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ま行の作家 Archive

三雲岳斗『少女ノイズ』

読者よ、表紙の萌え絵に欺かれるることなかれ。

ミステリアスなヘッドフォン少女の美しく冷徹な論理
欠落した記憶を抱えた青年と心を閉ざした孤独な少女。彼らが出会った場所は無数の学生たちがすれ違う巨大な進学塾。夕陽に染まるビルの屋上から二人が見つめる恐ろしくも哀しい事件の真実とは――。
気鋭の作家が送る青春ミステリーの傑作!

塾の屋上でいつも死体のようにぐったり寝てる少女・冥(でも全国模試トップ)と、その世話役のバイトになった高須賀(趣味:殺人現場の写真集め)の二人が主人公。双方人付き合いがドライなのだけど、会話するうちに不思議と共鳴していく。表紙からしてライトノベル的展開になろうと思われど、しかしまぁなんともギットギトの本格ミステリ魂が味わえる連作短編集なのですよ、奥さん。

どれもこれもネタ濃縮で、日常の謎・ミッシングリンク・人間消失・密室(心理も物理も!)もがいくつも絡み合う。日常の謎+トラウマ「Crumbling Sky」、人体切断+ABC殺人+密室殺人「四番目の色が散る前に」、呪い+人間消失「Fallen Angel Falls」、密室+幽霊+ストーカー「あなたを見ている」、密室+21世紀本格「静かな密室」の全5編。ネタを詰め込み過ぎて展開が駆け足な印象もあるけれど、そのぶん濃厚な読後感。胃もたれ寸前。

トリックやプロットだけでも見所多しですが、どの作品にも『思春期』が見え隠れしているのがもう一つの特徴。学習塾が舞台なため、登場人物がほぼ10代。犯人の自意識だったり、被害者のトラウマだったり、探偵役の自我だったり、さまざまな意識がもつれた末に不可思議な事件が生まれる。技巧と心理の両面から固められた物語は深い。

キャラが立ってるうえに、クールかつシャープな切れ味の本格ミステリ。ラノベ層にもミステリ層にもオススメできる逸品だと思います。続編も期待しちゃうなー。

宮嶋康彦『たい焼の魚拓』

おふざけのつもりがライフワークに。

今や絶滅寸前の「一匹焼き」たい焼37種を集めた魚拓集。日本各地で人知れず生息する天然たい焼の、体長・値段・採取地など全データを掲載すると共に、それぞれにまつわるエピソードを添えて紹介した「レッドデータブック」。

この本では、一匹一匹金型から作られるたい焼きを「天然もの」と呼ぶ(反対に鉄板で量産されるものを「養殖」と呼ぶ)。そしてその「天然」たい焼きを魚拓にとってしまっているのである。こんな感じ。以外と立派な魚拓なのだった。しかも店ごとに違う。さすが天然。

まえがきによると、最初はおふざけで魚拓を取って、部屋に飾って、来客から何の魚と聞かれてエヘヘって感じだったらしい。「天然の採取」という使命を自分でうっかり背負ってしまったがためにここまで来てしまったみたいである。おふざけでもなんでもずっと続けると、自分で「続ける意味」をつけてしまうものだなぁ、と思った。

面白いのは本に載せているのは魚拓とデータだけで、本物の鯛焼きや店舗の写真は一切載ってないこと。鯛焼きのガイド本にもなりうるのにオール白黒です。なんてストイック。ミーハーではない、本物の鯛焼き好きにこそ必要な本なのではなかろうか。

道尾秀介『ラットマン』

前々作『片目の猿』、前作『ソロモンの犬』と来て本作『ラットマン』。猿・犬・ネズミて、干支か、とツッコミたくなるところだけどもまぁまぁまぁ読んでくださいよ。道尾秀介の最新作にて、これまでの最高傑作であります。

