ま行の作家 Archive
道尾秀介『片眼の猿 One‐eyed monkeys』
人は不完全な情報を得ると頭の中で足りない分を補完する。そこに「騙し」が生まれる。
まさに”道尾イヤー”だった昨年度(『向日葵の咲かない夏』『骸の爪』『シャドウ』)を経て、今年一発目の本作。盗聴専門の探偵事務所にやってきた、楽器メーカーの産業スパイについての依頼。「ちょっとした特技」で業界では有名な主人公・三梨には簡単な依頼のはずが…
ケータイ小説と配信されていたこともあり、章ごとのリーダビリティは高い。個性的なキャラも多く、サスペンスの持続も十分で、すいすいと読めて面白い。で、読んでいくとすぐに所々でちょっと不思議な描写があることに気づく。
帯の文句が「絶対見破れない!」とすごい煽りなのだけど、叙述トリック的には割とベーシックな仕掛けなのではないかと。すれっからしの読者が帯の煽りに乗っかってガッツリ読むと、ちょっいと肩透かしになりかねないですね。
ただ、この話が書かれた時の「対象となる読者」はミステリを読みなれてない層だと思われて、その層へは十分な驚きを与えられると思います。仕掛けとテーマが結びつきも程好く処理されてるしね。
それこそ「叙述トリックって何?」な人や、道尾秀介を初めて読む人にオススメな本だと思います。面白かったら『シャドウ』→『骸の爪』→『向日葵の咲かない夏』へどうぞ。まだまだすごいんだぞー道尾秀介はー。
新潮社 (2007/02/24)
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水野敬也/小林昌平 /山本周嗣 『ウケる技術』
三月に文庫になっていたのね。会話の中のツッコミヤボケの「ネタ」を38の技術に分けて、ケーススタディと共に解説する、自称「コミュニケーションの教科書」。38って。多いな。
自分を含む状況を客観的に見る「俯瞰」、ツッコミの話法でボケたことを言う「フェイクツッコミ」、いきなり第三者に話を振る「切り替え」、実際と間逆のリアクションで発言する「分裂」、など、お笑い芸人などに見られるコネタ話法に一つ一つ名前をつけて解説しているのである。
「俯瞰」って言うと難しそうに聞こえるけど、用例をみると「えー始まって5分、会場はすっかり静まりかえっておりますが…」っ感じ。
最初こそ、「コミュニケーションはサービスである」「リスクを恐れず、リスクヘッジを身に着ける」なんてマジメなビジネス書っぽいことを書いているのだけど、読み進むにつれてビジネスっぽい分量がどんどん減っていき、合コンで女子を持ち帰るケーススタディが出てきて、「股に野望を、舌に技術を」なんて言い出したりする。結局女子か!女子目当てか!
この本自体がマジメな顔してバカなことをしている「分裂」の技術で構成されているのでした。全て体得するとちょっとイタイので、軽い気持ちでポイントのみ再確認するつもりで読むといいかもです。あと著者みんなは1976年生まれ男子で出身大学関東圏なので、ノリはだいたいそんな感じです。
新潮社 (2007/03)
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三津田信三『首無の如き祟るもの』
ホラー映画とか、怪談とか、百物語とか、ホラーにからっきし弱い僕である。もう怖い話とかダメなんですよ。だって怖いんだもの。なのでホラー寄りと噂の三津田信三は読んだことがなかったのですが、本作、かなり本格ミステリ度高めということで読んでみました。あんまり怖くなかったよ。よかったよかった。
奥多摩に代々続く秘守家の「婚舎の集い」。
二十三歳になった当主の長男・長寿郎が、三人の花嫁候補のなかからひとりを選ぶ儀式である。
その儀式の最中、候補のひとりが首無し死体で発見された。
犯人は現場から消えた長寿郎なのか?
しかし逃げた形跡はどこにも見つからない。
一族の跡目争いもからんで混乱が続くなか、そこへ第二、第三の犠牲者が、
いずれも首無し死体で見つかる。
古く伝わる淡首様の祟りなのか、
それとも十年前に井戸に打ち棄てられて死んでいた長寿郎の双子の妹の怨念なのか──。
いやもうド本格ですよ。戦前と戦後におきた二つの殺人事件が本作のコア。幾多の「首無し死体」を巡り、軽く30を超える謎が、”たった一つの事実”を元にどんどんひっくり返っていく様子は圧巻。複雑な作りなのにちょっとの糸口でスルスルほどけるのがスゴイ。
この話、事件を担当した駐在の奥さん(小説家)が当時を振り返りながら書いた小説、という形をとっている。未解決事件を再度まとめることで全体像をつかみたい、という狙いで書かれてるんですが、この全体を覆う枠も効果をあげているのです。読んでる最中は読みづらかったり乗れなかったりした部分(特に解決のあたり)もあったんだけど、あとから考えるとあーこの「作中作」構成にやられてるのか、と思い当たる節あり。つくづく良くできてる。
直球本格なので、その辺りのコードを心得てる人ほどこの作品はオススメ。これは今年のベスト入るなぁ。
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森見登美彦『四畳半神話大系』
先日『夜は短し歩けよ乙女』で吉川英治文学賞を受信した森見登美彦、初めて読みましたよ。面白い!
デビュー二作目にあたる『四畳半神話大系』の舞台は京都の四畳半。4つの章からなる話だけど、すべての章の出だしは同じ。大学に入ってからの2年間がいかに無意味なものだったかを語るモノローグ。出てくる人や場所や時間は同じなのに状況は4つの章で少しずつ異なる。最初は何が起こったかわからず、しかも全く同じ文章のコピペも多数あって手抜きかぁとか思ったけど、全部通して読んでその構成力に驚いた。そんな絵を見せるかぁ。
どうでもいいことに難解な日本語をあてていく主人公の独特の語り口も面白い。でも最後まで読むと、この語り口が悪友やだらだらした生活に対する「照れ隠し」のように見えてきたのですよ。上滑りの言葉の中に胸に閉まった本心が覗いてきて、なんだか急に主人公が生身になった気がしましたよ。本音で話せない時ってなんか変なテンションで毒づいたりとか、語尾で笑い取ったりとかするよねぇ。
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道尾秀介『骸の爪』
取材のために滋賀県の仏所・瑞祥房を訪れた小説家・道尾秀介。そこには俗世から離れてひたすらに仏像を作り続ける人々がいた。その夜、仏所の中を出歩いた道尾は不可解な現象に遭遇する。口を開けて笑う千手観音、頭から血を流す仏像、茂みの向こうから聞こえる「マリ…マリ…」という声…。20年前に失踪した仏師の謎、天井についた血痕、そしてまた仏師が消え…。
舞台はほとんど瑞祥房の中で、関係者も10名に満たない。ページ数も400P弱。その中に仕込まれた伏線の多さ、そして物理トリックも心理トリックも絡めた全体像たるや、よくここまで詰め込んだなぁと感嘆。ラスト近くはめくってもめくっても新展開で、伏線の繰り出し方が巧いです。見事。
舞台が制限されているからか、読者が作品世界に浸りやすく、仏所という特殊な空間での「考え方」や「出来事」が受け入れやすくなっているのも成功の要因の一つかと(京極夏彦『鉄鼠の檻』などに通じる感じ)。無駄な要素ほとんどなし、謎と解決に純粋に奉仕する小説、これぞ本格ミステリだ。と言ってしまおう。
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やってる人 : INO