堂場警部補の挑戦 (創元推理文庫)

  • 著者/訳者:蒼井 上鷹
  • 出版社:東京創元社( 2010-02-28 )
  • 文庫:304 ページ
  • ISBN-10 : 4488491014
  • ISBN-13 : 9784488491017
  • 定価:¥ 777

玄関のチャイムが鳴った時、まだ死体は寝袋に入れられ寝室の床の上に横たわっていた。液晶画面を見ると、緑色のジャージを着た若い男が映っていた。「おはようございます、ドーバです。電話でパントマイムのレッスンをお願いしていた―」招かれざる客の闖入により、すべてがややこしい方向へ転がり始める「堂場刑事の多難な休日」など、当代一のへそ曲がり作家による力作四編。

4編からなる連作短編集。まずは目次をご覧ください。

・第一話 堂場警部補とこぼれたミルク
・第二話 堂場巡査部長最大の事件
・第三話 堂場刑事の多難な休日
・第四話 堂場IV/切実

話が進むにつれてどんどん降格されていく堂場。終いには肩書きもなくなって「IV」扱い。そんなドジっ子堂場の活躍ぶりを…

と い う 話 で は あ り ま せ ん ! !

思わず太字にしてしまった。もちろん各短編ごとに堂場は出てきますが、大変ひねくれた構成になっているんです。何がどうなっているのかはもう読んでもらうしかないのだけど…。各短編は幾つもの伏線やどんでん返しを盛り込んでいて、一編ごとにスゴい密度。そんでもって第4話でこれまでのヘンテコなところをまとめ上げる。あくまで仕掛け・ロジック重視なので、ミステリを読み込んでる人ほど楽しいと思います。

堂場がどうなってしまうのか。もう、んなアホなとつぶやいてしまう豪腕と性格の悪さが炸裂。ヘンテコ設定に定評のある作者の、一つの到達点でしょう。

 

セカンド・ラブ

  • 著者/訳者:乾 くるみ
  • 出版社:文藝春秋( 2010-09 )
  • 単行本:285 ページ
  • ISBN-10 : 4163296204
  • ISBN-13 : 9784163296203
  • 定価:¥ 1,500

1983年元旦、僕は春香と出会う。僕たちは幸せだった。春香とそっくりな女・美奈子が現れるまでは。良家の令嬢・春香と、パブで働く経験豊富な美奈子。うりふたつだが性格や生い立ちが違う二人。美奈子の正体は春香じゃないのか?そして、ほんとに僕が好きなのはどっちなんだろう。

『イニシエーション・ラブ』の衝撃ふたたび、の煽り。ふたりのそっくりな女性の間で揺れ動く男の恋愛模様が淡々と続く。そして最後に明かされる…というイニラブと似た構成。

確かに衝撃のラスト、ではあるのだけど、ミステリ読みとしては「そっくりな二人」を出されるとどうしてもアレを疑ってしまう。前作の衝撃の教訓もあるので身構えすぎてしまった。純粋に楽しめずちょっと不幸なことに…。

作者のことなので、恐らくまだ気づいてない伏線もたくさんあるんだろうなぁ。頭を空っぽに、物語の流れるままに任せれば、ラストにひっくり返ることは間違いなし。女は怖いわー。

ちなみに。

「セカンド・ラブ」と言えば中森明菜。それに対して「ファースト・ラブ」と言えば宇多田ヒカル。

というわけで、この本の偶数章のタイトルは宇多田ヒカルの、奇数章のタイトルは中森明菜の曲タイトルから取られています。お持ちの方はご確認を。

 

隻眼の少女

  • 著者/訳者:麻耶 雄嵩
  • 出版社:文藝春秋( 2010-09 )
  • 単行本:420 ページ
  • ISBN-10 : 416329600X
  • ISBN-13 : 9784163296005
  • 定価:¥ 1,995

け、傑作きました…。

寒村でおきた殺人事件の犯人と疑われた大学生・静馬を救った隻眼の少女探偵・みかげ。事件は解決したが、18年後に再び悪夢が…。古式ゆかしき装束を身にまとい、美少女探偵・御陵みかげ降臨!

