2月 152011
 

「働けど働けど我が暮らし楽にならざり」と言っていた石川啄木、実はあんまり働いていないって!

啄木の短歌は、とんでもない!(談・糸井重里)
親孝行や働き者のイメージは間違いだった!? お金大好き、働くの嫌い。借金大王で、女ったらし。そんな「石川くん」の本当の姿をユーモラスに描いたエッセイ集。啄木短歌、衝撃の現代語訳つき。

石川啄木といえば、ぢっと手をみたり、泣きながら蟹と戯れたり、母をおぶって歩けなかったり、なんか切なげなイメージだったんですが、いやいや全然違いまっせ、というのがこの本。もとは「ほぼ日刊イトイ新聞」の連載。

まず啄木の短歌を一つ大胆に現代語訳して、次に作者から啄木に手紙を書いて語りかけるような章構成。当時の文献も紐解いて、そこで浮かび上がるのは啄木の愛すべきスチャラカ具合。

妻子を故郷に置いといて都会でプロの女性とイチャイチャしたり、仕事をサボって抜け出したり、奥さんに読まれないようにローマ字で日記を書いたり、母をおぶったのも最初は冗談(戯れ)のつもりだったり…

そんな啄木をイジリ倒す作者。愛あるゆえのイジリなのはわかるのだけど、ちょっとイジリがしつこくて「芸」まで昇華してないかなぁ…。

もとは土日に連載していたので、同じネタでイジるのが続いても連載時は気にならなかったかもしれないけど、こうして一気にまとめて読んでしまうとちょっと胃にもたれる。もうプロの女性とイチャイチャしてた件はいいじゃないか、許してやりなさいよ、とか思ってしまう。

古典を現代まで降ろしてきて、新しいイメージをお披露目する心意気は好き。文中の可愛いイラストも一役買っている。石川くんったらもうー、という気分になったのだけど、石川くんのことこんなにイジリ倒してる人がいるよどう思う?とも聞いてみたくなっちゃう。心意気は好きだけど、姿勢にちょっと馴染めない本だなぁ…と思ってしまいました。

11月 032010
 

け、傑作きました…。

寒村でおきた殺人事件の犯人と疑われた大学生・静馬を救った隻眼の少女探偵・みかげ。事件は解決したが、18年後に再び悪夢が…。古式ゆかしき装束を身にまとい、美少女探偵・御陵みかげ降臨!

書き下ろし長編。「第一部 一九八五年・冬」「第二部 二〇〇三年・冬」の二部構成。

「スガル様」という神を奉る旧家で起こる連続首切り殺人事件。跡取り、伝承、信仰などの要因がいくつも絡み合い、事件は混迷を極め、多数の犠牲者を出すも、みかげの推理をもって解決がくだされる。ここまでが第一部。まだ全体の半分だけど、ここまででもひとつの長編としてのクオリティを十分保っている。

しかしまだ幕は降りない。第二部。18年後。全く同じ手口で殺人は繰り返される。あの解決は偽りだったのか。経ちすぎた年月は「スガル様」を取り巻く状況も変え、動機はますますわからなくなる。

旧家の血脈を題材に扱い、派手な不可能状況はなく、物証やアリバイなどの手がかりは細々としている。探偵が美少女&巫女衣装(正確には水干)であることを除くと麻耶作品にしては驚くほど地味な道筋を行く。

しかし読み終わってみると、もう、全体の構造に感嘆せずにいられない。全420ページ中、怒涛の運命が待ち受けるのは残りわずか20ページの地点から!広がりすぎた18年越しの大風呂敷が、きれいに畳まれるどころかテーブルクロスのように引き抜かれる。とても立ったままでいられない。膝をたたくどころか、膝をついてしまう真相。

ネタバレを恐れて感覚的な感想になってすいません。間違いなく今年の本格推理の収穫のひとつです。すごすぎます。すごすぎますよ。

10月 292010
 

「人は僕を『貴族探偵』と呼ぶね」

高級ジャケットに身を包み、使用人を従えて、突然事件現場に現れる『貴族探偵』。なんだか知らんけど警察上層部にまで顔が利く偉いご身分。退屈しのぎに探偵をしてると居座って、現場の美女に歯の浮く台詞をはきながら、どかっと座って使用人に現場検証と聞き込みを任せる貴族探偵。

自分は動かないまま推理する安楽椅子探偵かな…?と思いつつ読んでると、広間に人が集められる。「さて皆さん」と前口上が始まりさていよいよ貴族探偵の口から推理が、という場面で「ではあとは執事の山本が説明します」

お前がやるんちゃうんかい!

