のはなしさん

  • 著者/訳者:伊集院 光
  • 出版社:宝島社( 2010-10-08 )
  • 単行本:270 ページ
  • ISBN-10 : 4796675876
  • ISBN-13 : 9784796675871
  • 定価:¥ 1,260

『のはなし』シリーズも3作目。2001年~2006年までtu-kaのメールマガジンに書いてきた約750本のエッセイから82本+新作書き下ろし3本をまとめたもの。

笑いあり、お馬鹿あり、しんみりあり、ハッとする構成あり、行き過ぎた妄想あり。多岐に渡る球種を使い分けるクオリティは健在。

前も言ったのだけど、改めて少年時代のエピソードの豊富さ・記憶の細かさには驚く。誰しも子供時代は予期せぬ出来事の連続だったはずだけど、その時の状況や感じたことを今の言葉で伝えられるまでよく覚えてるなぁ。

読み終えたとき頭に浮かんだ歌がある。山本正之の「少年の夢は生きている」という曲。

山本正之といえば「ヤッターマン」や「燃えよドラゴンズ」で有名。で、アルバム収録のこの曲は、山本正之の少年時代の出来事をただただ並べていく。なのに、段々とあの頃の夕焼けが浮かんでくる歌なのだ。

中日ドラゴンズの江藤慎一が
サインをしながら頭をなでて
ぼうや元気に育ってくれよと笑いかけた
酔っばらったオヤジが赤い顔のまま
真夏の夜の庭先で肩車をして
あれが天の川だとごつい指を天にむけた
丸太ん棒で建てたかくれ家の中で
おさななじみのアキちゃんが
大人になっても友達だよと腕をくんだ
超能力をもっている新聞記者のおじさんが
おもちゃの刀を念力でまげて
やろうと思えば地球も止まると教えてくれた

ビニール人形をストーブで溶かし、運動会でパンツが破れるよう細工をし、テレビのリモコンがどれくらい遠くから効くか試す伊集院少年。

山本正之「少年の夢は生きている」はこんなサビだ。

少年の夢は生きている 幾年すぎても生きている
橋を渡り山を越えて海に出会っても
深く深く胸に生きている

誇大妄想で、ひがみやで、屁理屈を言う肥満児の少年は、伊集院光の中に今も生きているのだと思う。

関連リンク
少年の夢は生きている|山本正之-歌詞GET

少年の夢は生きている’89

  • アーティスト:山本正之
  • レーベル:ダブリューイーエー・ジャパン( 1992-04-25 )
  • 定価:¥ 2,039

 

こどもの発想。「コロコロバカデミー」ベストセレクション

  • 著者/訳者:天久聖一
  • 出版社:アスペクト( 2011-01-22 )
  • 単行本(ソフトカバー):240 ページ
  • ISBN-10 : 4757218486
  • ISBN-13 : 9784757218482
  • 定価:¥ 1,050

もう、お腹が痛い。痛いよー。

2001年~2004年に『コロコロコミック』に連載されていた読者投稿ページ「コロコロバカデミー」のベストセレクション。「100点以上の0点をとろう!」を合言葉に、10年の時を超えて小学生たちのおバカ投稿がいまよみがえる。

言わば「小学校のテスト問題大喜利」を現役小学生が答えるわけなんだけども、設問が絶妙。例えば。

・右の人物(織田信長など)にあなたの考えたニックネームをつけなさい
・発明家エジソンの発明品をひとつ答えなさい。
・シンデレラがお城に忘れてきた物はなんですか?まちがえて答えなさい
・お巡りさんはふだんどんなお仕事をしていますか?まちがえて答えなさい

この「まちがえて答えなさい」がすごい発明だと思う。こう言われただけで、小学生たちが途端に面白いことを言おう言おうとしているのがビンビン伝わってくる。シンデレラがわらじを忘れたりしてる。

もう一つの特徴が、回答がすべて小学生たちの手書きのまま掲載されていること。もう字が汚いだけで面白い。また、読者投稿ページから問題部分を切り取って書いてハガキに貼る、というスタイルだったため、問題文のイラストになんか足されてたり、そもそも切って貼る段階ですごく汚くなってたりする。バカドリル公式のこちらのページで作品の一部を見ることができるのでぜひ → 自由すぎる!こどもの発想。-バカドリル

ずっと読んでると不思議なもので、小学生たちのおバカ脳に大人脳が順応しはじめて「ハイハイ、またウ○コね」となってくる。トランス。しかし、途中途中に編者の回顧録が挟まっていて、この”大人目線からのコラム”によって大人脳にリセットされる効果がある。これもまた絶妙な構成。

オトナの大喜利にはない、ルール無用・下ネタ上等・問答無用のハイセンス回答たち。飛び道具だらけの校庭に、オトナはもう腹を抱えて床を転がるしかない。超オススメ!

関連リンク
自由すぎる!こどもの発想。-バカドリル
「こどもの発想。」蛇足。-バカドリル

 

オレンジ・アンド・タール (光文社文庫)

  • 著者/訳者:藤沢 周
  • 出版社:光文社( 2010-12-09 )
  • 文庫:248 ページ
  • ISBN-10 : 4334748848
  • ISBN-13 : 9784334748845
  • 定価:¥ 520

解説を書いているのがオードリーの若林なんですよ。

高校でアウトロー的存在のカズキは、スケボーに熱中して毎日を送る。今日も伝説のスケートボーダーのトモロウのところへ相談に行く彼の心に影を落としているのは、同級生が学校の屋上から落ちて死んだことだった。そして、目の前で事件は起きた。自分って何なんだよ、なんで生きてるんだよ―青春の悩みを赤裸々に描いた快作。

