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‘【オススメ本】’ カテゴリーのアーカイブ

適当男の真顔 高田純次・茂木健一郎『裏切りの流儀ーあらゆることはバランスで成り立っている』

2010 年 8 月 31 日 コメントはありません

今までの高田さんの本で一番面白いよ 。ーーー他は読んだことないけど。(茂木)

「五時から男」高田純次と「アハのおじさん」茂木健一郎の対談本。

茂木健一郎が、「適当」で「一人高度成長期」状態の高田純次にこそ日本を元気にする秘訣があるのではないか、と高田純次から話を聞き出していく形になっている。

だが一方、「テキトー男」高田純次は冒頭にこんな告白をする。

適当男っていうのは、二年くらい前から言われるように鳴ったんですけど、自分から言い出したわけじゃないんです。でも言葉だけが一人歩きしちゃって、「あれ?どうやったら適当になるんだっけ」って分かんなくなちゃった。
(中略)
例えば便所行っても、水を流さない方がいいのか、お店は行っても、金払わないで出てきた方がいいのか。右折禁止の道は必ず右に曲がるようにしてたら適当かもしれないけど、捕まっちゃうしね(笑)そういうことに悩んでますね。

「五時から男」や「元気が出るテレビ」で定着し、最近になって「テキトー」さを再評価されている高田純次は、自らについたレッテルと自身のギャップをちゃんと考えてるのだ。

そんな高田純次が語る。キーワードは「負け好き」と「セルフプロデュース」

自らを「負け好き」と語る高田純次は、負けることで得るものの大切さを重視している。

絶対に負けた方が、ステップアップになりますよ。麻雀でも勝ったときより負けたときに「どうしてああなったんだろう」って考えちゃいますもん。ただ勝って「よかった」と思ってるより、その方がいい。

「一回負けても、別の勝負で勝てばいい」。大学受験に失敗して専門学校に行き、会社勤めを経て30歳から劇団・東京乾電池に入った高田。異色の経歴から現在の地位になるまで、負けては考えて、やりたいことに辿りついてきている。

また、「五時から男」から貼られたレッテルを利用して、どうやったら面白く見られるかを、状況や自分の年老いた肉体まで俯瞰して考える。時には裸にもなる。役割を演じる、ということを常に意識している。無意識のうちに「セルフプロデュース」を行っている。

茂木健一郎もちゃんと仕事をしていて、高田純次が思っていたことに脳科学の立場から裏付けをとって安心させてあげて、さらにトークを引き出している。たまに下ネタを振られてアワアワしていたりする(「茂木先生はまだ元気だから股間でテーブルの一つも持ち上がるでしょ(笑)」とか言われている)

不良がたまに見せる優しさのように、高田純次がたまに見せる真顔にはドキリとするものがある。

「適当日記」などとは違い、真顔の高田純次を見れる一冊。その姿はまさにプロフェッショナルで、カッコいい。

森見流「少年時代」 森見登美彦『ペンギン・ハイウェイ』

2010 年 7 月 18 日 コメントはありません

舞台は京都でもなく新興住宅地、主人公は腐れ大学生じゃなくて小学生男子。森見登美彦、新境地。

小学四年生のぼくが住む郊外の町に突然ペンギンたちが現れた。この事件に歯科医院のお姉さんの不思議な力が関わっていることを知ったぼくは、その謎を研究することにした。未知と出会うことの驚きに満ちた長編小説。

というあらすじだけ見ても何がなにやら。「ペンギン」は何かの比喩なのかな?と思ったら、本物のペンギン。

主人公は小学生だけど、そこは森見登美彦らしく、とても理屈っぽい、ませた文系男子。「ぼくは小学四年生だが、大人に負けないぐらいいろいろなことを知っているし、努力をおこたらないが、将来はきっとえらい人間になるだろう。」こんな感じである。

