小鳥を愛した容疑者

  • 著者/訳者:大倉 崇裕
  • 出版社:講談社( 2010-07-29 )
  • 単行本(ソフトカバー):354 ページ
  • ISBN-10 : 4062163497
  • ISBN-13 : 9784062163491
  • 定価:¥ 1,575

鬼警部×動物オタク=動物満載奇天烈事件!捜査一課でならした鬼警部。事故後の復帰先は世にも不思議な部署だった……。動物マニアがその愛ゆえに引き起こす事件! 知られざる生態が事件解決のキーに!

4編からなる短編集。容疑者や行方不明者などが飼っていたため引き取り手がいなくなってしまった動物たちの面倒を一時的にみる、というのが建前なんだけど、一筋縄ではいかないものばかり。100羽を超えるジュウシマツ、アパートに残された大小2匹のヘビ、一戸建ての庭を占有する巨大なリクガメ、部屋で放し飼いのフクロウまでご登場。

で、飼育状況や動物の生態から事件の解決にどんどん近づいていく。これがなんだか新しい。

容疑者も捜査官も動物好きなので「この動物を飼うのにこの部屋はおかしい」「三日も放置されていたのにこの状況は不自然」といった推理が成立してしまう。かつて西澤保彦がSF的状況で本格推理を展開した時のような「異世界の中での推理」が動物好きという輪の中で出来上がっちゃてるのだ。

こちらとしては専門知識がないので指をくわえて見てるしかないんだけど、独自の世界の中の独自の推理劇はなかなかどうして楽しい。容疑者の動機まで動物好きフィルターがかかっているので、落ち着く先も予想がつかない。

動物好き捜査官の薄(うすき)巡査のキャラも楽しくてテンポ良く読める。福家警部補に次ぐシリーズとして続編も期待しています。

 

貴族探偵

  • 著者/訳者:麻耶 雄嵩
  • 出版社:集英社( 2010-05-26 )
  • 単行本:296 ページ
  • ISBN-10 : 4087713520
  • ISBN-13 : 9784087713527
  • 定価:¥ 1,470

「人は僕を『貴族探偵』と呼ぶね」

高級ジャケットに身を包み、使用人を従えて、突然事件現場に現れる『貴族探偵』。なんだか知らんけど警察上層部にまで顔が利く偉いご身分。退屈しのぎに探偵をしてると居座って、現場の美女に歯の浮く台詞をはきながら、どかっと座って使用人に現場検証と聞き込みを任せる貴族探偵。

自分は動かないまま推理する安楽椅子探偵かな…?と思いつつ読んでると、広間に人が集められる。「さて皆さん」と前口上が始まりさていよいよ貴族探偵の口から推理が、という場面で「ではあとは執事の山本が説明します」

お前がやるんちゃうんかい!

というツッコミを読者と登場人物からうける貴族探偵はこう言う。「推理なんて面倒なとこは使用人に任せておけばよいのです」

そんな貴族探偵が活躍する短編を5編集めた短編集。事件の複雑さはさすがの摩耶雄嵩クオリティ。密室作りに失敗してる現場から立ち上がる難解論理、雪に閉ざされた館で三人の人物がじゃんけんのように互いを殺し合ってる現場、殺害現場の別荘から落とされた落石など曲者ぞろい。

貴族がボンクラで使用人が賢い、というのは「黒後家蜘蛛の会」など昔からよく見られる構造。だけども、本作は「名探偵 木更津悠也」と同様に名探偵を記号と実像に分解してしまう。名探偵役は自身を名探偵として認識し、それを成立させるために裏方が働く。まるで名探偵という名の文化財を守るように。

神様が神社を建てた訳ではない。社長が全部の仕事をしてる訳ではない。というわけで名探偵が推理しなくてもいいじゃない、という展開は、なんでやねん!と笑いを誘うその一方、「名探偵」ってなんだろね、と問いかけてるよう。

ともあれ設定も事件もオススメの逸品。特にアンフェアすれすれの「こうもり」にはのけぞった。いいのかいなーあんなことしてー。
 

 

一党独裁の管理国家を舞台に起こる事件をテーマにした、5編からなる短編集。

日本のようで日本でないパラレルワールド的世界観としては、石持作品では『BG、あるいは死せるカイニス』や『人柱はミイラと出会う』がある。本作はその異世界日本の構築+『攪乱者』でみせた政府vsテロの路線の位置付け。