というツッコミを読者と登場人物からうける貴族探偵はこう言う。「推理なんて面倒なとこは使用人に任せておけばよいのです」

そんな貴族探偵が活躍する短編を5編集めた短編集。事件の複雑さはさすがの摩耶雄嵩クオリティ。密室作りに失敗してる現場から立ち上がる難解論理、雪に閉ざされた館で三人の人物がじゃんけんのように互いを殺し合ってる現場、殺害現場の別荘から落とされた落石など曲者ぞろい。

貴族がボンクラで使用人が賢い、というのは「黒後家蜘蛛の会」など昔からよく見られる構造。だけども、本作は「名探偵 木更津悠也」と同様に名探偵を記号と実像に分解してしまう。名探偵役は自身を名探偵として認識し、それを成立させるために裏方が働く。まるで名探偵という名の文化財を守るように。

神様が神社を建てた訳ではない。社長が全部の仕事をしてる訳ではない。というわけで名探偵が推理しなくてもいいじゃない、という展開は、なんでやねん!と笑いを誘うその一方、「名探偵」ってなんだろね、と問いかけてるよう。

ともあれ設定も事件もオススメの逸品。特にアンフェアすれすれの「こうもり」にはのけぞった。いいのかいなーあんなことしてー。
 

8月 312010
 

今までの高田さんの本で一番面白いよ。
ーーー他は読んだことないけど。(茂木)

「五時から男」高田純次と「アハのおじさん」茂木健一郎の対談本。

茂木健一郎が、「適当」で「一人高度成長期」状態の高田純次にこそ日本を元気にする秘訣があるのではないか、と高田純次から話を聞き出していく形になっている。

だが一方、「テキトー男」高田純次は冒頭にこんな告白をする。

適当男っていうのは、二年くらい前から言われるように鳴ったんですけど、自分から言い出したわけじゃないんです。でも言葉だけが一人歩きしちゃって、「あれ?どうやったら適当になるんだっけ」って分かんなくなちゃった。
(中略)
例えば便所行っても、水を流さない方がいいのか、お店は行っても、金払わないで出てきた方がいいのか。右折禁止の道は必ず右に曲がるようにしてたら適当かもしれないけど、捕まっちゃうしね(笑)そういうことに悩んでますね。

「五時から男」や「元気が出るテレビ」で定着し、最近になって「テキトー」さを再評価されている高田純次は、自らについたレッテルと自身のギャップをちゃんと考えてるのだ。

そんな高田純次が語る。キーワードは「負け好き」と「セルフプロデュース」

自らを「負け好き」と語る高田純次は、負けることで得るものの大切さを重視している。

絶対に負けた方が、ステップアップになりますよ。麻雀でも勝ったときより負けたときに「どうしてああなったんだろう」って考えちゃいますもん。ただ勝って「よかった」と思ってるより、その方がいい。

「一回負けても、別の勝負で勝てばいい」。大学受験に失敗して専門学校に行き、会社勤めを経て30歳から劇団・東京乾電池に入った高田。異色の経歴から現在の地位になるまで、負けては考えて、やりたいことに辿りついてきている。

また、「五時から男」から貼られたレッテルを利用して、どうやったら面白く見られるかを、状況や自分の年老いた肉体まで俯瞰して考える。時には裸にもなる。役割を演じる、ということを常に意識している。無意識のうちに「セルフプロデュース」を行っている。

茂木健一郎もちゃんと仕事をしていて、高田純次が思っていたことに脳科学の立場から裏付けをとって安心させてあげて、さらにトークを引き出している。たまに下ネタを振られてアワアワしていたりする(「茂木先生はまだ元気だから股間でテーブルの一つも持ち上がるでしょ(笑)」とか言われている)

不良がたまに見せる優しさのように、高田純次がたまに見せる真顔にはドキリとするものがある。

「適当日記」などとは違い、真顔の高田純次を見れる一冊。その姿はまさにプロフェッショナルで、カッコいい。

7月 182010
 

舞台は京都ではなく新興住宅地、主人公は腐れ大学生じゃなくて小学生男子。森見登美彦、新境地。

小学四年生のぼくが住む郊外の町に突然ペンギンたちが現れた。この事件に歯科医院のお姉さんの不思議な力が関わっていることを知ったぼくは、その謎を研究することにした。未知と出会うことの驚きに満ちた長編小説。

というあらすじだけ見ても何がなにやら。「ペンギン」は何かの比喩なのかな?と思ったら、本物のペンギン。

主人公は小学生だけど、そこは森見登美彦らしく、とても理屈っぽい、ませた文系男子。「ぼくは小学四年生だが、大人に負けないぐらいいろいろなことを知っているし、努力をおこたらないが、将来はきっとえらい人間になるだろう。」こんな感じである。

このちょっと変な男子と、友達との冒険、女子との会話、ガキ大将からの攻撃、といった小学生の日常を描きながら、少しづつSFでファンタジーな要素が入り込んでくる。タイトルはペンギン・ハイウェイだけど、事件はペンギンだけじゃ全然終わらない。住宅地は少しづつたいへんなことになっていく。

この「少しづつ」たいへんなことに、というのが実はポイントだと思っている。次々事件を起こして読者を退屈させない方向に持って行くこともできるけど、このお話はあくまで「少しづつ」。誰もが抱いた子供のころの不安(死んだらどうなるの?とか)や、信頼できる大人たちとの会話、哲学的なやりとりや、ちょっとした思春期の芽生えなんかも散りばめて、森見登美彦流の「少年時代」をたっぷり書いてくれる。それはとても暖かく、いとおしい。

最初は、こんな男子ホントにいたらかわいくないだろうなー、という印象なんだけど、読み終わることにはもう、ギュッと抱きしめて頭をなでてやりたくなる愛しさ。ひと夏の冒険。ちいさな恋。またひとつ、森見登美彦に引き出しが増えた。それはとても嬉しいことだと思う。