姫川はアマチュアバンドのギタリストだ。高校時代に同級生3人とともに結成、デビューを目指すでもなく、解散するでもなく、細々と続けて14年になり、メンバーのほとんどは30歳を超え、姫川の恋人・ひかりが叩いていたドラムだけが、彼女の妹・桂に交代した。そこには僅かな軋みが存在していた。姫川は父と姉を幼い頃に亡くしており、二人が亡くなったときの奇妙な経緯は、心に暗い影を落としていた。
ある冬の日曜日、練習中にスタジオで起こった事件が、姫川の過去の記憶を呼び覚ます。――事件が解決したとき、彼らの前にはどんな風景が待っているのか。

タイトルの「ラットマン」とは、見方によって人の顔に見えたりネズミの顔に見えたりする”多義図形”の名称(→こちらの下のほうで現物が見られます)。あんなに叙述トリックを仕掛け続けた作者が、「人はありのままのものを見ているわけではない」という警句を改めてタイトルにすえてるわけですよ。

姫川の過去の事件と現在の事件を絶妙に組み合わせ、二層三層に「ラットマン」を仕掛けてくるそのミステリとしての出来に舌を巻きっぱなし。それでいて、登場人物たちの「青春の終わり」を描き出すそのストーリーテリングの絶妙さ。読了後の余韻にひたり、読み返してまた唸り。

過去も未来も、男も女も、真相も犯人も、目にしたありのままではない。グラグラ揺れる視点とやがて訪れる終わり。早くも2008年の収穫。道尾秀介、どこまで上り続けるのだろう。

道尾秀介『ソロモンの犬』

もう、この作者には毎回してやられる。

夏。大学生4人の目の前で、教授の息子が交通事故にあう。突然走り出した飼い犬に引きずられて道路に飛び出してしまったのだ。従順だった飼い犬のあまりに不自然な動き、事故か?故意か?事件をきっかけに、4人の関係にも変化が現れ始める。

主人公が仲間の一人に片思いをしているわけなんですが、まぁーこれがドモるキョドるで大変なアワアワぶり。この人が語り手で大丈夫なのかと序盤こそ不安だったけども、もうこの主人公だからこその物語なんですわ。

終盤のひっくり返し、犬の習性を利用した謎解き、仲間の不和の真相など、本来ならそれぞれあまり関係ないバラバラの要素が、この主人公のキャラによって繋がって、ひとつの青春ものとして形になっているんだよなぁ。あのどんでん返しはすっかり油断していたので不覚にも声を出して驚いてしまった。

本格ミステリってわけでも恋愛ものってわけでもなく、どこのジャンルにいれてもちょっとはみ出る面白さの本作。青春なんてはみ出てなんぼ、ということか。

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森見登美彦『太陽の塔』

モテない主人公の妄想癖が京都のクリスマスに加速する。

2006年版「この文庫がすごい!」1位。森見登美彦のデビュー作。本作で日本ファンタジーノベル大賞を受賞。

女にもてず、同志の男とつるみ、馬鹿話で盛り上がり、どんどん対・女子力が落ちている京大生の主人公。奇跡的に彼女(水尾さん)ができ、必然的に振られてから、ストーカーまがいの行動を始め、「水尾さん研究」をまとめだす。容姿・行動共に突出せず、頭の中で思考こねくり回しているうちにどんどんおかしな自己正当化へ流れていく主人公。

この「おかしな自己正当化」が話をささえる屋台骨。無駄に多いボキャブラリーとやたら凝った言い回しで語られるどうでもいい話。おかしくておかしくて、この文体はやはり癖になるなぁ。自分がアホなことを言っているのはわかっている、わかっているけどのらずにおれない、そんなシャイさが見え隠れするのも面白さのひとつかもしれぬ。

大暴走するわけじゃないけど、部屋にこもっきりのわけでもない。ニュートラルなテンションで繰り出される青春群像。ジョニーをなだめ、京大生狩りから逃げ、叡山電車の灯りを眺め、部屋で飲んで雑魚寝。どうでもいい事を小さなドラマにしたい日々。

さえない、さえないが、ええじゃないか、ええじゃないか。

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