テロ組織幹部の公開処刑の場で繰り広げられる治安警察と反政府組織の頭脳戦「ハンギング・ゲーム」や、小学校卒業と共に進路が決定する制度から派生した卒業生自殺の謎「ドロッビング・ゲーム」は、異世界という箱庭ならではの思考・論理が展開されとてもスリリング。

「この前提ならこう考える」という話運びは相変わらずの上手さ。ちょっとおかしな外枠を作りあげると、石持浅海は生き生きするなぁ。

ただ、続く3編も自衛隊、外国人労働者、表現の自由を取り扱っているものの、異世界の補強と物語の収束に力が向けられた印象。必要な手続きであることは承知の上で、でももっと箱庭で遊びたかったなぁ、というのが正直な感想です。

 

バイバイ、ブラックバード

  • 著者/訳者:伊坂 幸太郎
  • 出版社:双葉社( 2010-06-30 )
  • 単行本:272 ページ
  • ISBN-10 : 4575236950
  • ISBN-13 : 9784575236958
  • 定価:¥ 1,470

主人公・星野一彦はお金の問題もろもろで<あのバス>に乗せられて遠くへ行くことになってしまった。

<あのバス>の行き先については詳細はわからない。監視役の巨体の大女・繭美(イメージはマツコ・デラックス)に聞いても恐ろしい例え話をするばかり。ずけずけと人を傷つける言動を繰返す繭美に、星野一彦はあるお願いをする。恋人に最後の別れを告げたいと。

しかし、星野一彦は五股をかけていたのだった…。
 
 
というあらすじからなる5編+1編の短編集。「繭美と結婚することになった」という嘘を引っさげて、一人一人に別れを告げに行くのだ。

借金+五股だけど星野は悪人というわけではなく、いい人なんだけど色々自覚がなくてこうなっちゃった、という感じ。なので、別れ際にもなんか女性の役に立ちたいと考えてしまう。車を当て逃げされたと聞けば、犯人を探し出したいと繭美に頼んでブーブー言われ、それでも繭美の協力を得て、なんやかんやでカーチェイスをする羽目になってしまう。

星野が一人の女性と関係を断ち切るまでを1編としてるのだけど、別れ話の後に起こる事件や出来事をスマートに回収する様はさすが伊坂幸太郎。繭美のキャラ立ちと、お話の小粋さのコントラストが面白いです。

星野のいい人さと、繭美の無軌道さ、様々なタイプの女性たちと、そこに偶然と伏線を織り混ぜて、恋愛でもミステリーでもない、あまり見たことのない連作短編に仕上がっています。最後の書き下ろしの1編もまた、いいんだよなぁ。
 

 

明日の空

  • 著者/訳者:貫井 徳郎
  • 出版社:集英社( 2010-05-26 )
  • 単行本:176 ページ
  • ISBN-10 : 4087713547
  • ISBN-13 : 9784087713541
  • 定価:¥ 1,260

日本で新たに高校生活を始めた帰国子女の栄美(エイミー)。淡いときめきも別れの痛みも、いつかは青春の思い出になるはずだった。だが後に知ったのは・・・貫井徳郎が青春小説に仕掛けた「驚き」とは!?

物語は3つのパートに別れている。Part I が上記あらすじにもある帰国子女エイミーの淡い青春「In the high school」、Part II は英語の勉強と称して六本木で外国人の道案内をする(そしてチップをせびる)大学生ユージの友情「At Roppongi」、そしてPart III の「In the university」につながって…という構成。

Part I も Part II も直接は繋がらないんだけど、それぞれ何か変なことが起こっている。エイミーはクラスの一番人気の男子とのデートを何者かにことごとく邪魔されたあげく、突然ふられてしまう。ユージは六本木で黒人のアンディと出会いお互いの友情を深めていくが、アンディの行動が時々なんか変で、突然ラブホテル街を疾走したりする。

細かい違和感を重ねながら、Part I と Part II に解決をもたらすのがPart III 。実はとあるサプライズが仕掛けてあるのだけど…この手のサプライズが久しぶりだったせいか、素直に驚いてしまいました。そんな可能性、ぜんっぜん考えてなかった…。

帰国子女の淡い恋愛と、黒人との友情、どちらも底にあるのは「外国人と日本人」のギャップ。Part III では今度はこのギャップに光があたる。176ページという薄さながら物語の要素をギュッと詰め込まれてます。それゆえちょっと物足りなさも感じますが、それも贅沢というものでしょうか。

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