このちょっと変な男子と、友達との冒険、女子との会話、ガキ大将からの攻撃、といった小学生の日常を描きながら、少しづつSFでファンタジーな要素が入り込んでくる。タイトルはペンギン・ハイウェイだけど、事件はペンギンだけじゃ全然終わらない。住宅地は少しづつたいへんなことになっていく。

この「少しづつ」たいへんなことに、というのが実はポイントだと思っている。次々事件を起こして読者を退屈させない方向に持って行くこともできるけど、このお話はあくまで「少しづつ」。誰もが抱いた子供のころの不安(死んだらどうなるの?とか)や、信頼できる大人たちとの会話、哲学的なやりとりや、ちょっとした思春期の芽生えなんかも散りばめて、森見登美彦流の「少年時代」をたっぷり書いてくれる。それはとても暖かく、いとおしい。

最初は、こんな男子ホントにいたらかわいくないだろうなー、という印象なんだけど、読み終わることにはもう、ギュッと抱きしめて頭をなでてやりたくなる愛しさ。ひと夏の冒険。ちいさな恋。またひとつ、森見登美彦に引き出しが増えた。それはとても嬉しいことだと思う。

人情であぶり出す真相 東野圭吾『新参者』

2010 年 6 月 20 日 コメントはありません

作中で刑事・加賀恭一郎がこう言っている。

「捜査もしていますよ、もちろん。でも、刑事の仕事はそれだけじゃない。事件によって心が傷つけられた人がいるのなら、その人だって被害者だ。そういう被害者を救う手だてを探しだすのも、刑事の役目です」
―第六章 「翻訳家の友」 P.220―

日本橋の片隅で発見された四十代女性の絞殺死体。着任したばかりの刑事・加賀恭一郎は、未知の土地を歩き回る。

9編からなる連作短編集で、短編ごとに煎餅屋、料亭、瀬戸物屋など視点人物が入れ替わるのだけど、肝心な殺人事件の方はなかなか解決に向かわない。それぞれの登場人物たちの身に起きた小さな謎を、加賀がその洞察力で解き明かしてまわっているのだ。いわゆる「日常の謎」をシリーズキャラクターの加賀恭一郎にやらせているのである。これ、今までなかったんじゃないかなぁ。

保険の外交マンの行動が変だったとか、犬の散歩コースに矛盾があったりとか、各短編に出てくる謎は小さなもの。しかしその謎が解かれるたびに親子・夫婦・嫁姑などのもつれた糸が解けていき、わだかまりが溶けていく。これらは結局殺人事件には関係ないのだけど、「事件と関係ない」ことがわかることによって、逆にどんどん外堀が埋まっていく。真相に向けてじわじわと輪が小さくなっていく。

また、被害者の女性は「最近日本橋に越してきた」「熟年離婚してから二年経過」という設定なので、日本橋には親しい人がおらず最近の様子がわからない。お店で交わした会話などから、徐々に被害者の人柄も明らかになっていく。じわじわと光が当たって鮮明になっていく。

手がかりを次々に得て真相に近づくミステリが足し算ならば、『新参者』はどんどん関係ないこと明らかにして最後に真相を残す引き算のミステリとも言えるのかな。引かれていく様子は心に残る人情話になっていて、被害者の人となりは逆にどんどん盛られていく。

一読して、派手なサプライズとか感じず、引き算の構成ゆえ犯人も最後の最後まで全然特定できないし、もぅ…と思っていのだけど、読み終わってからしみじみ考えているとなんかどんどん評価があがっています。なんだろこれ。よくこんなもの作れるよなぁと、まさに日本橋で民芸品を手にとったような感慨が残るのだった。
 

動機と叙述の華麗なる融合 梓崎優『叫びと祈り』

2010 年 6 月 17 日 コメント 3 件

もう言っちゃいますけどね、超オススメですよ!

