殊能将之『キマイラの新しい城』

750年前の事件と現代の事件。石動シリーズということはまず真っ直ぐには行かないわけで、本格の本道から路地に入って座り込んでタバコふかしてるような不良ぶり。今回は「750年前の幽霊が社長に取り憑いた」という設定で、中世と現代のギャップにうろたえる幽霊視点がかなりオモロイ(六本木ヒルズで黒蜘蛛にビックリ!とか)。ミステリ的には既存の本格をこねて叩いて壁にぶつけて観察するような、パロディと稚気の面白さ。いろんな意味で小ネタ満載の本でした。So Nice.

伊坂幸太郎『グラスホッパー』

復讐。功名心。過去の清算。それぞれの思いを抱え、男たちは走る。3人の思いが交錯したとき、運命は大きく動き始める…。クールでファニーな殺し屋たちが奏でる狂想曲。書き下ろし長編。

殺し屋+一般人の三重奏。洒落た文章のセンスは変わらずで読ませはするものの、出てくる悪が気分が悪くなる出来であまり乗れず。伊坂の書く悪人像というのはクレバーに策を巡らすタイプでなく、無軌道で衝動のままに酷い事を平気でする点で「いじめっ子」なので、読んでてあまり気持ちのいいものではない。今回その「いじめっ子」が他作に比べて前に出てるので、うーうーという感じ。伏線拾いもあるが、伊坂にはやっぱりもっと上を望んでしまうなぁ。期待値が高まりすぎたのかしらん…。

清水 義範 (著), 西原 理恵子『おもしろくても理科』

清水先生の面白理科話とサイバラの無気力挿絵ツッコミ。ちょいと理科に通じた人が読むと物足りない感じがするが、そこは理科嫌い向けに太陽系を中央線に当てはめたりなど一生懸命に文章を選んでいる清水先生の奮闘にエールを送るように楽しむべきであろう。がんばれー。

エドワード・D. ホック 『サム・ホーソーンの事件簿〈1〉』

町医者不可能犯罪トライアル。一つ一つの短編にネタ凝縮であり、割と複雑なことをやり遂げていても読みやすく処理されてるのは好感。現場も有蓋橋や野外音楽堂、ホテル、列車、水車小屋、果ては選挙の投票ブースまでとバラエティに富んでいて飽きさせない。着想が鮮やかだ。

浅暮三文『ラストホープ』

釣具屋を営む元泥棒のコンビ、ファックスと一億円、山女魚とアヒルとハイエース、盗まれ続けるアコード、誰かと誰かのレム睡眠。事件も小道具も効いていてよく練られた話なのに、その話に浸るあまりテンポが犠牲になって中だるみしてしまうのがもったいない。それとも一気に読むべきだったか。うー。