ジャージの二人 (集英社文庫)

  • 著者/訳者:長嶋 有
  • 出版社:集英社( 2007-01-19 )
  • 文庫:224 ページ
  • ISBN-10 : 4087461181
  • ISBN-13 : 9784087461183
  • 定価:¥ 450

非日常に来たものの、日常が頭の片隅から離れない。

会社を辞めたばかりの息子(32歳)が、グラビアカメラマンの父(54歳)に誘われ、避暑地・北軽井沢の山荘で過ごす夏休み。
二人は、亡き祖母が集めてきた古着のジャージを着て、ゆったりとした時間の流れに身をゆだねる。
だが、東京では息子の妻がよその男と恋愛中、父は3度目の結婚も黄色信号と、それぞれ抱える悩みがあった。
都会の喧騒を離れた生活の中で繰り広げられる、軽妙でユーモラスな会話の数々。

別荘を訪ねて、着替えて、過ごすだけ。携帯の電波も入らない田舎。派手なことは起きず、愛犬を散歩に連れ出したり、顔なじみのお宅を訪ねたり、五右衛門風呂を沸かすために薪を割ったり、自炊につかれてコンビニに行ったり…。

物語は息子視点で語られる。日常の描写やズレた会話などにクスクス笑いを散りばめながら、淡々と別荘に「住む」二人。でもお互い自分の家庭のことがちょっと気になる。そしてお互い相手の家庭がどうなってるのかちょっと気になっている。ジャージでブラブラしながら、普段着の自分がちょっとだけ残ってる。この非日常から戻りすぎない「ちょっと」具合が絶妙で、変化のない田舎暮らしの話なのになんか読まされてしまう。

もうひとつ重要なポイントが「畑の真ん中のある地点だけ手を空に伸ばすと携帯の電波が入る」という設定。

別荘に電話は通じてるので全く連絡が取れない訳ではない。でも色んな人がこの畑でメールを送受信する。妻や恋人に直接うまく言えないことを電波に乗せて。わざわざ畑までやってきて。この「電話で話さずにわざわざ足を運んでまでメールに託す」という行為が、人々の微妙な距離を表現してていいなぁと思いました。

なにも起きないけどなんか切なくてホッコリする物語。堺雅人・鮎川誠主演の映画も好評だったようです。ちょっと観てみたい。

ジャージの二人 [DVD]

  • 販売元:メディアファクトリー( 2009-03-06 )
  • 時間:153 分
  • 2 枚組 ( DVD )
  • 定価:¥ 4,935

 

明日の空

  • 著者/訳者:貫井 徳郎
  • 出版社:集英社( 2010-05-26 )
  • 単行本:176 ページ
  • ISBN-10 : 4087713547
  • ISBN-13 : 9784087713541
  • 定価:¥ 1,260

日本で新たに高校生活を始めた帰国子女の栄美(エイミー)。淡いときめきも別れの痛みも、いつかは青春の思い出になるはずだった。だが後に知ったのは・・・貫井徳郎が青春小説に仕掛けた「驚き」とは!?

物語は3つのパートに別れている。Part I が上記あらすじにもある帰国子女エイミーの淡い青春「In the high school」、Part II は英語の勉強と称して六本木で外国人の道案内をする(そしてチップをせびる)大学生ユージの友情「At Roppongi」、そしてPart III の「In the university」につながって…という構成。

Part I も Part II も直接は繋がらないんだけど、それぞれ何か変なことが起こっている。エイミーはクラスの一番人気の男子とのデートを何者かにことごとく邪魔されたあげく、突然ふられてしまう。ユージは六本木で黒人のアンディと出会いお互いの友情を深めていくが、アンディの行動が時々なんか変で、突然ラブホテル街を疾走したりする。

細かい違和感を重ねながら、Part I と Part II に解決をもたらすのがPart III 。実はとあるサプライズが仕掛けてあるのだけど…この手のサプライズが久しぶりだったせいか、素直に驚いてしまいました。そんな可能性、ぜんっぜん考えてなかった…。

帰国子女の淡い恋愛と、黒人との友情、どちらも底にあるのは「外国人と日本人」のギャップ。Part III では今度はこのギャップに光があたる。176ページという薄さながら物語の要素をギュッと詰め込まれてます。それゆえちょっと物足りなさも感じますが、それも贅沢というものでしょうか。

 

身代わり

  • 著者/訳者:西澤 保彦
  • 出版社:幻冬舎( 2009-09 )
  • ハードカバー:310 ページ
  • ISBN-10 : 4344017269
  • ISBN-13 : 9784344017269
  • 定価:¥ 1,470

身代わりの、身代わりの、身代わりは、身代わりの、身代わりだった―!?名作『依存』から9年。変わらぬ丁々発止の推理合戦、あの4人が長編で元気に帰ってきた!書き下ろし長編ミステリ。

