ひっくりかえしすぎ!

忌み山で人目を避けるように暮らしていた一家が忽然と消えた。「しろじぞうさま、のーぼる」一人目の犠牲者が出た。「くろじぞうさま、さーぐる」二人目の犠牲者―。村に残る「六地蔵様」の見立て殺人なのか、ならばどうして…「あかじぞうさま、こーもる」そして…。六地蔵様にまつわる奇妙な童唄、消失と惨劇の忌み山。そこで刀城言耶が「見た」ものとは…。

前作『首無の如き祟るもの』が、30を超える謎を”たった一つの事実”でどんどんひっくり返していくものだったけど、今作も負けず劣らずの一点突破ぶり。ただ、前作よりも複雑さが増していて、あげく解決編では執拗なまでに解決をひっくり返していくので、すごいんだけど読み終わるともうヘトヘトである。

ホラー要素と謎解き要素を併せ持ち、細かい伏線をいくつも紛れ込ませ、30人近い登場人物の関係をさばき、40近い謎に全て解決を持たせ、胃もたれするほどのどんでん返しを設ける…。徹底している。徹底しているからこそ評価が分かれそう。すごいわぁと思うけど、ちょっと人に薦めづらい。

 

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

  • 著者/訳者:森見 登美彦
  • 出版社:角川グループパブリッシング( 2008-12-25 )
  • 文庫:320 ページ
  • Amazonで詳細を見る

こんなお話読んだこと無い。傑作!快作!そして、祝!森見登美彦氏ご成婚!

「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、下鴨神社の古本市に、大学の学園祭に、彼女の姿を追い求めた。けれど先輩の想いに気づかない彼女は、頻発する“偶然の出逢い”にも「奇遇ですねえ!」と言うばかり。そんな2人を待ち受けるのは、個性溢れる曲者たちと珍事件の数々だった。山本周五郎賞を受賞し、本屋大賞2位にも選ばれた、キュートでポップな恋愛ファンタジーの傑作。

「先輩」視点と「乙女」視点で語られる、春夏秋冬に分かれた4編の連作短編集。1編ごとに舞台は異なり、キテレツなキャラクターと奇怪な出来事が、夢幻と現実の狭間で右往左往する。あぁ、なんと表現したものか。

「先輩」視点は『太陽の塔』『四畳半神話体系』でもお馴染み非モテダメ学生なのだけど、「乙女」視点がまた、作者の妄想の賜物ともいえるピュア女子像。二つのすれ違う視点を行き来するのがとても楽しい。そして、一見、勢い任せの珍騒動に見えながらも、実は周到に伏線が張られていたりと油断ならず、大変おなかいっぱいのできばえ。

色とりどりで、ハイテンションで、それでいて柔らかい、幻想と妄想の爆発。これからの人生、思い出しては何回か繰り返し読み返す予感がする。

   

 

少女ノイズ (光文社文庫)

読者よ、表紙の萌え絵に欺かれるることなかれ。

ミステリアスなヘッドフォン少女の美しく冷徹な論理
欠落した記憶を抱えた青年と心を閉ざした孤独な少女。彼らが出会った場所は無数の学生たちがすれ違う巨大な進学塾。夕陽に染まるビルの屋上から二人が見つめる恐ろしくも哀しい事件の真実とは――。
気鋭の作家が送る青春ミステリーの傑作!

塾の屋上でいつも死体のようにぐったり寝てる少女・冥(でも全国模試トップ)と、その世話役のバイトになった高須賀(趣味:殺人現場の写真集め)の二人が主人公。双方人付き合いがドライなのだけど、会話するうちに不思議と共鳴していく。表紙からしてライトノベル的展開になろうと思われど、しかしまぁなんともギットギトの本格ミステリ魂が味わえる連作短編集なのですよ、奥さん。

どれもこれもネタ濃縮で、日常の謎・ミッシングリンク・人間消失・密室(心理も物理も!)もがいくつも絡み合う。日常の謎+トラウマ「Crumbling Sky」、人体切断+ABC殺人+密室殺人「四番目の色が散る前に」、呪い+人間消失「Fallen Angel Falls」、密室+幽霊+ストーカー「あなたを見ている」、密室+21世紀本格「静かな密室」の全5編。ネタを詰め込み過ぎて展開が駆け足な印象もあるけれど、そのぶん濃厚な読後感。胃もたれ寸前。

