道尾秀介『ソロモンの犬』

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9月 232007
 

ソロモンの犬 (文春文庫)

もう、この作者には毎回してやられる。

夏。大学生4人の目の前で、教授の息子が交通事故にあう。突然走り出した飼い犬に引きずられて道路に飛び出してしまったのだ。従順だった飼い犬のあまりに不自然な動き、事故か?故意か?事件をきっかけに、4人の関係にも変化が現れ始める。

主人公が仲間の一人に片思いをしているわけなんですが、まぁーこれがドモるキョドるで大変なアワアワぶり。この人が語り手で大丈夫なのかと序盤こそ不安だったけども、もうこの主人公だからこその物語なんですわ。

終盤のひっくり返し、犬の習性を利用した謎解き、仲間の不和の真相など、本来ならそれぞれあまり関係ないバラバラの要素が、この主人公のキャラによって繋がって、ひとつの青春ものとして形になっているんだよなぁ。あのどんでん返しはすっかり油断していたので不覚にも声を出して驚いてしまった。

本格ミステリってわけでも恋愛ものってわけでもなく、どこのジャンルにいれてもちょっとはみ出る面白さの本作。青春なんてはみ出てなんぼ、ということか。

森見登美彦『太陽の塔』

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9月 162007
 

モテない主人公の妄想癖が京都のクリスマスに加速する。

2006年版「この文庫がすごい!」1位。森見登美彦のデビュー作。本作で日本ファンタジーノベル大賞を受賞。

女にもてず、同志の男とつるみ、馬鹿話で盛り上がり、どんどん対・女子力が落ちている京大生の主人公。奇跡的に彼女(水尾さん)ができ、必然的に振られてから、ストーカーまがいの行動を始め、「水尾さん研究」をまとめだす。容姿・行動共に突出せず、頭の中で思考こねくり回しているうちにどんどんおかしな自己正当化へ流れていく主人公。

この「おかしな自己正当化」が話をささえる屋台骨。無駄に多いボキャブラリーとやたら凝った言い回しで語られるどうでもいい話。おかしくておかしくて、この文体はやはり癖になるなぁ。自分がアホなことを言っているのはわかっている、わかっているけどのらずにおれない、そんなシャイさが見え隠れするのも面白さのひとつかもしれぬ。

大暴走するわけじゃないけど、部屋にこもっきりのわけでもない。ニュートラルなテンションで繰り出される青春群像。ジョニーをなだめ、京大生狩りから逃げ、叡山電車の灯りを眺め、部屋で飲んで雑魚寝。どうでもいい事を小さなドラマにしたい日々。

さえない、さえないが、ええじゃないか、ええじゃないか。

三木聡『図鑑に載ってない虫』

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9月 102007
 

図鑑に載ってない虫

時効警察の監督・脚本でゆるく濃厚な小ネタをお茶の間にお見舞いした、三木聡の初の小説。というより監督脚本した同名映画(→公式サイト)のノベライズ。

フリーライターの主人公は鬼編集長(美人)から死後の世界をルポするように命じられる。人を仮死状態にする「死にモドキ」を使って一回死ね、そして生き返れとのこと。できなかったら半殺し。っていうか死にモドキってなんだよ。アル中の相棒エンドーを引き連れてあてのない旅に…。

序盤から中盤にかけて全くメチャクチャなアレである。ボンネットに吐くわ、やくざ100人に追いかけられるわ、サロンパス丸めて吸ってラリるわ、である。無駄なセリフ、無駄なキャラ、無駄なコネタに彩られて、しかし気がつくと死にモドキの正体に迫っていたりする。

無駄すぎ、なんだけど、本筋、かつ、本筋すぎず、無駄すぎ、みたいなグラグラしたバランスを三木作品ではよく見るような気がする。シティーボーイズもそうだし。不安定な足場にツッコミを入れている間に家が建っているのである。なんとも不思議。

急に正気になり始める終盤の展開に驚き、あれよあれよと読了。そこに海を出してくるのがズルいよなぁ。

不思議な面白さ、と書くとそのまんまなんだけど、ガーッとアクセルを踏んで、ガーッとブレーキを踏んで、崖スレスレで止まるような、緩急の激しさがこの作品を良きものに留まらせているのではないかと思います。でも数々のコネタはやはり映像でみたいかもですな。

道尾秀介『片眼の猿 One‐eyed monkeys』

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7月 242007
 

片眼の猿―One-eyed monkeys (新潮文庫)

人は不完全な情報を得ると頭の中で足りない分を補完する。そこに「騙し」が生まれる。

まさに”道尾イヤー”だった昨年度(『向日葵の咲かない夏』『骸の爪』『シャドウ』)を経て、今年一発目の本作。盗聴専門の探偵事務所にやってきた、楽器メーカーの産業スパイについての依頼。「ちょっとした特技」で業界では有名な主人公・三梨には簡単な依頼のはずが…

ケータイ小説と配信されていたこともあり、章ごとのリーダビリティは高い。個性的なキャラも多く、サスペンスの持続も十分で、すいすいと読めて面白い。で、読んでいくとすぐに所々でちょっと不思議な描写があることに気づく。

帯の文句が「絶対見破れない!」とすごい煽りなのだけど、叙述トリック的には割とベーシックな仕掛けなのではないかと。すれっからしの読者が帯の煽りに乗っかってガッツリ読むと、ちょっいと肩透かしになりかねないですね。

ただ、この話が書かれた時の「対象となる読者」はミステリを読みなれてない層だと思われて、その層へは十分な驚きを与えられると思います。仕掛けとテーマが結びつきも程好く処理されてるしね。

それこそ「叙述トリックって何?」な人や、道尾秀介を初めて読む人にオススメな本だと思います。面白かったら『シャドウ』→『骸の爪』→『向日葵の咲かない夏』へどうぞ。まだまだすごいんだぞー道尾秀介はー。

7月 152007
 

ウケる技術 (新潮文庫)

  • 著者/訳者:水野 敬也 小林 昌平 山本 周嗣
  • 出版社:新潮社( 2007-03 )
  • 文庫:310 ページ
  • Amazonで詳細を見る

三月に文庫になっていたのね。会話の中のツッコミヤボケの「ネタ」を38の技術に分けて、ケーススタディと共に解説する、自称「コミュニケーションの教科書」。38って。多いな。

自分を含む状況を客観的に見る「俯瞰」、ツッコミの話法でボケたことを言う「フェイクツッコミ」、いきなり第三者に話を振る「切り替え」、実際と間逆のリアクションで発言する「分裂」、など、お笑い芸人などに見られるコネタ話法に一つ一つ名前をつけて解説しているのである。

「俯瞰」って言うと難しそうに聞こえるけど、用例をみると「えー始まって5分、会場はすっかり静まりかえっておりますが…」っ感じ。

最初こそ、「コミュニケーションはサービスである」「リスクを恐れず、リスクヘッジを身に着ける」なんてマジメなビジネス書っぽいことを書いているのだけど、読み進むにつれてビジネスっぽい分量がどんどん減っていき、合コンで女子を持ち帰るケーススタディが出てきて、「股に野望を、舌に技術を」なんて言い出したりする。結局女子か!女子目当てか!

この本自体がマジメな顔してバカなことをしている「分裂」の技術で構成されているのでした。全て体得するとちょっとイタイので、軽い気持ちでポイントのみ再確認するつもりで読むといいかもです。あと著者みんなは1976年生まれ男子で出身大学関東圏なので、ノリはだいたいそんな感じです。

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