書き下ろし長編。「第一部 一九八五年・冬」「第二部 二〇〇三年・冬」の二部構成。

「スガル様」という神を奉る旧家で起こる連続首切り殺人事件。跡取り、伝承、信仰などの要因がいくつも絡み合い、事件は混迷を極め、多数の犠牲者を出すも、みかげの推理をもって解決がくだされる。ここまでが第一部。まだ全体の半分だけど、ここまででもひとつの長編としてのクオリティを十分保っている。

しかしまだ幕は降りない。第二部。18年後。全く同じ手口で殺人は繰り返される。あの解決は偽りだったのか。経ちすぎた年月は「スガル様」を取り巻く状況も変え、動機はますますわからなくなる。

旧家の血脈を題材に扱い、派手な不可能状況はなく、物証やアリバイなどの手がかりは細々としている。探偵が美少女&巫女衣装(正確には水干)であることを除くと麻耶作品にしては驚くほど地味な道筋を行く。

しかし読み終わってみると、もう、全体の構造に感嘆せずにいられない。全420ページ中、怒涛の運命が待ち受けるのは残りわずか20ページの地点から!広がりすぎた18年越しの大風呂敷が、きれいに畳まれるどころかテーブルクロスのように引き抜かれる。とても立ったままでいられない。膝をたたくどころか、膝をついてしまう真相。

ネタバレを恐れて感覚的な感想になってすいません。間違いなく今年の本格推理の収穫のひとつです。すごすぎます。すごすぎますよ。

 

ふたりの距離の概算

  • 著者/訳者:米澤 穂信
  • 出版社:角川書店(角川グループパブリッシング)( 2010-06-26 )
  • 単行本:253 ページ
  • ISBN-10 : 404874075X
  • ISBN-13 : 9784048740753
  • 定価:¥ 1,470

春を迎え、奉太郎たち古典部に新入生・大日向友子が仮入部することに。だが彼女は本入部直前、急に辞めると告げてきた。入部締切日のマラソン大会で、奉太郎は長距離を走りながら新入生の心変わりの真相を推理する!

古典部シリーズ第五弾。今回の舞台はマラソン大会。

走りながら4月からの出来事を回想する奉太郎。大日向はどんなやつだったか、どの場面でどんな考えをするやつだったか、気になった出来事を思い出す。この回想シーンが日常の謎を解く短編として成立しているので、長編なんだけど連作短編のような、面白い構造になっている。

思い出しては何かに気がつき、時には後方から走ってくる古典部メンバーを待ち伏せして確認、ゴール間近まできていよいよ大日向に接触…という、マラソンの残り距離をタイムリミットとして盛り上げる構成がホント巧い。そして回想シーンや確認事項、その他あれやこれやまで伏線として繋がってしまう妙技!

日常の謎+心理戦なので、どうしても根拠が薄くまさに薄氷を渡る場面もあれど、構成力に唸りまくりです。

ハズれないなぁ、古典部。

 

空想オルガン

  • 著者/訳者:初野 晴
  • 出版社:角川書店(角川グループパブリッシング)( 2010-09-01 )
  • 単行本:286 ページ
  • ISBN-10 : 4048740970
  • ISBN-13 : 9784048740975
  • 定価:¥ 1,575

吹奏楽の“甲子園”普門館を目指すハルタとチカ。ついに吹奏楽コンクール地区大会が始まった。だが、二人の前に難題がふりかかる。会場で出会った稀少犬の持ち主をめぐる暗号、ハルタの新居候補のアパートにまつわる幽霊の謎、県大会で遭遇したライバル女子校の秘密、そして不思議なオルガンリサイタル…。容姿端麗、頭脳明晰のハルタと、天然少女チカが織りなす迷推理、そしてコンクールの行方は?『退出ゲーム』『初恋ソムリエ』に続く“ハルチカ”シリーズ第3弾。青春×本格ミステリの決定版

「退出ゲーム」(→以前の感想)「初恋ソムリエ」(→以前の感想)に続くハルタ&チカのシリーズ第三弾。4編からなる短編集。今回はいよいよ吹奏楽のコンクールに挑戦。

これまでの二作は、影を抱えた演奏者達を謎解きという「憑き物落とし」をして仲間を増やしてきた。生徒一人をフィーチャーして、その暗がりに光を照らしてきた。その構造が今作ではあまり使えない。

コンクール会場がメインなので、会場周辺で起きたトラブルや他校の生徒との絡みがミステリ的なネタになる。なので前二作のような憑き物落としまでのインパクトはなくちょっと物足りない。ハルタの活躍も抑え目な様子。

それでもこのシリーズとしては通過せねばならない一作であることは確か。コンクールでの経験を経て、さらに成長するであろう登場人物たちに期待が高まってしまうのだ。

彼らの物語を、もっと読みたい。

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