砂漠を行くキャラバンを襲った連続殺人、スペインの風車の丘で繰り広げられる推理合戦、ロシアの修道院で勃発した列聖を巡る悲劇…ひとりの青年が世界各国で遭遇する、数々の異様な謎。選考委員を驚嘆させた第五回ミステリーズ!新人賞受賞作「砂漠を走る船の道」を巻頭に据え、美しいラストまで一瀉千里に突き進む驚異の連作推理誕生。大型新人の鮮烈なデビュー作。

5編からなる連作短編。世界を飛び回るジャーナリストの斉木という男が主人公かつ探偵役なので、5編とも舞台となる国が異なるというのがまず面白い趣向。砂漠で、修道院で、アマゾンの密林で、様々な事件に巻き込まれる。

とにかく動機の謎をめぐる「ホワイダニット(Why done it?)」が素晴らしい。例えば1作目「砂漠を走る船の道」では砂漠を横断するキャラバンで連続殺人が起きる。でも、このキャラバン、斉木を含めて5人しかいない。そんなところで殺人を犯してもバレちゃうリスクは大きいし、なにより遭難の危険性が高まってしまう。それでもこの殺人にはちゃんとした意味、動機が存在する。彼らの中でしか成立しない形で。

動機の謎、というのはけっこう「イヤイヤイヤそうかもしれんけど他になんかあるんじゃないの」となりがちな難しさがあるのだけど、舞台を海外にして、母体を部族や宗教者などの「意思のある集団」にすることで、「普通じゃない動機」が輝きを増す。これまた、風景や登場人物の意思などの書き込みがすごく丁寧なので、異国の雰囲気にどっぷり浸ってしまうのもスパイスとして作用する。この人ホントに新人なのか。しかも20代て!

もう一つ、この人、叙述トリックもすごい上手い。雰囲気たっぷりの風景描写に、人物たちの何気ない会話に、罠を静かに滑り込ませてくる。ネタバレになるので詳しく書けないけど、「ホワイダニット」と「叙述トリック」が類を見ない融合をしている。しかも、何発も。

そして最終章の書下ろし「祈り」でこれまでの話をまとめ上げる、というワザまで見せつけられるわけで、もうこれがオススメせずにいられるかという出来。今年のランキングに上位入り必至。梓崎優、その名を覚えておいて絶対損はない。梓崎優(しざきゆう)ですよ。大事なことなので二回言いましたよ。

過去から未来へ繋ぐバトン 宮下奈都『スコーレNo.4』

2010 年 5 月 23 日 コメント 2 件

自由奔放な妹・七葉に比べて自分は平凡だと思っている女の子・津川麻子。そんな彼女も、中学、高校、大学、就職を通して4つのスコーレ(学校)と出会い、少女から女性へと変わっていく。そして、彼女が遅まきながらやっと気づいた自分のいちばん大切なものとは…。ひとりの女性が悩み苦しみながらも成長する姿を淡く切なく美しく描きあげた傑作。

骨董品屋の長女・麻子の成長を、全体を4章にわけてそれぞれ中学時代・高校時代・就職直後・就職して3年後、という年代設定にして、連作短編として仕上げている。あの子がこんなに立派になって…という仕組みになっていて、終盤には、おっちゃんは中学の頃からこの子知ってんねんでーとすっかり物語に入ってしまう。

自分は地味で誇るところがないというコンプレックスを抱え、六人家族で暮らす多感な思春期を過ぎ、就職し…という流れで、就職してからがもう白眉。入社後の戸惑、突然の現場への派遣、そこから徐々に人間関係を築いて、仕事も覚え…と、その中で過去に自分に起きた出来事が今の仕事につながって…と、いろんなものがリンクしていく。人生はその場しのぎではなくて、過去の自分が未来の自分を作っていく。