トリックやプロットだけでも見所多しですが、どの作品にも『思春期』が見え隠れしているのがもう一つの特徴。学習塾が舞台なため、登場人物がほぼ10代。犯人の自意識だったり、被害者のトラウマだったり、探偵役の自我だったり、さまざまな意識がもつれた末に不可思議な事件が生まれる。技巧と心理の両面から固められた物語は深い。

キャラが立ってるうえに、クールかつシャープな切れ味の本格ミステリ。ラノベ層にもミステリ層にもオススメできる逸品だと思います。続編も期待しちゃうなー。

 

たい焼の魚拓 単行本

おふざけのつもりがライフワークに。

今や絶滅寸前の「一匹焼き」たい焼37種を集めた魚拓集。日本各地で人知れず生息する天然たい焼の、体長・値段・採取地など全データを掲載すると共に、それぞれにまつわるエピソードを添えて紹介した「レッドデータブック」。

この本では、一匹一匹金型から作られるたい焼きを「天然もの」と呼ぶ(反対に鉄板で量産されるものを「養殖」と呼ぶ)。そしてその「天然」たい焼きを魚拓にとってしまっているのである。こんな感じ。以外と立派な魚拓なのだった。しかも店ごとに違う。さすが天然。

まえがきによると、最初はおふざけで魚拓を取って、部屋に飾って、来客から何の魚と聞かれてエヘヘって感じだったらしい。「天然の採取」という使命を自分でうっかり背負ってしまったがためにここまで来てしまったみたいである。おふざけでもなんでもずっと続けると、自分で「続ける意味」をつけてしまうものだなぁ、と思った。

面白いのは本に載せているのは魚拓とデータだけで、本物の鯛焼きや店舗の写真は一切載ってないこと。鯛焼きのガイド本にもなりうるのにオール白黒です。なんてストイック。ミーハーではない、本物の鯛焼き好きにこそ必要な本なのではなかろうか。

 

ラットマン (光文社文庫)

前々作『片眼の猿』、前作『ソロモンの犬』→感想と来て本作『ラットマン』。猿・犬・ネズミて、干支か、とツッコミたくなるところだけどもまぁまぁまぁ読んでくださいよ。道尾秀介の最新作にて、これまでの最高傑作であります。

姫川はアマチュアバンドのギタリストだ。高校時代に同級生3人とともに結成、デビューを目指すでもなく、解散するでもなく、細々と続けて14年になり、メンバーのほとんどは30歳を超え、姫川の恋人・ひかりが叩いていたドラムだけが、彼女の妹・桂に交代した。そこには僅かな軋みが存在していた。姫川は父と姉を幼い頃に亡くしており、二人が亡くなったときの奇妙な経緯は、心に暗い影を落としていた。
ある冬の日曜日、練習中にスタジオで起こった事件が、姫川の過去の記憶を呼び覚ます。――事件が解決したとき、彼らの前にはどんな風景が待っているのか。

タイトルの「ラットマン」とは、見方によって人の顔に見えたりネズミの顔に見えたりする”多義図形”の名称(→こちらの下のほうで現物が見られます)。あんなに叙述トリックを仕掛け続けた作者が、「人はありのままのものを見ているわけではない」という警句を改めてタイトルにすえてるわけですよ。

姫川の過去の事件と現在の事件を絶妙に組み合わせ、二層三層に「ラットマン」を仕掛けてくるそのミステリとしての出来に舌を巻きっぱなし。それでいて、登場人物たちの「青春の終わり」を描き出すそのストーリーテリングの絶妙さ。読了後の余韻にひたり、読み返してまた唸り。

過去も未来も、男も女も、真相も犯人も、目にしたありのままではない。グラグラ揺れる視点とやがて訪れる終わり。早くも2008年の収穫。道尾秀介、どこまで上り続けるのだろう。

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