阪神大震災のさなか、700km離れたN県警本部の警務課長の不破義人が失踪した。県警の事情に精通し、人望も厚い不破がなぜ姿を消したのか? 本部長の椎野勝巳をはじめ、椎野と敵対するキャリア組の冬木警務部長、準キャリアの堀川警備部長、叩き上げの藤巻刑事部長など、県警幹部の利害と思惑が錯綜する。ホステス殺し、交通違反のもみ消し、四年前の選挙違反事件なども絡まり、解決の糸口がなかなか掴めない……。
6人の警察幹部の視点をザッピングしながら、警務課長をめぐる心理戦が展開される。有力情報を秘密にしたり、命令にこっそりそむいたり、実は全然違うこと考えてたりと、視点をグルグル変えることで6人の権力争いが立体的に見えてくる。
舞台は警察署内部と官舎しかなく、演劇っぽい感じでもある。読者は外部から箱庭の中の大騒ぎを眺めてる状況で、かつ次々と新しい情報が来るものだからずっと目が離せない。うまいなぁ。官舎ではそれぞれの幹部の奥さんも登場して、奥さん同士の心理戦もあるのだ(警察幹部よりドロドロしてる!)
もう一つのポイントとして、この事件は阪神大震災の日に起こったという設定になっている。テレビで震災の激しさを見ながらも、目の前の権力争いにやっきになる幹部達。その対比に、箱庭の戯れの感が増す。
あんなにいろいろグルグルやったのに、十分衝撃な結末も用意されて、大満足の一冊。WOWOWで映像化もされていて、原作よりよかったという声も。これも観たいなぁ。

『ミステリーズ』
『マニアックス』
に続く”Mシリーズ”の最新作。納められてる中篇短編の通しテーマはタイトル通りの「モンスター」。怪談あり、ハードボイルドあり、終いにはヒトラーや吸血鬼や狼男が出てくるミステリあり、とバラエティな内容。
ただ、今回、特に目を見張る巧緻や趣向に欠けた印象で、個人的には消化不良でした…。うーん。「ミステリーズ」「マニアックス」に見られたメタフィクション的な趣向が好きだったので、シリーズ通しての期待値を求めると下がってしまうのかもしれません。
『続・日本殺人事件』
とか、本格だったはずなのに論理も理屈もふっ飛んだのがまた読みたいな、と思うのです。というか今はじめて文庫版の装丁見たけどすごいカッコいいなぁ。