『依存』からもうそんなに経つんだなぁ。『依存』で傷を負ったタックが回復するまでにこれほどの年月がかかったような錯覚も覚える。この作品単体でも成り立つようにできてるけど、『依存』の後日談となる作品であるので、事前に『依存』を読んでおくことをおすすめします。というか『依存』も過去シリーズ読んでおいたほうがいい作品だしなぁ…もうどこまで遡ったものやら…。

二つの事件が出てくる。それぞれに不自然な点がたくさんあり、いろいろ明らかになるにつれもうわけがわからなくなる。ひとつは深夜の公園で女性ともみ合ってる間に刃物が刺さって死んでしまった男の事件。男は一駅分離れた居酒屋で飲んでから歩いてその公園に向かっている。普段の行動範囲とは全く異なる公園に。強盗にしては不確実、女性と知り合いにしても待合せが不自然。しかも居酒屋を出た時点で男は手ぶら。

もう一つ、一軒家の中で女子高生とパトロール中の警官の絞殺死体が見つかるという事件。警官がその家を訪れるのは誰にも予測できないはず。しかも、女子高生と警官の死亡推定時刻には数時間の開きがある。犯人は家に留まっていた?にしてもなぜ来るかどうかわからない警官まで殺す?

過去のタックシリーズ同様、シリーズメンバーが酒をがぶがぶ飲みながらの推論を重ねるわけだけど、タックの回復が万全でもないので、仮設につぐ仮説、といったこれまでの作品よりは推論は厚くない。でもいくもの「?」がほろほろと吸い出され嵌められていく様子はもうおもしろくてしかたなし。

オススメです。この作品以降、またタックシリーズの刊行ペースが上がるといいなぁ。

8月 022006
 

講談社ミステリーランド第9回配本。ニューヨークに住む怪盗グリフィン。「あるべきものを、あるべき場所に」を信条とする彼の元に、メトロポリタン美術館のゴッホの自画像を盗んで欲しいという依頼が舞い込む。信条に反する依頼を断るグリフィンだったが、その絵は贋作だと聞かれされて…というのが第1部。第2部の舞台はいっきにカリブ海。ボコノン共和国のパストラミ将軍が保管している「人形」を奪うというミッションだが、人形とは実は『呪いの土偶』で…。

陰謀、陰謀、また陰謀。怪盗の冒険活劇はスリリングで、小さな逆転から大きなどんでん返しまで、一冊で何度もひっくり返される。楽しいなぁ。子供向けのシリーズですが、真作と贋作の目まぐるしい逆転劇は大人もついてくるのがやっとのロジック。子供のころからこんな「英才教育」を受けたらミステリが楽しくてしょうがないだろうなぁと羨ましい。

ちょっとハードボイルドで洒落もので憎めない怪盗グリフィン。可愛い挿絵の効果も上々。法月綸太郎が生み出したこのジュブナイルは、後期クイーン問題で悩める姿など微塵もない、わくわくする快作に仕上がっております。英題を”The Caribbean Ring Finger”にしているのがまた心憎い。

怪盗グリフィン、絶体絶命
法月 綸太郎
講談社 (2006/03)

西澤保彦『異邦人―fusion』

 な行の作家, 読書感想文  コメントは受け付けていません。
3月 052006
 
異邦人―fusion 異邦人―fusion
西澤 保彦

集英社 2005-01
売り上げランキング : 50,667
おすすめ平均

Amazonで詳しく見るby G-Tools

2000年12月31日。20世紀最後の日、実家に帰省すべく飛行機に乗った私。到着してみるとなんか様子がおかしい。持ち物はいくつかなくなっており、通っていたはずのバスもない。不思議に思って実家に電話してみると父が出た。23年前、何者かに殺害されて、死んだはずの父が…

主人公は幼いころこの家の養子になっており、血の繋がらない姉がいるのですが、この姉が同姓しか愛せない性癖の持ち主。主人公がタイムスリップした23年前というのは、頑固一徹の父と姉はこの性癖が原因で仲違いして、姉は家出同然の状態で音信不通になっている。そしてタイムスリップした4日後が、まさに父が殺害される日なのだ。

姉には幸せに暮らして欲しいし、父には死んで欲しくないし、でも父が死ねば姉が自由になるのかもしれんし、その他にも実家の後継者の問題、姉の恋人(女性)や姉に対する好意、タイムスリップに伴うルールなど複数の悩ましい要素が絡みあう。主人公悩みまくりである。

タイムスリップと殺人事件の真相に西澤保彦お得意のSFミステリの手腕が発揮されていますが、それにも増して親子愛・兄弟愛・同姓愛を一つの物語の中に編込んでいくため話の筋がとても深い。ラストに現れる”新しい絵”にはちょっとほろりと来る、まさにオトナのタイムスリップ譚であります。

© 2012 イノミス Suffusion theme by Sayontan Sinha