カズキが視点となる「オレンジ・アンド・タール」と、カズキが信頼を寄せる”伝説のボーダー”の浮浪者トモロウが視点となる「シルバー・ビーンズ」の中編二編からなる一冊。二編の時系列はほぼ同列で、カズキがトモロウと話しているとき、トモロウがどんな状態にいるかが後でわかるようになっている。

同級生の突然の自殺に、カズキをはじめ学校や友人たちは不安定な波の中にいる。グラグラな自分、キワキワな友人。青い春はひとりの死によりその濃度を高めて苦しめる。そこで「外の存在」であるトモロウさんに救いをよせるようになる。トモロウ=Tomorrowを期待するように。

「オレンジ・アンド・タール」では登場人物のほとんどが不安定な状態にいる。安定しているトモロウを頼るが、そこである事件が起こる。一方、「シルバー・ビーンズ」ではトモロウが自らを語りだす。彼もまた、不安定な波の中にいるのだ。

本作では全編を通しスケボーをメタファーとして、自分と世界の境界を見つけようとする。テールを蹴って飛んでいる間「無」になる瞬間を見る。繰り返される専門用語とスピード感と虚無。まるで禅のような世界にひきこまれる。

加えて、この文庫の解説をオードリーの若林が書いているのも必見。オードリーが「ダ・ヴィンチ」の表紙に登場したときも「オレンジ・アンド・タール」の単行本を手にしていたほど思い入れがある若林。「僕にとって「オレンジ・アンド・タール」は単なる小説ではない」と語る。

オードリー若林の解説は、作品解説というよりも一読者の視点による手記に近い。自分の中の世間に対するわだかまりと、それを芸人として昇華させるまでの間に「オレンジ・アンド・タール」が存在する。それがまた、『「オレンジ・アンド・タール」を読んだ男』として本編の一部になっているようにも感じるのだった。

カリスマなどいない。みんな自分と世界に折り合いをつけようとしている。自分を求める思春期にも、迷える大人にも、なんらかのヒントをくれる一冊です。

 

脳天気にもホドがある。 ―燃えドラ夫婦のリハビリ日記

  • 著者/訳者:大矢博子
  • 出版社:東洋経済新報社( 2010-10-22 )
  • 単行本(ソフトカバー):221 ページ
  • ISBN-10 : 4492043993
  • ISBN-13 : 9784492043998
  • 定価:¥ 1,365

「なまもの!」と言えば、泣く子も黙って本を読みだす老舗書評サイト。イノミスも創設時からお世話になっております。その「なまもの!」の美人巨乳主婦オーナー(自称)こと大矢博子さんの初の単著は『ドアラ絶賛!』の帯。どういうことなのかと言うと、

脳出血で倒れ、右半身麻痺と失語症のリハビリと闘う夫との日常を、愛情たっぷりに描く痛快エッセイ。自分が倒れないための本音の介護情報が満載。「リハビリより鉄道、介護よりドラゴンズ」という脳天気な夫婦の、発病から1年間のお笑いリハビリ日記。

ある日突然、旦那さんが脳出血で倒れてしまう。よりにもよってリビングで医療ドラマ「E.R.」を観ている最中に。救急車で運ばれる時にまで最近買った鉄道の本を持ってきてと頼む旦那さん。病院の予定を「その日はドラゴンズの開幕戦だから」とリスケジュールする大矢さん…。

病状自体は大変なことになっているのに、お笑いエピソード満載で展開する闘病記ならぬ”笑病記”。鉄道マニアの旦那さんは失語症で妻の名が言えなくても「クモハ」と車両の記号は言えちゃうし、立浪引退の報道に驚いた大矢さんが中日スポーツを手に病室に転がり込みあまりの衝撃のニュースでリハビリが進んだり。

サイトの日記の軽やかな筆致そのままに綴られる「愛より実務、涙より行動」とドタバタ続く毎日。それでもその合間には夫婦がお互いを気遣い想う姿がかいまみれて、爆笑から微笑み、ニヤニヤニコニコまでいろんな笑顔をもらえます。

病気の人も、介護する人も、笑ったり休んだりしたってオールオッケー。もしドラゴンズファンの妻が鉄道マニアの夫を介護したら、という、もうひとつの<もしドラ>。笑ってほっこりする一冊になってます。
 
以上です、編集長!

 

2011本格ミステリ・ベスト10

  • 出版社:原書房( 2010-12-03 )
  • 単行本(ソフトカバー):180 ページ
  • ISBN-10 : 4562046554
  • ISBN-13 : 9784562046553
  • 定価:¥ 893

今年もランキングの季節がやってきました。

2009年11月~2010年10月までに刊行された本格ミステリから、作家・書評家・大学のミステリ研・ブロガーまで約70人がそれぞれベスト5を選出して集計されたランキングです。今年の本格ミステリの集大成のランキング。若輩者ですが、僕も投票&コメントをさせていただきました(国内部門のみですが…)

ちなみに僕が投票したベスト5をちょっとご紹介。読んだ時の感想文にリンクをはってます。

1位:麻耶雄嵩『隻眼の少女』
2位:梓崎優『叫びと祈り』
3位:蒼井上鷹『堂場警部補の挑戦』
4位:米澤穂信『ふたりの距離の概算』
5位:大倉崇裕『小鳥を愛した容疑者』

こんな感じでございます。それぞれの作品につけたコメントは本誌を参照ください。識者達のトータルのランキングは面白いことになっておりますよー。ベテランと新人のがっぷりよつ!

今回は拡大版として「2000-2009 海外本格ミステリオールベスト・ランキング」も発表。麻耶雄嵩と小島正樹の2大インタビューも収録。今年の総括に、年末年始のお供に、クリスマスプレゼントの参考に、是非どうぞ。
 

© 2012 イノミス Suffusion theme by Sayontan Sinha