特に”何かに目覚める時”が鮮やかだなぁと感じました。初恋や職場での気づきと言った場面で、パァァと目の前の世界が変わる。自分の中の変化を自分で感じる瞬間が美しい。

たぶん女子向けの本に分類されるんだろうけど、娘をもつ親御さんにもオススメです。もう、主人公をハラハラしながら応援してしまう自分がいます。

この本はTwitterで書店員の方々によって結成された「秘密結社」が、大好きな本として全国の書店(その数約100店舗!)で大プッシュしているもの。ハッシュタグは#Schole。Twitterが生んだフェアでこの本に出会えたことを感謝します。お近くの書店でも平積みされてるかもしれませんよ。(メディアでの紹介→ツイッターで販売に火 「大好きな本」書店員プッシュ! 社会 福井のニュース:福井新聞

日常系報道カメラマン 梅佳代『うめめ』

2010 年 5 月 14 日 コメント 1 件

先日の角川文庫の太宰治の表紙が味写すぎる件について、よく調べてみたら、あの表紙は太宰治生誕100周年の梅佳代×祖父江慎のコラボカバーだったらしい。そういうことだったのか!
 →太宰 治生誕100周年フェア|角川書店(梅佳代×祖父江慎の対談あり)

これまた先日の天久聖一『味写入門』の感想では帯に「プロには無理」と書いてあるのだけど、味写を撮れるプロがそういえば、いたいた。梅佳代である。

梅佳代は何冊か写真集を出しているのだけど、小学生男子のおふざけばかり収まってる『男子』や、実の祖父を10年撮り続けてた『じいちゃんさま』も好きだけど、やっぱり最初の『うめめ』は衝撃だった。

なんでもない住宅地、駅、公園。なのに、ハプニングの一瞬がいくつもいくつも撮られている。「どうしてこうなった!?」と声をあげてしまうインパクト。大人が通勤してる横でアスファルトの上でひっくり返っている小学生、1つのコインロッカーに群がっているご親族、フライドポテトをこぼしてるのに遠くを見てる子供(表紙)、衝立の向こうから突然現れるノッポン(東京タワーのマスコット)…。

常にカメラを持ち歩かなければ撮れない写真なのはもちろんだけど、瞬間を見逃さない「目」と何かを引き寄せる「磁場」が三位一体揃わないとこんなのできないなぁ。

ニュースばかりが「報道」じゃない。日常の変なことを報じたっていいじゃないの。脱力しながら不思議な余韻。日常の横で、奇妙な扉が半ドアで開いてる感じです。

自分データベース大開放 伊集院光『のはなしに』

2010 年 5 月 12 日 コメント 1 件

伊集院光のエッセイ『のはなし』の第二弾。あいうえお順に「アウトセーフ」の話から「んまーい!」の話まで全86話を収録。(※『のはなし』は文庫化されて『のはなしにぶんのいち』になってます)

相変わらず驚くのは、「自分の引き出し」の多さ。子供ころの思い出から仕事の話までの現在過去、アホな思いつきに下ネタ、思いつきに妄想まで、ホントに大量でかつ多種多様ですごい。引き出しというよりもはや自分データベース。出来事とその時の感情をセットにして、いったいどれだけ蓄積されているのやら。

しかし、決して”爆笑エッセイ”では終わらない。

伊集院は自分の言葉でいろいろ考える。幼少期の夕焼けを。理不尽に対するモヤモヤを。あの日あの時どうすればよかったかを。ぼやきや下ネタの間にフッとそれらが挟まって、何層もの伊集院が現れる。

この「多様な伊集院」については、まえがきに本人も書いている。テレビでは良い人、ラジオではダメな人、同じテレビでもNHKの伊集院と深夜の伊集院は違い、そして新たに「『のはなし』の伊集院光」も出てきてしまった。

どれも嘘はありません。

以前は「早くどれか一つにしたい」と思ったこともありましたが、今は「むしろ増やしてやろう」と思っています。小さいのがものすごくたくさんあったら、大きいのは一つしかないのと同じだから。

どの人にも必ず気に入る1話があると思います。ちなみに僕が一番覚えてるなのは「盗んだ金」の話。お金を盗むのはもちろんいけないことなんだけど、待っているのはまさかのノスタルジー。

相変わらずのおすすめです。